2014年10月9日掲載
PMBOK(プロジェクトマネジメント知識体系ガイド)などの普及で、科学的・定量的なマネジメントがかなり浸透してきました。しかし、メンバーのモチベーションやモラール(士気)などに関しては、まだまだ問題が多いという話をよく聞きます。高い目標を自らに課し、困難に対して自発的に動き出し、問題解決を推進する自律型人材がなかなか育たないというのが悩みのようなのです。では、どうやったらそのような人材が育成できるようになるのでしょうか。
* 本文中の登場人物・企業名はすべて架空のものです。
美咲いずみは、YMC電子工業(仮名、以下YMC)のITコンサルタントとして定期的に同社を訪問をしている。週1回のシステム部の部内会議に参加し、その後システム部門の持つ課題について山田昭(仮名)CIO兼システム部長と打ち合わせるという形態だ。システム部員は、真鍋芳雄(仮名)課長、木村真奈美(仮名)主任、社内外の運用窓口である宮下一郎(仮名)、大手システムインテグレーター伊達システムズからの常駐要員である高橋秀人(仮名)の4名。
少人数で和気あいあいとしたチームなのだが、新しいことに自律的に取り組む姿勢に欠けているというのが山田CIOの悩みだ。
それに対するいずみの提案は、自律型の営業チームを作り出す支援をしている篠田(仮名)というコンサルタントのやり方がシステム部に応用できないかを一緒に考えてみましょうというものだった。山田CIOは、その提案を採用した。
「早速だけど、篠田さんという方がどういうやり方をしているのか教えてください。」
「はい。では、まず篠田さんの考え方から説明させてください。」
いずみは、ホワイトボードに「マネジメント=力の合わせ方」と書いた。
「これが、彼の基本コンセプトです。もちろん、彼もデータを大切にしていて、管理のための帳票類も確立されたものを持っています。ただ、それは営業マンや商談の管理のためのものなので、割愛しますね。」
「ふむ。興味深い言い切り方だね。テクニックやデータも大事だけど、そちらばかりに目を向けがちな我々には新鮮に響くよ。」
「はい。メンバーの力を上手に発揮させる環境を整えれば、あとはちょっとサポートしてあげるだけで、メンバーは自律的に動き出すということだと思います。だからこそ、リーダーが役割をしっかりと果たすことが重要だと言うのです。」
「リーダーの役割は何だと言っているの?」
「チームの目標を達成することです。」
「それは当たり前じゃないの?」
「それが当たり前じゃないと彼は言うのです。」
「どういうことかな?」
「リーダーの役割をシンプルに考えない人が多いというのです。たとえば、強いリーダーシップで部下の人望を集めるのが先と考える人も多いし、人材育成がリーダーの仕事と考える人も多い。でも、それは本末転倒で、チームの目標を達成するというリーダーの役割を果たすのが先。そうすれば、人望も部下の成長も結果として達成される。彼はこのとおりの言い方はしませんが、私はそう理解しました。」
「でも、目標達成にとらわれるあまり"ブラック企業"的なやり方をしてしまったら、人望も何もないだろうし、成長どころか使い捨てになるのでは?」
「そのようなやり方では、結局目標は達成できないというのが彼の意見なのです。実際、"ブラック企業"とは真逆のやり方で実績を出しています。」
「それを聞いて安心したよ。僕もYMCを"ブラック企業"にしたくはないからね。」
山田CIOは続けて質問した。「目標達成がリーダーの役割だと言っても、ちょっと抽象的だね。もう少しイメージが分かるように説明してください。」
「篠田さんが相談される会社は、新規開拓がうまくいかなくて困っている会社がほとんどです。新規開拓には、顧客数を増やすという意味と、既存客も含めて新商品を販売するという意味と両方あります。どちらにしろ、"新しいことをやる"ということには変わりがありません。"新しいコトをやる"ために必要なことは何だと思いますか?」と、いずみは逆に質問した。
「うーん。初めてのことだから1回では成功しないよね。まずは仮説を作って、実際にやってみて、修正していく。仮説検証の繰り返し、つまり試行錯誤だろうな。」
「さすがです。その通りです。新しいことに尻込みするのが今のシステム部の問題だとおっしゃっていましたが、それは多くの組織がそうなんです。そうなる理由は、仮説検証のやり方が分からないのと、試行錯誤という面倒な取り組みを避けたいという気持ちからなんですね。」
山田CIOは、だまって頷いている。
「なので、篠田さんが言うリーダーの仕事とは、チームで仮説検証のサイクルを回すための指揮を取るということなのです。」
「なるほど、まだ抽象的ではあるけれど、イメージできそうだよ。」
いずみは続ける。「よかったです。さて、仮説検証のサイクルを回すためには、3つのポイントがあります。」
いずみは、ホワイトボードにその3つのポイントを書いた。
「当たり前のことのようだが、では具体的にどうするとなるとちょっと考えるような項目ばかりだね。」と山田CIOは率直な感想を述べた。
「一言でいえば、"全員参加"ということなんです。でも、それだけだと、いろんなことを考えるリーダーも出てくるし、ただ題目のように『全員でやるぞ』というだけのリーダーも出てきます。この3つに絞って、これだけを心がければいいと言い切っているところが、すごいところではないでしょうか?」
「その通りだね。経験豊富な人でないと、こういう断言はできないと思うよ。」
山田CIOは目をつむって考え込み始めた。いずみは考えがまとまるまで待つことにし、もうぬるくなってしまったお茶でゆっくりと喉をうるおしながら、窓の外を眺めている。
1分ぐらい経って山田CIOが口を開いた。「僕は、あるセミナーで聞いた話を思い出したよ。この前美咲さんが教えてくれた『ITをサービスとして捉える』というテーマのセミナーにあれから出かけたんだ。そのとき、ある不動産業者向けのITサービスを提供している会社のCIOが講師だった。」
「もしかしたら生活向上社(仮名)の北(仮名)さんでは?」
「よくご存知だね。その北さんの言っていることも"全員参加"だった。情報共有の大切さという話を北さんもされていたので思い出したんだ。」
「なるほど。」
「YMCでも、全員で会議をしているけれど、"全員参加"ではなく、単なる"全員出席"。僕が言うことを彼らが承るというような会議だったのかもしれないね。」
いずみは黙って聞いている。
「ぜひ、"全員参加"に変えていきたいな。ただ、3つのポイントを具体化しようと考えてみたのだけど、あまりよく分からなかった。一緒に考えてくれるかな。」
「もちろんです。元々そのつもりです。」
続きは昼食を取ってから、午後にすることになった。
まとめ
いずみの目
篠田氏のコンサルティングは、考え方だけを重視しているように見えたかもしれません。しかし、実際には、データをとても重視しています。特に仮説検証は、データがなければできません。数値があるからこそ、目標と実績の食い違いがはっきり分かり、次の手も打てるということなのです。
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