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第62回 AI最新事情(6)~医療におけるAI

2020年4月6日掲載

2018年から実業務への応用事例が急速に増え、普及期に入ったと言われているAI(人工知能)。経済学者たちはAIが、2030年までに世界全体のGDPを15兆ドル以上増加させると予測しています。これから取り組む企業も多いと考え、本コラムでは産業界におけるAI有識者として知られているマーク・ミネビッチ氏の見識に基づいて、世界のAI最新事情を6回にわたってお伝えしてきました。最終回の今回は、医療におけるAIの活用について、もう少し詳しく知りたいというリクエストにお応えして、このテーマを深掘りします。

第62回 AI最新事情(6)~医療におけるAI

前回までのおさらい

美咲いずみは、29歳とまだ若いが、既にいくつかの顧問先を持つフリーランスのITコンサルタントだ。仕事柄最新ITの情報収集は欠かせない。

今日も、知る人ぞ知る世界的なAI有識者であるマーク・ミネビッチ氏の講演会に参加し、講演後の別室で質疑応答が行われると聞いて駆け付けたのであった。

前回の「AIが金融業界に与える影響」に関する質疑応答に引き続き、今回も質疑応答の模様をマーク氏といずみの対話形式でお届けする。

地域別の医療分野におけるAIの動向

いずみ:ここまでAIの活用で未来がどのように変わっていくのか、その全体像と産業分野別の動向について伺いました。産業としては、医療・医薬・ヘルスケア、製造業、金融業について詳しく教えていただきました。他の産業についてもお伺いしたいのですが、お時間をかなりいただいてしまったようです。最後に医療分野について、もう少し詳しく教えていただきたいのですが。

マーク:おお。あまりに楽しくて時間を忘れていました。では、そのリクエストに最後にお応えして終わることにしましょう。どういうことが聞きたいですか?

いずみ:医療やヘルスケアに関するAIの市場規模や成長性に関して、世界全体または米国における動向について教えていただきました(第59回)。地域別の動向はどうなのでしょうか。

マーク:北欧、中国、カナダの動向については説明できます。この3地域が特に重要だと考えているのですが、それでいいですか?

いずみ:はい。

マーク:では北欧諸国から。AI関連分野の国際的な専門家を集めた非営利団体NAII(Nordic Artificial Intelligence Institute)によれば、北欧の医療会社や製薬会社におけるAIの導入はまだ初期段階です。ただし病院や管理医療、個人の健康管理においては既に重要なソリューションとなっています。北欧ではデジタル医療に最も関心が集まっていて、現在はスウェーデンが一歩リードしています。技術的なトレンドでは、データの品質、プライバシー、セキュリティの3つが最も重要視されています。

続いて中国です。世界の医療AI市場で、中国はいまやトップに立とうとしています。既に英国を追い抜いて、医療AI市場では世界2位となっています。中国ではデータが複雑なうえに、システム間でのデータの互換性に欠けるという問題があります。ただ人口が多いため、政府主導の人海戦術で医療データを1カ所に集約して統合管理しようとしています。具体的には、地域ごとにいくつかの健康データセンターを開設し、国民健康保険の請求、出生・死亡登録、電子カルテのデータを集約するという目標を掲げています。

カナダには、大規模な公的医療制度があり、膨大なデータを収集できるのが強みです。これは日本も同様ですね。この膨大なデータがAI活用型の医療用アプリケーションの開発に大いに役立っています。カナダの各州は、医療関連データを相互にリンクして統合しようとしており、そのための大きな投資もいといません。
カナダのデータは多様で複雑です。データサイエンティストはあらゆる性別、人種、民族の人たちに新しい治療法の効果があるかどうかを確認できます。
またカナダは、臨床試験の実施と管理に最適な場所の1つとして世界中から認知されています。現在も4,500件を超える臨床試験が実施されています。臨床試験に適格な被験者を見つけるうえで、AIが重要な役割を果たしています。
カナダは世界でもトップクラスのAI人材が集まる国となっており、AI分野をリードする存在です。モントリオール学習アルゴリズム研究所(MILA)、アルバータ・マシン・インテリジェンス研究所(AMII)、人工知能研究のベクター研究所(VIAI)など、大規模な研究機関があるほか、モントリオール、トロント、エドモントンに最先端のスタートアップ企業が集まっています。

いずみ:北欧、中国、カナダが医療AI分野では特筆すべき地域ということですね。

マーク:もちろん米国、英国、ドイツ、日本なども重要な地域です。ですが先端的な動向を知るためには、この3地域を常にウォッチする必要があるということです。

医療分野でのAI活用に関連する先進技術

いずみ:先ほど医療や老化対策のAI活用の具体的な事例について教えていただきました(第59回)。技術的な観点ではいかがでしょう。どのような先端技術があるのか知りたいのですが。

マーク:いくつもあります。駆け足で見ていきましょう。

1つめは、マシンビジョン。医療においては、診断、スキャン画像や医用画像の確認、手術などに使用されています。例えば、神経疾患や心疾患の検出や腫瘍の特定のためにCTスキャン画像を確認しますが、その際にAIが使用されています。

2つめは、ゲノミクス。ゲノム情報を利用して適切な治療計画や臨床ケアを判断することにAIが使われています。

3つめは、デジタルツイン。IoTとAIを組み合わせて、ある対象をほぼリアルタイムで複製する技術です。個人の生涯データ記録の複製がデジタルツインとなり、手術によって良好な転帰が得られるかを医師が判断したり、治療法を決定したり、慢性疾患を管理したりする際に役立ちます。まだ活用が始まったばかりで、今後大きな可能性のある分野です。 

4つめは、AIを使用した認知療法。対話型AIや自然言語処理を利用したAIセラピーにより、認知行動療法の効果を上げることができます。ただし現在は初期段階で、定期的な確認を行ったり、話し相手になったりできる程度です。 

5つめは、ディープニューラルネットワークによる未知のリスクパターンの特定。例えばディープニューラルネットワークを使用した網膜画像と音声パターンの分析が、心疾患のリスクの特定に役立つ可能性があります。

このぐらいでよろしいですか?

いずみ:ありがとうございます。デジタルツインが医療分野で大きな可能性を持っているというのは少し意外でした。

医療分野におけるAIの課題とリスク

いずみ:最後に医療分野におけるAIの課題やリスクについて、少し詳しく教えてください。

マーク:大きく6つあると思っています。

まず、もはや機能していない現行のプロセスを、まだ実績のない新しい技術で置き換えること。つまりまだ実績に乏しいテクノロジーを使って、医療革新を進めることになります。AIに限らずIT全般に言えることではありますが、人の命が関わる分野だけに、慎重な技術移行が求められます。

次に、医療従事者が機械に置き換えられること。医師が機械に置き換えられるなど、それまで人間が果たしていた役割がAIに置き換えられることになるでしょう。これはどの産業分野でも懸念されることですが、人の命を預かる人材を単純に機械に置き換えていいのかが懸念されます。

3つめが、人への危害やエラー。AIが間違いを起こせば、患者のケガや健康上の問題につながるというリスクがあります。現在でも医療ミスは少なからず発生していますが、患者や医療従事者の受け止め方が異なる可能性があることと、1つのAIシステムに内在する欠陥によって非常に多くの患者が被害を受ける可能性があることの2つが、従来の人による医療ミスとの大きな違いです。

4つめは、データの可用性。米国にはまだ患者データの標準フォーマットや集中管理を行う機関はありません。AIシステムのトレーニングにはさまざまな種類のデータが大量に必要になります。こうしたデータが複数のシステムに分散され、フォーマットも異なると、間違いの起きるリスクが高くなります。データを収集するためのコストも高くなり、効果的な医療用AIを開発できる企業や機関が限られてしまいます。

5つめは、プライバシーの問題。AIが直接的には受け取っていない情報であっても、患者の個人情報を予測することが可能です。例えば自分がパーキンソン病であることを隠している人がAIシステムを使用すると、その震えからパーキンソン病であることが識別されてしまう可能性があります。このAIシステムの推測を銀行や保険会社など、第三者が使用できる場合、プライバシーの侵害だと考える人もいるでしょう。

最後に、偏向と不平等。倫理的なAIが大きな課題となっています。トレーニング用のデータに偏りがあれば、開発されたAIにも偏りが生じます。例えば大学病院で収集されたデータをAIの学習に使用した場合、通常あまり大学病院に行かないようなタイプの患者については治療効果が相対的に低くなるでしょう。

いずみ:なるほど。ほかの産業分野でも同様の課題やリスクはあると思うのですが、人の命に関わる医療分野だから慎重な取り組みが必要になるということですね。

マーク:そのとおりです。

おお! もうこんな時間だ。次の予定のために急いで準備をしなければなりません。とても楽しい時間を過ごすことができました。いずみ、あなたとの出会いに感謝します。機会があれば、またどこかでお会いしましょう! 本当にありがとう。

いずみ:こちらこそ、ありがとうございました。大変興味深い話をたくさん伺うことができました。またお目にかかることがあれば、これ以上の幸せはありません。どうかお体を労って、次回も元気なお姿を拝見させてください。

いずみとマーク氏は、堅くハグして別れた。

いずみがマーク氏から得た幅広い知見は、今後のいずみのコンサルティング活動における強みとして生かされることであろう。マーク氏の講演会に参加し、質疑応答に駆け付けたことに大満足のいずみだった。

まとめ

  • 医療分野におけるAI活用の動向を押さえておくためには、北欧諸国、中国、カナダの3つの地域をウォッチしておくことが欠かせない
  • 医療分野のAI活用に関連する先進技術として、マシンビジョン、ゲノミクス、デジタルツイン、AIを使用した認知療法、ディープニューラルネットワークによる未知のリスクパターンの特定などが挙げられる
  • 医療分野におけるAIの課題やリスクは大きく以下の6つある。ほかの産業分野でも発生する課題やリスクだが、人の命に関わる医療分野では特に慎重な取り組みが必要となる
  1. 現行のプロセスを、新しい技術で置き換えること
  2. 医療従事者が機械に置き換えられること
  3. 人への危害やエラー
  4. データの可用性
  5. プライバシー
  6. 偏向と不平等

いずみの目

医療におけるAI活用について追加解説しました。この分野に関してはまだまだ多くのトピックスがあります。
さらに詳細な情報を知りたい方はグローバル最新AI事情コラム「【第6回】医療業におけるAIの概要 」をご参照ください。

  • * この物語は、筆者の見解をもとに構成されています。
    日立システムズの公式見解を示すものではありません。
  • * 文章中に記載された社名および製品名は各社の商標または登録商標です。

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