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株式会社 日立システムズ

第14回 安全・確実なスマートデバイスの導入(3)~導入効果

2015年7月8日掲載

3回にわたって、スマートデバイスを導入して効果を上げるにはどうしたらいいかについてお話ししています。今回は最終回です。前回は、アクセス制御の方式として、セキュアな環境にファイルサーバーを設置するというシンプルな方式と、その環境をクラウドの活用でまかなうためにはどのような要件があるかをまとめました。今回は、スマートデバイス導入で考えられる効果と、全社に展開していくための勘所について考えてみました。

* 本文中の登場人物・企業名はすべて架空のものです。

第14回 安全・確実なスマートデバイスの導入(3)~導入効果

3カ月のパイロット運用

埼玉県にある従業員約280人のEMS(Electronics Manufacturing Service)企業、YMC電子工業(仮名、以下YMC)では、社長からの指示でスマートデバイスの活用に取り組んでいる。

同社のシステム部は一斉導入を避け、パイロット部門と営業第1部(略称“営1”)を選定し早く成功事例を作ることで、全社導入に弾みをつけるという方針を採用した。

システム部と営1で話し合った結果、3カ月のパイロット運用期間を設けて成果を取りまとめ、全社に3つある営業部門(第2部(代理店担当)、第3部(海外輸出担当))で成果を共有するための発表会を開催することになった。ここでも、いきなり全社展開せずにパイロット部門と業務内容が近い部門に普及させようという方針なのだ。

発表会には、山田昭CIO(仮名)の叔父でYMCの代表取締役社長である山田勝(仮名)も、本人たっての希望で参加していた。発表会の司会は、山田CIOの右腕と評判されている真鍋勇(仮名)システム部課長が務めることに。同社の顧問ITコンサルタントである美咲いずみは、今回はオブザーバーとして発表会に参席した。

導入経緯とシステムの概略

司会の真鍋課長の挨拶と発表会の主旨説明の後、今回のシステム導入の主担当である宮下浩二(仮名)から、導入経緯とシステムの概略の発表があった。

彼の話をまとめると、以下のとおりとなる。

スマートデバイスの導入に先駆けて、システム部内でありそうなニーズを検討したところ大きく6つ挙がったが、部内では優先順位が決められなかった。一方で全社導入を成功させるには、「小さく始めて、早く成果を出す(Small Start, Quick Win)」ことが肝心だということになった。そこでパイロット部門を選定して、ニーズについてはその部門に聞くことにしたのである。

営1をパイロット部門にしたのは、既に部長の方針でスマートデバイスの活用が推進されていて、一定の成果があったからだ。営1では顧客先での商品説明にスマートデバイスを活用していたが、運用が煩雑だったので、それを楽にしたいというのが第1のニーズであった。また、社外だけでなく社内会議でも同じように資料共有をし、ペーパーレスを実現したいというニーズもあった。

そこで、この2つに目的を絞って実現のためのシステムの構成を検討したところ、コスト面も考慮してクラウド上にセキュアなファイルサーバーを用意し、社内外からそのサーバーにアクセスできるような構成を採用することになった(図)。

導入は2週間で完了した。営1の部員に対する教育は利用ルールの説明だけで、操作教育は実施していない。導入完了後すぐにパイロット運用が開始され、3カ月間実際に運用することで、運用上の問題点を洗い出すと同時に効果測定も実施した。

なお、3カ月のパイロット期間の間、いくつかのシステム上の不具合が発生したが、これらは設定のミスなどであり、発生した日に対応を完了した。機能に関する要望は現在整理中であるが、緊急のものはない。

定量的な効果

続いて、営1の窓口担当者であり部内管理者も兼任している林誠主任(仮名)から、パイロット部門側の視点で、主に効果についての発表があった。

「営1の林です。ご存知と思いますが、システム部から20台のタブレット端末を用意してもらい、現在、営1におります60名の部員が交代で利用することになりました。当初はそれで問題ありませんでしたが、使い慣れていくうちに『これは便利だ』ということになって貸出依頼がキャパシティを超えるようになり、現在では1人1台の割り当てを検討しています」

「ほぉー」という声が、会場のあちらこちらから聞こえてくる。林は、話に興味を持たせることに成功したようだ。

「さて、そもそもはお客さま先での商品説明や打ち合わせでの活用がねらいでした。まずは事実として、昨年同期比で約15%の契約高の増加が見込まれています」。

またしても、会場がざわつく。

「これは景気動向などの外部環境にも大きく左右されるし、ほかの施策が功を奏したのかもしれないので、一概にスマートデバイスの活用による効果と断定しづらい面もあります。ただ、営業成績最下位の者の実績が大幅に増加していることから、商談における何らかの効果があるということは言えるのではないでしょうか」。

林は、ひそひそ話が収まるのを待って続ける。

「次に、社内会議でのペーパーレス化による費用削減効果です。現在1人1台でないので、会議資料の印刷やコピーを完全に廃止できているわけではありません。そこで実績をベースにしながら、1人1台になった場合の推定値を算出しました。その結果、社内会議だけで月におよそ50万円の印刷代を削減できると分かりました。年間600万円で、クラウドの利用費用を大きく上回ります」。

ここで、「印刷代には何が含まれていますか?」という質問があった。林は以下のように回答した。

「コピーも含めたインク代と紙代です。ただし、印刷に掛かる人件費は含んでいません。実績を取るのが困難だったからですが、これも含めると実質的には、さらに大きなコスト削減になるものと思われます。社外持ち出し資料に関しても、ペーパーレスを推進すれば、さらに大きな削減となるでしょう」。

定性的な効果

林は続ける。

「定量的な効果は以上ですが、定性的な効果も大きなものと思います。まずは、電子ファイルの社外への持ち出しですが、セキュリティの観点から営1では台帳管理をしていました。ところがこの台帳の運用がかなり煩雑で、そのためにためらう人も多かったようです。今回のシステム導入で、このような心理的抵抗もなくなり、運用も無人化されて、管理責任者である部長の負担も大きく軽減しました」。

営業第1部長が大きくうなずいている。

「ペーパーレスに関する定性的効果については、印刷に関わるストレスがなくなりました。印刷を待つのもストレスですが、差し替えが発生したときのストレスは計り知れません。これらがなくなりました。ストレスだけではなく印刷に掛かる時間も削減され、ほかの売り上げにつながる仕事にその時間を振り替えられたのも大きいかと思います」。

林は、ここでシステム部への感謝を述べ、発表を終えた。会場内が大きな拍手に包まれた。

今後の進め方

続けて、今後の進め方について木村美佐子主任(仮名)から発表があった。

「システム部の木村です。先ほどの林主任の発表をお聞きになったうえで、自部門でもスマートデバイスの導入を進めたいという部門がありましたら、後ほど山田部長へご相談いただければと存じます」

この後、スマートデバイスの入手窓口がシステム部に決まったことや費用負担の考え方を説明してから、今後の進め方について木村は以下のように話をした。

システム部で想定したスマートデバイスのニーズとしては、大きく以下の3点が残っている。

  • 社外からの費用精算
  • 社外からのメールの利用
  • 社内アプリケーションの利用(ワークフロー、スケジュール、SFA、CRM、CADなど)

これらは年度内にすべて導入する予定だが、優先順位は利用部門と打ち合わせのうえで決定する。これら以外についてもニーズがあれば挙げてほしいが、年度内に導入できるかどうかは現時点では約束できない。

これらの機能を追加することで得られる効果で最大のものは、人件費の削減である。直行直帰が増えることと、移動時間の有効活用が可能になるというのがその理由だ。従業員のメリットは、残業時間や休日出勤が減ることでワークライフバランスの向上が見込めることである。

全社展開のロードマップについては、営業3部門で続けて3カ月利用した後に検討する。一気に進めるのがいいか、少しずつ進めるのがいいか、現時点では判断できないからだ。ただし、横のつながりを通じて、スマートデバイスの便利さを営業部門以外にも“伝道”してほしい。

「全部門に広げることによって、他部門の電子ファイルをどこまで持ち出していいかなど、厄介な問題が多々発生すると思います。それを解決するのは、皆さまの知恵です。我々システム部はその知恵をシステムに反映し、あくまで皆さまが便利に楽しく働ける環境を作っていくことに貢献していきたいと考えています。どうか、今後もご協力をよろしくお願いいたします」。

会場に万雷の拍手が響き渡った。山田社長と山田CIOが握手をしているのを見たいずみは、少し感激したのであった。

まとめ

  • スマートデバイスの導入により、以下のような効果を見込むことができる
    - 客先でのプレゼンテーション、資料提示 → 売り上げの増加
    - 社内会議のペーパーレス化 → 印刷代の大幅な削減、印刷に関わるストレスの軽減
    - 社外からの費用精算、メールの利用、社内アプリケーションの利用(ワークフロー、スケジュール、SFA、CRM、CADなど)→ 人件費の削減、社員のワークライフバランス向上
  • 全社展開は徐々に進めるのがよく、途中で一気に全社展開することもあるが、そのタイミングも徐々に進めることによって見極めていく
  • 全社展開をスムーズに進めるにあたって、口コミによる効果は大きい

いずみの目

3回にわたって私が関わった事例をベースにスマートデバイスの社内導入と活用についてお話ししてきました。どんなテーマでもそうですが、さまざまな視点を参考にすることが大切です。そこで、併せて以下の記事もご覧いただくことをお勧めします。

  • * この物語は、筆者の見解をもとに構成されています。
    日立システムズの公式見解を示すものではありません。

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