2017年11月27日掲載
IoT(モノのインターネット)という言葉もすっかり普及した感がありますが、ビジネスにおける活用例は製造業以外ではまだあまり知られていないようです。そこで事例の多い製造業での取り組みについて前々回から3回にわたってお話ししています。
今回はその最終回として、IoTで私たちの暮らしがどう変わるかについてお伝えします。
ITコンサルタントの美咲いずみは、スマイルソフトの神谷隆介社長に「製造業におけるIoTの取り組みについて」のレクチャーをしている。
ここまで、先進的な中小企業の取り組みと、製造現場がIoTでどう変わるかについて話をしてきた。ここからは、IoTで私たちの暮らしがどう変わるかについての話となる。
「IoTで我々の生活が変わるといえば、クルマの自動運転ですかね」と神谷。
「ええ。技術的にはかなり進んでいますが、法整備を初め、社会的な受け入れに時間がかかりそうです。ただ自動運転技術の開発による成果は、先進運転支援システム(ADAS)の分野で大きく取り入れられています」
ADASとは運転の快適性や安全性を高めるシステムのことだ。例えばカーナビと連携して、加速の必要な場所でオートマのギヤを一段落とすといったことは既に実現している。
また雨粒を避けてヘッドライトの光線を当てるといったAIを活用する実験が現在進行中だ。
「IoTでは予防保全の事例が注目されていると言いましたが、最も期待されているのはアフターマーケットデータの活用でしょう」といずみ。
アフターマーケットデータとは、誰がいつどう使っているかというデータである。従来のマーケティングで得られるデータは購入者データであり、コンセプトどおりに使われているかはアンケートを取らないと分からなかった。
アフターマーケットデータが大量に取得できるようになれば、効果的な製品改良が可能になるし、ヒットする確率の高い製品コンセプトが得られる可能性も高い。
「メーカー側にとってもメリットの大きいアフターマーケットデータですが、消費者側から見ても、『何でこういう商品がないんだろう』と残念に思うことが減り、生活全般が便利になるのではないでしょうか」
「そういう意味では、予防保全も消費者にメリットがあるのでは?」と神谷が聞く。
「はい。付加価値が提供されるわけですから、ユーザー側にも当然メリットがあります。整備不良による自動車事故などはほとんどなくなるでしょうね。消耗品配達の自動化も進むでしょう。プリンタのインクがなくなるとアラートが出ますが、それがサプライヤーに直接届くという形で」
「そもそもスマートフォン、スマートウォッチ、スマート家電など『スマート』のつく機器は、IoTデバイスなのです」といずみ。
スマートウォッチで健康管理などが可能になった。スマート家電で節電や外出先からの危機制御が可能になった。配達サービスと結びつく冷蔵庫なども、今後普及するだろう。
スマートメーターの事例をいずみが紹介する。
「サザンカリフォルニアエジソン電力会社は、全契約者の家にスマートメーターを設置しました。それによって同社も契約者も、秒単位の世帯消費電力をモニターできるようになりました。
設定した目的は昼夜の発電バランスを取ってコストダウンすることだったのですが、契約家庭は電力消費がモニタリングできることを面白がり、騒音、大気汚染、室温などのモニタリングもしたいと要望、同社のビジネスチャンス拡大につながったのだそうです」
「なるほど。我々はスマートデバイスを通じてメーカーにデータを送り、メーカーがデータを活用するのはもちろん、我々もデータにアクセスできるようになることで生活が豊かになっていく――ということですね」と神谷はまとめた。
まとめ
いずみの目
IoTデータの利用目的は今後どんどん広がっていくでしょうが、現時点で特に製造業にとって革新的なのは、アフターマーケットと予防保全でしょう。どちらも製造業のビジネスモデルを大きく変える可能性を秘めています。ただし、解析に利用するにしても、またAIの学習用データとして利用するにしても、大量のデータを効率よく処理でき、かつ情報漏えい対策を施した基盤が必要になってきます。その準備はできていますか?
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