2017年10月16日掲載
IoT(モノのインターネット)という言葉もすっかり普及した感がありますが、ビジネスにおける活用例はまだあまり知られていないようです。そこで事例の多い製造業での取り組みについて3回にわたってお話していきます。
今回は、先進的な中小企業の事例を紹介します。
ITコンサルタントの美咲いずみ(仮名)は、東京都港区にあるスマイルソフト(仮名)の神谷隆介(仮名)社長から経営のためのIT活用の相談を受けている。スマイルソフトは、中堅企業向けのCRMパッケージソフトの開発・販売で急成長した、IPO準備中の新進企業だ。
ウォーターフロントが一望できるガラス張りの開放的な会議室で、神谷が今回の相談内容を説明し始める。
「当社のお客さまには製造業が多いのですが、IoT関連の新製品を既存顧客中心に展開していきたいんです。その企画にあたって製造業でのIoTの取り組みを網羅的に知りたいんですよ」
「承知しました。では、まず取り組み事例をお話しします。それから、製造業の社内での活用と、お客さま向けの活用に分けてお話ししますね」
いずみは、新聞のコピーを見せる。
「『日経産業新聞』2016年9月23日号に掲載された事例です」
その記事によれば、神戸市長田区にある航空機部品の加工に従事する地元企業20社が集まって、「神戸航空機産業クラスター研究会」を結成した。目的は、会員各社が分業して1つの精密な航空機部品を生産すること。そのために各社の製造機械にセンサーを取り付けてデータを収集し、それを活用するためのシステムを導入した。
「つまり、製造機械のセンサーデータを共有することで、複数の工場が1つの製造ラインのように管理できるということですか?」と神谷。
「ご明察です。これをセールスポイントにして、研究会参加企業が協力して航空機メーカーに営業を仕掛けます。成約できたら関係企業全体の共同受注とし、売上は公平に分配します」
「発注する航空機メーカーには何かメリットがあるんですか?」
「はい。部品メーカーそれぞれに発注すると、進捗管理を航空機メーカーでしなければなりませんし、検収もその都度必要になります。部品メーカーが協働してくれれば進捗管理の手間が大きく減りますし、検収も最終製品だけで済みます」
「なるほど。部品メーカーとしては営業力を強化できるうえに1社ごとの営業コストが減るし、航空機メーカーは管理コストが減るということで、両方にメリットがあるんですね」
「はい。まさにWin-Winの取り組みです」
「とはいえ、センサーデータを共有するということは、自社の生産稼働情報はもちろん、データによっては製造ノウハウなども他社に見えてしまうということでしょう?」
「はい。それについては、もうやむを得ないと捉えているようです」
同記事によれば、参加企業の1つでありリーダー的な取り組みをしている山城機工の岡西栄作社長は「中小が情報を共有しながら取り組まないと、受注競争に取り残されてしまう」と危機感をあらわにしているという。
同じ記事によれば、ほかの地域でも似たような取り組みが次々と始まっているという。その1つが、東京都城東地区の中小製造業が連携した「つながる町工場プロジェクト」だ。ミッションは「企業の壁を越えて、相談や見積依頼、受発注処理、図面情報の共有、進捗や品質などの生産情報の共有を行う一連の基盤的な情報システムを確立すること」だという。
さらに新潟県柏崎市ではNTTドコモ、沖電気などの大手企業と地元の中小企業、さらに新潟工科大学も加わった産学共同で、複数の企業が共同受注できるシステムを構築するプロジェクトが紹介されている。
「ポイントは、地元企業が共同して複数の工場が1つの工場に見えるようなシステムを構築しているということですね」と神谷がまとめる。
「はい。そのような取り組みが全国各地で始まっているのです」
まとめ
いずみの目
IoTデータを活用することにより、複数の工場があたかも1つの工場のように協働する道が開けてきました。その背景には、「中小が情報を共有しながら取り組まないと、受注競争に取り残されてしまう」という危機感があるのです。
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