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株式会社 日立システムズ

第2回 そのシステム投資額は妥当か?(2)~システム価値の“見える化”

2014年4月15日掲載

情報システムの費用は投資であり、システム導入を検討する際には「費用対効果」を明確にすべきだという考え方は、今では多くの企業に定着していると言えるでしょう。しかしながら、「費用対効果」を定量的に計算する標準的な方法はいまだに存在しないのが現実です。前回は、ポートフォリオの考え方をシステム価値の試算に適用できることを示しました。今回は、実際にシステムの価値を試算する手順について解説します。

* 本文中の登場人物・企業名はすべて架空のものです。

第2回 そのシステム投資額は妥当か?(2)~システム価値の“見える化”

メンバー全員集合

クライアントの獲得をすべく、YMC電子工業(仮名)を訪問したITコンサルタントの美咲いずみ。「システムの価値をどうやって測定するのか」という山田昭(仮名)CIOの問いに、過去の経験に基づいてポートフォリオを活用することが有効との自論を展開した。
約束の時間が過ぎようとしていたが、いずみの話に興味を持った山田から時間延長の申し入れがあり、山田は予定していた次の打ち合わせを遅らせるために会議室を後にした。
約10分後、山田は4人を引き連れて戻ってきた。

「遅刻はするけれど時間枠にはうるさい私が時間変更だというので、部員が興味を持ってしまったんです。それで全員連れてきましたけど、構いませんか?」

4人ということは、常駐している協力会社の社員も含まれている。なんてチームワークのいいシステム部門だろうと、いずみは少し驚いた。

「私は、全く構いません」

「それはよかった。では、ここまでの話をメンバーにも知っておいてもらうために、簡単におさらいしてもらえますか?」山田は名刺交換の時間も作らずに促す。続きを早く聞きたいのだと、いずみは解釈した。

いずみは、ここまでの話を3分ほどに要約して説明した。メンバーはいずみより年上と思われるが、否定的な空気が感じられず、いずみの話を熱心に聞いている。そういえば今まで山田も否定的な態度は見せなかった。トップの習慣がチームにも共有されているのだろうといずみは思った。

システムの重要度と必要度

「さて、ホワイトボードに書いたようなポートフォリオ(図1-前回図1再掲)を作成するためには、システムの重要度と必要度について測定しなければなりません。その前に、システムの重要度と必要度について説明する必要がありますよね?」といずみ。

図1

山田が答える。「それは何となく分かります。重要なシステムというのは、売り上げや利益に貢献するようなシステムでしょう。企業の差別化の要因になるシステムというのかな。必要なシステムというのは、それがないと業務が回らないといったシステムのことでしょう」

「おっしゃるとおりです。それぞれ具体的に例を示します」

いずみが続ける。「重要度も優先度も高いシステムは、例えば製造業なら研究開発の支援システムでしょうか。独創的な製品を開発できれば、売り上げや利益に貢献します。また、製造業では研究開発自体はなくてはならないものでしょう」

「われわれのようなEMS(電子部品の受託生産)でも、製品自体の独創性は関係ありませんが、作り方についての研究は怠りないですね」と山田。

「次に、重要度は高いが必要度は低いというシステムは、SFA(営業支援システム)などでしょうか。営業活動によく適合したSFAは売上向上に貢献するでしょう。しかし、SFAがなくても営業は可能です」

さらにいずみが続ける。「重要度は低いが必要度は高いシステムは、例えば受発注のシステムでしょう。これらがなければ業務は回りません。しかし、受発注のシステムがすばらしいから売り上げが向上するということはあまり考えられません。もちろん、どのシステムでもすばらしいシステムはコストダウンに貢献するので、利益の向上には役立つかもしれませんが、この点は電算化の当然の結果として、最近ではあまり重視されません」

山田が引き取る。「そして、これら以外のものは、重要度も必要度も低いということですね。しかし、そんなシステムがあるんでしょうか?」

「普通はそのようなものはシステム化されません。ただ、ほかのシステムと比較して、相対的に重要度も必要度も低いシステムというのはあり得ます。ポートフォリオではそのようなものが明確になるということなんです」

定性的な指標は関係者を集めてスコア化する

「以上がシステムの重要度と必要度の考え方ですが、この2つの軸でシステムを評価するというのはよろしいでしょうか?」

異存がないので、いずみは続けた。

「重要度も必要度も絶対的に定量化できるものではありません。また、当然ながら業種によって違いますし、立ち上げたばかりの会社と、長い歴史のある会社とでは、何が必要で何が重要かは異なります。重要度については、その会社の強みが何かによって変わってきます。ということで、どちらも会社ごとに違うと言っていいでしょう」

「おそらく、どの部署にいるかとか、職階によっても違ってくるでしょうね」と山田。

「そうなんです。さらに、企業理念や経営戦略の理解度によっても違ってきます。ですから、1人で判断するのは危険なんです」

ここは重要だと言いたいかのように、いずみは少し間を取って一人ひとりと視線を合わせた。全員興味がありそうなことを確認して、いずみは続けた。

「以上の点を確認した上で、重要度と必要度をどのように数値にするかを見てみましょう。重要度も必要度もやり方は同じで、5点満点とか10点満点とかを決めてスコアリングします。問題はスコアの基準をどうするかです」

いずみはホワイトボードに、5点満点とした場合の「必要度」のスコアの基準を書いた(表1)。

表1:必要度のスコア

「これはあくまで一例です。このようにスコアの基準を先に決めておくことが重要です。この基準を参照しながら関係者で議論してスコアを決めていきます。関係者は、部門も職階もなるべく幅広く集めます。議論が落ち着いたところで、参加者それぞれがスコアを発表して、その平均を取ります。それがシステムの価値となるわけです」

ポートフォリオは“見える化”の手段

いずみが続ける。「このような会議を通じて、既存の各システムのスコアが決まります。また、事前に、各システムに掛かる総コスト(初期導入コストとランニングコストの総和)を計算しておきます。仮に総コストが2,500万円(25百万円)のシステムが、スコアリングの結果、必要度が2.4点、重要度が3.5点だったとすれば、(2.4, 3.5)の座標を中心とする面積25の円を描きます」。このようなグラフは表計算ソフトで簡単に作成できるといずみは言う。Excelであればグラフの種類を「バブル」に設定すればいい。「こうしてそのシステムの価値を“見える化”することができます」

「そのグラフ(図1)を見れば、コストが異常に掛かっているシステムや、逆にもう少しコストを掛けるべきシステム、例えば機能追加や性能強化をしたほうがよさそうなシステムがはっきりする、というわけですね」と山田。

「はい。さらに新規開発の予算を決めるときにも役に立ちます」

「ええ、それも分かります。事前に必要度と重要度を判断すれば、多少の範囲はあっても、妥当と思われる円の面積が一目瞭然なので、それに従って予算を組めばいいわけですね。それも、1人ではなく、関係者が集まって決めればいい」

「おっしゃるとおりです」

精度向上のためには情報収集

「ただ、そのやり方にも問題はありますよね?」と山田。

「それは、会社全体でシステムにお金を使いすぎたり、あるいは使わなすぎたりすると、各システムのスコアも適正でなくなるということでしょうか?」いずみは自分の経験からそう答えた。

「そのとおりです。それについてはどうしたらいいですか?」

「1つは情報収集ですね。ベンダーが主催するユーザー会や、ユーザー企業どうしの集まりに参加して、同様のシステムに他社がどのぐらいお金を掛けているかを聞き出すことです。そのためには、ふだんから積極的に参加するようにして周囲の信頼を集める必要がありますが」

「なるほど。積極的に外に出よということですね」

「あとは、外部の意見を聞くことでしょうか。例えば、私のようなコンサルタントは他社の事例も知っています。もちろん、守秘義務があるので具体的な社名や詳細な数値は公表できませんが、御社がシステム投資をする場合にその額が適切かどうかの評価はできます」

「それも一種の情報収集ですね。情報収集で精度を高めていくしかないということですね」

いずみ、契約を勝ち取る

「今日は勉強になりました」という山田の一言で“面接”は終了した。いずみは手応えを感じていた。

数日後、山田からいずみにメールが届いた。

先日はありがとうございました。
あの後、まずシステム部のメンバーと話し合ったのですが、みな目からウロコとの感想でした。
“見える化”という言葉はよく聞きますし、私どもも製造業なので、現場では活用されています。ただ、システムとなるとどうも“見える化”が応用できないでいたのですが、先日教えていただいたポートフォリオはまさに“見える化”でした。
役員会で話をしたところ、社長をはじめ全員が美咲さんを評価し、末永くアドバイスをしてもらおうということになりました。システム部のメンバーも期待しています。
9月からお願いしたく、契約の詳細を詰めたいので、8月最終週のご都合をお知らせください。

メールの返事を書いたら、すぐに金太郎と大木社長に報告しよう。いずみには、金太郎の喜ぶ顔が目に浮かぶようだった。

まとめ

  • システムの定性的な価値は、スコアの基準を決めたうえで、関係者で議論してスコア化する
  • ポートフォリオは、あくまでも“見える化”の手段であり、これを関係者の議論の基盤としていく
  • 価値測定の精度を高めるためには、他社の事例や外部の意見などの情報収集を積み重ねるのがよい

いずみの目

今回のキーワードは、“見える化”でした。“見える化”の目的は、「何か基本になる情報やデータを現場に提示することで、現場の人が自ら気付き、問題意識を高め、自ら改善する努力を促す仕組みをつくる」ことです。多くのケースでは、今まで見えていなかった関係性が見えるようなることで、意思決定が容易になるということだと思います。
今回紹介するBIツールも、今まで見えなかった関係性が分かるようになるツールです。

  • * この物語は、筆者の見解をもとに構成されています。
    日立システムズの公式見解を示すものではありません。

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