2022年1月21日掲載
新型コロナをきっかけに、多くの企業がテレワークを実施するようになりました。テレワークで、さまざまな業務が効率化するなどメリットが非常に多い反面、そのデメリットも数多く取りざたされています。なかでも、従業員と直接会えないなか、従業員の健康状態を把握しきれない管理者も多いのではないでしょうか。
そうした現状に、企業が継続的な成長をするために、従業員の健康を経営的視点から考え、戦略的に実施する「健康経営」が注目されています。そこで、3回にわたり、健康経営について解説します。今回は健康経営をどのように実践していくか、その具体的なアプローチをお話します。
YMC電子工業(以下YMC)は、埼玉県にある従業員約280人のEMS(Electronics Manufacturing Service)企業だ。同社の顧問ITコンサルタントである美咲いずみは、毎週月曜日のシステム部の部内会議に同席し、そのあと山田昭CIOとのコンサルティング・セッションの時間を持っている。
昨年春の緊急事態宣言以後、YMCも主要な業務をほぼテレワークに切り替えた。山田は、テレワークで従業員の健康状態が分からない不安を口にする。いずみは、そんな山田に従業員の健康を経営的な視点から促進する「健康経営」を提案する。「健康経営」についての大枠を把握した山田ではあったが、実際にどう実施したらいいのか、想像がつかなかった。
いずみは引き続き山田に説明する。「健康経営を考えていく上で、念頭に置いておくべき健康課題が大きく2つあります。それがアブセンティーイズムとプレゼンティーイズムです」
「アブセンティーイズム?プレゼンティーイズム?聞いたことないな。アブセントとプレゼントのイズム?」
「はい、おっしゃる通り。英語のアブセントとプレゼントです」
「アブセントは『休む』って意味だよね。じゃあ、この場合のプレゼントは『出勤する』?」
「その通りです」
「つまり出勤はしているけど健康問題がある場合と、健康問題が原因で欠勤になってしまう場合のことかな?」
「ええ。ちょっと難しい言い回しをしていますが、この2つはWHO(世界保健機関)が提唱している健康問題での生産性低下を示す指標になっています。プレゼンティーズムは出勤できるけど、肩こりや腰痛などで心身の不調があって本来の生産性を出せない場合です。対して、アブセンティーズムは健康上の問題が大きくて出勤ができない状況ですね」
「この2つは分けて考えないと、健康問題の解決にはならなさそうだ」
「ただ、この2つの問題の共通点として、どちらも労働環境に起因しやすいことは念頭に置いておくべきです。つい健康というと生活習慣を考えがちなのですが、健康経営で大事なのはむしろ職場環境の改善になります」
「本当の意味での働き方改革じゃないかと感じるなあ」
いずみが質問する。「ところで、山田さんの今抱えている健康問題ってなんですか?」
山田は不意を突かれ、ふと考える。「そうだね、挙げだしたらキリがないくらいに健康問題を抱えてるよ。というより、この年になると、何の不調もない日のほうが少ない気がするな」苦笑いをしながら続ける。「まず、この腹回りだよ。見ての通りさ」
「画面上だと、そこまでには見えないんですけどね」
「テレワークの魔術だね。ほかにも、こう毎日パソコンをのぞき込む生活をしていると腰が痛いね。肩こりも日々ひどくなってる気がするなあ」
「それでは、ほかの従業員は、いかがですか?山田さんと同じような問題を抱えていますか?」
「いや、みんながみんな同じような悩みを抱えている訳じゃないね。僕と同年代だと似たようなものだと思うけど、若い子は違うだろうし。あと女性は女性で男性にはない悩みを抱えているだろうし」
「おっしゃる通りだと思います。健康課題って一人ひとり違うんですよね。だから、経営層は従業員一人ひとりから現状の悩みと要望を吸い上げて、もし職場環境の改善が必要なら、その解決策の一つとして従業員向けの健康サービスが有効と考えます」
「なるほどね。確かに従業員ありきで考えないと上手くいかなそうだ」
「はい、しっかり働く人の視点で考えていくことが重要です」
「健康課題が自分ごととして受け入れられれば、健康管理に対して主体的になれる気がするな」
「御社ではコロナ禍以前から、健康課題に取り組んでいましたか?」
「いやあ、どうだろう。いつの間にか社食のメニューに『ヘルシー定食』っていうのが追加されていたぐらいかな。もしかしたらやっていたのかもしれないけど、僕自身アンテナを張ってなかったし、そういうことにはノータッチだったからなあ」
「はい、健康経営はその名の通り、あくまで経営ですので、会社を挙げて取り組む必要があります。働く人の健康づくりがどのように経営に関わるのか、各々の企業で言語化することがとても大事です」
「つまり経営層と従業員双方が取り組む必要がありそうだね」
いずみが資料を画面共有する。
出典:「企業の「健康経営」ガイドブック~連携・協働による健康づくりのススメ~(改訂第1版)」
平成28年4月 経済産業省 ヘルスケア産業課 p.5
「これは経済産業省が企業向けに配布している健康経営のガイドブックに載っている健康経営の実践に向けた体系図です」
「まず経営理念・方針を明らかにして、体制を作り、実施し、フィードバックを得て継続していくという流れだね」
「一時的な取り組みに終わってしまうのは非常にもったいないと思います。コロナ禍というピンチをチャンスに、健康経営を持続していくシステム構築が重要ではないでしょうか」
「本当にそう思うよ。コロナに関係なく従業員の健康は大事だから」
「ですので、先ほどの体系図を参考にシステム構築をしながら、持続可能な健康経営をデザインしていく必要があると思います」
「うん、サスティナビリティが今叫ばれているしね」
「これは一例ですが…」いずみはスライドを切り替える。
出典:「企業の「健康経営」ガイドブック~連携・協働による健康づくりのススメ~(改訂第1版)」
平成28年4月 経済産業省 ヘルスケア産業課 p.46
「健康経営をPDCAサイクルに当てはめると、おおよそこのような形になります。企業理念をしっかりと打ち立て、実施しながら、その都度フィードバックを貰い、修正をしていくことでサステイナブルな健康経営になると思います」
「健康を経営しているんだって感じるよ。じゃあ、実施後のフィードバック、PDCAのCAを教えてほしいな」
「分かりました。では健康経営の評価方法や実際に実施している企業を例に、ご説明します」
まとめ
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