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株式会社 日立システムズ

第28回 「持たざる経営」をサポートするクラウドとアウトソーシング(2)
~クラウド最新事情

2016年11月14日掲載

「持たざる経営」―、1990年代半ばからある言葉ですが、最近また見直されてきています。特にIT分野では、クラウドの進展とクラウドベースの運用アウトソーシングが登場したため、情報システムを「持たない」経営は現実的なものとなりつつあります。
今回はクラウドの歴史を振り返りながら、主に最新事情を紹介します。

第28回 「持たざる経営」をサポートするクラウドとアウトソーシング(2)~クラウド最新事情

前回の振り返り

東京都港区にあるソフトハウス・スマイルソフト(仮名)は、IPO準備中の成長企業だ。ITコンサルタント・美咲いずみ(仮名)は、スマイルソフトの神谷隆介(仮名)社長から、経営へのIT活用の相談を受けている。

今回は、「持たざる経営とそれを実現するためのIT戦略」というテーマのセッションである。ここまで「持たざる経営」の歴史と課題、その解決法について解説し、ITに関してはクラウドの進展で「持たない」ことが可能になってきたことを話した。

これから、クラウドに関するレクチャーが始まる。

クラウドの3大形態

「神谷さんには『釈迦に説法』かと思いますが、用語の定義を共有するために、まずはクラウドの3つの形態について説明させてください」

「誤解がないようにするために最初に用語をはっきりさせておくことは、とても重要と考えています。ぜひお願いします」

いずみは大きくうなずき、ほほえみながら資料を手渡した(図1)。

図1. クラウドの3大形態

「クラウドでは、仮想化技術を使うことが大前提となっています。ですので、ハードウェアやネットワークの上に仮想OS(仮想化を実現するためのOS)とゲストOS(WindowsやLinuxなどアプリケーションを実行するためのOS)までは、どの形態でも必ず提供されます」

どの形態でも提供されるネットワーク、ハードウェア、仮想OS、ゲストOSの4つだけを提供する形態をIaaS(Infrastructure as a Service)という。
ユーザーの自由度は最大だが、運用負荷も大きくなる。一時的にコンピューターリソースを増強したい場合などに利用される。
なお、IaaS上にデスクトップ環境を構築して、シンクライアント(ユーザーには低スペックのパソコンを提供し、アプリケーション処理は高性能のサーバー側で実行する方式)を実現することもあるが、これは特にDaaS(Desktop as a Service)という。

IaaS上にDBMS(Database Management System)やWebサーバーなどの基本ソフトと、アプリケーションフレームワークなどのアプリケーション基盤をインストールして提供する形態をPaaS(Platform as a Service)という。
ソフトウェアの開発環境として利用されることが多い。アプリケーションを自社開発する場合であれば、そのまま本番環境になることもある。また、パッケージソフト提供業者が、次に述べるSaaSでアプリケーションを提供する場合のプラットフォームとしても使われる。

PaaS上で開発したアプリケーションソフトを提供する形態をSaaS(Software as a Service)という。
通常、ユーザーはアプリケーションのみを従量制課金で利用して、アプリケーション基盤以下を直接利用することはあまりない。一般のユーザーがクラウドと聞くと、まず思い浮かべる形態であろう。

共有か専有か

「問題ありません。同じ理解です。ところで、別の分類方法もあるのでは?」と神谷社長が尋ねると、「はい。そちらも資料を用意してあります」といずみが答える(表1)。

表1 クラウドの提供方法

提供対象 名称 説明 特徴
不特定多数 パブリック クラウド 個人も含めた不特定多数のユーザーに対して、仮想化環境ベースとしたサービスを提供 従量性課金につきコストを最適化できる(多数で長期利用するときは注意)
特定企業 プライベートクラウド サービス提供者が特定企業のために占有できる仮想化環境を用意して、サービスを提供 価格は高くなるが資産管理が不要 セキュリティの強度やカスタマイズの柔軟性は最大
特定企業 ハイブリッドクラウド プライベートクラウドを利用している特定企業が、必要に応じてパブリッククラウドも活用する形態 プライベートクラウドとパブリッククラウドの長所を組み合わせているが、運用は複雑になり、高いスキルが必要

「大きく、不特定多数の企業で『共有』するのか、特定企業が『占有』するのかで、パブリッククラウドとプライベートクラウドに分類されます。両方を組み合わせたハイブリッドクラウドという提供形態も出てきていますが、これは後で詳しくご説明します」

「プライベートクラウドにも、大きく2種類あると聞いていますが」

「はい。設置場所は基本的にクラウド提供業者のデータセンターになりますが、サーバーを独自所有して最大限に環境を最適化する形態をオンプレミス型、サーバーもクラウドベンダーが提供する形態をホスティング型と呼んでいます」

「プライベートクラウドを選ぶ利点は何なのでしょう?」

「一番の利点は、企業ポリシーを実現できるということだと思います。セキュリティポリシー、開発や運用の標準、システム利用ルールなどを厳格に定めている企業だと、パブリッククラウドは自由すぎることもあります。そのような企業では、プライベートクラウドを採用することになります」

クラウドの歴史

「さて、クラウドの最新事情についてお話ししたいと思いますが、その前に簡単にクラウドの歴史をおさらいします」

「お願いします」

「『クラウドコンピューティング』という言葉は、2006年にグーグルのCEO、エリック・シュミットが最初に使ったとされています。
日本でも2008年ぐらいからSaaSという言葉が普及し始めましたが、クラウドのセミナーや展示会が活発化してきたのは2009年頃からと記憶しています。ですが、当時は『曖昧で一時的な流行語』(バズワード)という人も多くいました」

しかし、その後クラウドは急速に普及していき、2011年には「システムを所有する前に、まずはクラウドで調達できないか検討しよう」という「クラウドファースト」という概念が現れた。

この概念が出てきたことにより変化が訪れた。
クラウドに関しては、共有すなわちセキュリティが脆弱(ぜいじゃく)という理由で導入に抵抗を示すユーザーが多かったのだが、セキュリティリスクをクラウドベンダーに移転できるという理由で採用する企業が出始めた。
一方で、やはりセキュリティは自社でコントロールしたいと考える企業は、前述のプライベートクラウドを採用するケースが出てきた。

さらに2013年頃には、プライベートクラウドとパブリッククラウドの利点を組み合わせるハイブリッドクラウドという概念も知られるようになった。
これは、システムの根幹部分はプライベートクラウドで実現するが、その他はパブリッククラウドで実現するものである。「その他」については、いくつかの種類が考えられる。

  1. 一時的なシステムリソースの拡張
  2. モバイル機器などで外部からも利用したいサービス(ファイルサーバーなど)
  3. パブリッククラウドでしか提供されていないサービス

ハイブリッドクラウドを活用するためには、プライベートクラウドとパブリッククラウドを統合管理する(アプリケーション監視やリソースの動的配分など)必要があるためハードルが高かったが、運用ツールが対応してきたため、普及が進んでいる。

クラウドマストへ

「なるほど。クラウドの歴史について整理できました。ところで、最近は『クラウドマスト(必須)』という言葉も出てきていますよね?」

「はい。これもまだ新しい言葉で人によって使い方が違うようですが、私なりに整理してみますね」

クラウドマストは、だいたい以下の3つの意味で使われているようだ。

1つめは、「もはやクラウドなしでは、24時間365日の稼働が求められるミッションクリティカルなシステムを維持できない」という意味だ。
以前は24時間365日稼働するシステムは、一部のサービスだけだった。しかし今では、24時間365日提供されているサービスは珍しくなくなった。
一方、ミッションクリティカルなシステムは開発も維持も難しく、高度な技術を持つITエンジニアの関与が不可欠である。しかしそのようなITエンジニアの人数が急激に増えることはない。したがって、ミッションクリティカルなシステムを実現するためには、クラウドの活用が不可欠になっているのである。

2つめは、クラウドでしか提供されていないサービスを活用するという意味だ。
IoT(Internet of Things)では、エッジコンピューティングやフォグコンピューティングと呼ばれるテクノロジーの活用が不可欠とされる。これはクラウドとデバイスの間に中間的な分散処理サーバーを設置することで通信時間を短縮化するものであり、どちらもクラウドの存在が前提となっている。
また、人工知能(AI)の分野で注目されているディープラーニングも、クラウドで提供されているケースが多い。オンプレミスでの構築も可能だが、多くの企業にとってはコストと技術の両面で現実的ではない。
このようなサービスを活用するには、クラウドはマストとなる。

3つめは、『持たざる経営』の実現、特にバックオフィス業務を持たないためには、クラウド活用が有力な選択肢だという意味だ。
例えば、クラウドで提供される会計ソフトが増えている。これらを利用するには会計の知識は必要なく、入出金をきちっと入力すれば、自動的に帳簿が作成されるようになっている。不明点がある場合には、サポートサービスも完備している。つまり経理事務員が不要になるということだ。
調達についても、クラウドソーシング(この場合のクラウドはcrowd=群衆)のサービスが充実してきており、これらもパブリッククラウドで提供されている。
営業支援やCRM(顧客管理)については早くからSaaSが存在するが、今ではコンサルティングやセミナーまで実施しているので、業態によっては専任の営業パーソンが不要になるかもしれない。
これらは大企業にとっては不要なものも多いが、中小企業、特に起業したばかりの企業にとってはマストになりつつある。

「うん。企業規模に関わらず、何らかの形でクラウドを活用することが企業経営にとって必須になってきたということですね」

「ご明察です。特に短期間で市場にサービスを投入するためには、自社でいちいちサーバーやソフトウェアを導入してアプリケーションを自社開発していては、手遅れになる恐れがあります。今後ますます、クラウドマストになっていくでしょう」

「ですが、クラウドでシステムを早期調達できても、運用面の課題が残りますよね?」

「おっしゃるとおりです。そのためSI業者をはじめとする運用アウトソーサーが次々とクラウドベースの運用サービスを提供し始めています。この件については、少し休憩してから、お話ししましょう」

まとめ

  • クラウドには、サービスの提供範囲に応じて、IaaS、PaaS、SaaSの3つの形態がある
  • リソースを共有するか占有するかで、パブリッククラウドとプライベートクラウドに分類できる
  • パブリッククラウドとプライベートクラウドを併用するハイブリッドクラウドも普及してきた
  • クラウドに関する考え方は、クラウドファーストからクラウドマストへと変わってきている

いずみの目

ほんの6、7年前までは、クラウドといえばSaaSをパブリッククラウドで利用することが主流でした。現在ではIaaS、PaaS、SaaSを必要に応じて使い分け、パブリッククラウドとプライベートクラウドを併用するハイブリッドクラウドが普及してきました。そして、クラウドマストと言われるようになってきたのです。

  • * この物語は、筆者の見解をもとに構成されています。
    日立システムズの公式見解を示すものではありません。
  • * 文章中に記載された社名および製品名は各社の商標または登録商標です。

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