2017年11月13日掲載
IoT(モノのインターネット)という言葉もすっかり普及した感がありますが、ビジネスにおける活用例は製造業以外ではまだあまり知られていないようです。そこで事例の多い製造業での取り組みについて前回から3回にわたってお話しています。
今回はその2回目として、IoTによる製造現場の変化についてお伝えします。
ITコンサルタントの美咲いずみ(仮名)は、スマイルソフト(仮名)の神谷隆介(仮名)社長に「製造業におけるIoTの取り組みについて」のレクチャーをしている。
これまで先進的な中小企業の取り組みについて話をしてきた。ここからは、製造現場がIoTでどう変わるかについての話だ。
「製造現場でのIoT活用と聞くと、プレディクティブ・メンテナンス(予防保全)を思い浮かべます」と神谷が言う。
「製造機械メーカーがその製品にたくさんのセンサーを搭載して、故障の兆候などを事前に検知して対応することですね」
「しかし、なぜそんなに話題になっているのでしょう?」
「製造業のマネタイズ(収益化)が大きく変化する可能性があるので注目を浴びているのです」
予防保全といえば、小松製作所が自社で開発した建設機械を集中管理する「KOMTRAX」の事例が有名である。詳しくはWebにたくさんの記事があるので参照されたい。特筆すべきは、KOMTRAXによって無駄な予備機や保守部品が不要になるため、小松製作所の販売台数はむしろ減るということだ。
小松製作所は、建設機械の販売よりも、工事現場管理というソリューション販売でマネタイズする方向に舵を切ったのである。
海外でもシーメンスなど予防保全の事例は多数あるが、モノ売りではなくもっと付加価値の高いサービスでマネタイズしている事例が多い。
「このようにビジネスモデルを大きく変える可能性のあるIoTですが、それ以前に取り組みたい課題があります。それは生産性向上です」といずみ。
生産性とは、単純に言えば、製造量を生産時間で割ったものだ。ところが、工程ごとの生産時間を正確に測定するのが難しい。作業員に開始時刻と終了時刻を手入力してもらっている現場が多いのだが、繁忙時や緊急対応時にはなおざりになり、入力忘れを記憶で補うことになる。
生産時間が測定できなければ生産性の実態が分からない。実態が分からなければ管理できないし、向上もあり得ない。
「予防保全となると多額の投資と技術力が必要で中小企業ではなかなか手が出ませんが、生産性向上についてはコストをかけずにやった事例があります」
いずみは「週刊東洋経済 2016年9月17日号」の記事のコピーを神谷に渡した。トヨタ系部品メーカーの旭鉄鋼の事例が載っている。
トヨタから旭鉄鋼に「時間帯ごとの生産個数や、設備の停止時間および理由を把握して、生産をより効率化せよ」との指示があった。旭鉄鋼ではこれらを、作業員がホワイトボードに書き込むことで管理しようとしたが、すぐに「やっていられない」という悲鳴が殺到した。
そこでラインごとの稼働状況を表示する機械を50万円で自作した(購入すると1台500万円でライン数分必要になる)。これで1日の停止時間をトータルで3時間減らすことができたのだが、生産個数が増えない。部品1個あたりの生産時間が把握できていなかったからだ。
続いて1個50円の光センサーと250円のリードスイッチを大量に購入して製造設備に取り付け、部品が1個完成するごとに自動的に記録する仕組みを作った。この結果、生産個数および設備の停止時間を正確に把握できるようになり、生産効率の的確な改善が可能になって、単位時間あたりの生産個数が6割増加。さらに生産増強のために予定していた新ラインが不要になり1.4億円の資金が浮いた。
「こういう事例は、さすがに製造業の面目躍如ですね」と神谷が絶賛する。
「はい。IoTというとものすごく先端的なものと思う人が多いのですが、安い装置を使って、しかも高い効果を上げることが可能なのです」
まとめ
いずみの目
工場の生産性向上にIoTを活用するのは、IoTの活用法の中でも最も早く効果が出るものの1つであり、やらない手はないと思います。ただ稼働状況などのモニタリングシステムを導入したり、ましてや運用したりすることはできれば外注化したいと考える企業も多いのではないでしょうか。
そのような導入や運用のアウトソーシングはすでにありますし、運用フェーズでは予防保全も請け負ってくれるようです。
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