2017年1月16日掲載
従来のロボット工学より広い概念である「ロボティクス」という言葉が注目を集めています。ここ数年で急激に製品やサービスが充実したため、全体像が見えにくくなっている方も多いのではないでしょうか。そこで今回から3回にわたって、ロボティクスの有望な3分野について解説しながら、全体像を描いていきます。
ITコンサルタントの美咲いずみ(仮名)は、東京都港区にあるスマイルソフト(仮名)の神谷隆介(仮名)社長から、月1回の頻度で、経営のためのIT活用の相談を受けている。スマイルソフトは、中堅企業向けのCRM(顧客管理システム)パッケージソフトKIZUNA(仮称)の開発・販売で急成長した、IPO(Initial Public Offering) 準備中の新進企業だ。
相談したいテーマは神谷社長から事前に送ることになっている。今回は「ロボティクスとビジネスへの応用」という少し抽象的なものだった。ロボティクスとは、従来のロボット製造に重点を置いたロボット工学だけにとらわれず、産業以外への応用面などを含めたロボット全般に関する科学研究を総称したものである。背景にはロボットの応用範囲が急激に広がってきたことがある。
スマイルソフトの明るい清潔なオフィス。フリーアドレスの思い思いの場所で働く社員たちからよく見えるガラス張りの打ち合わせコーナーで、いずみは神谷社長と向き合っている。
「ロボティクスがテーマとは、新しいビジネスを考えておられるのですか?」といずみが切り出す。
「いや、まだそこまでは。先日今乗っているクルマの査定をしてもらおうと中古車販売店に行ったときに、Pepper (ソフトバンクのPepper for Biz (法人向けモデル) 以下Pepper)が接客してくれたんですよね」
「あのヒューマノイド(人型ロボット)の?」
「そう。名前やアンケート項目などを聞いてくれて、その後スタッフが対応してくれるという流れなんだけど、スタッフの手が空くまで待たされなかったことと、Pepperの応対自体がなかなか楽しくてね。それまでロボットにはあまり興味がなかったのだけど、急にいろいろ知りたくなって、それで美咲さんに詳しく話を聞こうと思ったんです」
「御社のビジネスにどう活用できるかが知りたいのでしょうか?」
「正直、当社のようなソフトハウスにロボティクスが関係するのかどうかもよく分からないんです。ただそんなに遠くない将来に関係してくるのではないかという直感もあるんですね。だから、今のうちに基本的なことを勉強しておきたいなと思ったんですよ」
「なるほど。私もロボティクスにそれほど詳しいわけではないのですが、現在有望な分野が3つあると、いろいろな方からうかがっています。その程度でよろしければ」
「ちなみに、その3分野とは何ですか?」
「いま話に出てきたPepperのようなパーソナルロボット(コミュニケーション型ロボットとも言う)、ドローン、それとパワーアシストスーツ(装着型ロボットとも言う)です」
「どれも興味があります。順番に教えてください」
「では、パーソナルロボットのお話をしたいと思います。その前に、産業用ロボットはご存知ですよね?」
「ええ。当社のクライアントには製造業も多数おられますので、実際に工場見学をさせていただいたことが何度もあり、産業用ロボットの実物を拝見しています。KIZUNA にはオプションで製造計画との連動機能があるのですが、こういう機能も実際に工場で何が行われているかを知らないと、使い勝手の悪いものになってしまいますから」
「従来の産業用ロボットは、溶接・ピッキング・組み立てなど、定型的な作業を人間よりも早く正確に行うものでした」
「それが変わってきているのですね?」
「はい。内閣総理大臣が主宰し、経済産業省が庶務を担当した『ロボット革命実現会議』という会議がありました。2014年から15年にかけて6回にわたって開催されたものです。この会議の成果物が『ロボット新戦略』です。その中に『ロボットの変化』がまとめてありますので、それをさらに要約してみます」
いずみの「要約」を箇条書きすると以下のようになる。
1. 自律化:単なる作業ロボットから自ら学習し行動するロボットへ
2. 情報端末化:さまざまなデータを自ら蓄積・活用することにより付加価値の源泉に
3. ネットワーク化:単体として個別に機能するものから相互に連携するものへ
「これら3つの要件を満たすロボットとして注目されているのがパーソナルロボットです。2014年に発売されたPepperを皮切りに、2016年にはさまざまな製品が出揃いました。この状況を見て2016年を『パーソナルロボット元年』という人もいるぐらいです」
さらに、経済産業省産業機械課が2013年7月に発表した「2012年 ロボット産業の市場動向 」によれば、主にパーソナルロボットが担う「サービス分野」の市場規模は2015年には3,733億円に上り、それが5年後の2020年には2.7倍の1兆241億円、2035年には2015年の13.3倍に当たる4兆9,568億円になるもと予想されている。
「すごいですね。要するに長期的に見ても超有望分野ということですね」と神谷社長が少し驚きの交じった声で言う。
「今世の中に製品として出回っている主なパーソナルロボットを教えてください」と神谷社長が尋ねる。
「まずはPepperですね。これはよくご存知ですよね? ほかには……」
いずみによれば、Pepper以外では以下の製品が有名だという。
このうちEMIEW3は、空港などの公共スペースや商業施設などにおいてサポートが必要な顧客のもとに自ら移動し、接客や案内を行うことを目的に開発されたという。そのようなサービスを実現するために、2016年9月から12月にかけて羽田空港国内線第2旅客ターミナルで実証実験 を行った。
「ビジネスでの活用事例にはどのようなものがあるのですか?」と神谷社長が尋ねた。
「これらの中でビジネスへの活用事例が多いのは、すでに1,700社を超える企業が導入しているPepperです。その活用事例を業界別にいくつか紹介しましょう」
以下に、いずみの挙げた事例を箇条書きでまとめる。
「さまざまな事例があるんですね。これらはPepperを設置したら、あとはPepperが勝手に学習してやってくれるんでしょうか?」
「さすがにそう簡単にはいきません。サービス内容に特化したアプリケーションソフトの開発・導入が必要なのです」
「ほう。そうなると『システム導入』とほぼ同じプロセスが必要ということですね?」
「ご明察です。まず業務シナリオやコンテンツなどを考える企画のフェーズ、ここでは専門のコンサルタントを入れるのがお勧めです。以下、ロボットの選定や調達のフェーズ、アプリケーション開発のフェーズ、導入・設置・操作教育のフェーズ、運用のフェーズと続きます。運用時には故障や問い合わせに対応するヘルプデスクやサポートセンターも必要となります」
「まさに『システム導入』ですね。これらをワンストップでやってくれる会社があると便利ですね」
「はい。既に大手システムインテグレーターがコンサル・開発・運用のワンストップサービスを開始しています」
「なるほど。当社のようなIT企業だと、アプリケーション開発やサポートサービスで関わることがあり得るということですね。いずれにせよ、自社で使ってみてからかな」
神谷社長の頭の中では、早くも次のビジネスプランが湧きだし始めているようだ。
まとめ
日立システムズは、システムのコンサルティングから構築、導入、運用、そして保守まで、ITライフサイクルの全領域をカバーした真のワンストップサービスを提供します。