2018年5月21日掲載
「ハイパーコンバージドインフラ(HCI)」という言葉をここ数年、よく耳にするようになりました。HCIとはいったい何なのか、今さら聞けなくなりつつありますが、実際にはまだそれほど普及しておらず、検討中の企業が多いようです。
そこで3回にわたって、仮想化の歴史、HCIとは何か、そしてHCIの用途について解説していきます。今回はHCIに先立つ仮想化の歴史についてです。
ITコンサルタントの美咲いずみは、東京都港区にあるスマイルソフトから、「IPO (Initial Public Offering、新規公開株) のための戦略的なIT投資の相談」を受けて以来(第24回 IPOのための戦略的IT投資(1)~IPO 参照)、同社を定期的に訪れている。
スマイルソフトはつい先日IPOを果たし、社長の神谷隆介は調達した資金でさらにビジネスを拡大させようとしている。
いずみがいつものようにスマイルソフトを訪問すると、神谷は開口一番、
「弊社のKIZUNA(仮称、スマイルソフト社の主力商品であるCRMソフト)をクラウド化することになりました。既存のパブリッククラウドを活用するのがコスト的にいいと思うのですが、それだけだと技術がを蓄積できない。そこで自社構築も視野に入れて弊社のインフラ担当者に調べさせたところ、投資するならHCIがいいのではと言うのです。
私自身ITインフラ関係には疎いので、美咲さんにレクチャーしてもらおうと…」と言う。
「HCI、つまりハイパーコンバージドインフラ(Hyper Converged Infrastructure)のことですね。承知しました」
といずみは答えた。
「ところで、どのぐらいの知識をお持ちでしょうか?」
といずみが尋ねると、
「いやあ、仮想化インフラであることぐらいしか知らないのです。従来と何が違うのか、それから『ハイパー』というぐらいですから、たぶん『コンバージドインフラ』というのが先にあったと思うのです。しかしどういうものかはっきり分かりません」
と神谷が答える。
「分かりました。ではまず、仮想化の歴史を簡単に振り返りましょう」
「仮想化技術は最近出てきたものではありません。40年前以上のメインフレーム(ホストコンピューター)全盛時代にさかのぼります。当時はコンピューターが非常に高価だったため、1台のコンピューターを複数のユーザーで使うための技術が発達しました」
まず生まれたのが、1960年代に研究が進んだタイムシェアリングシステム(TSS)だ。1台のコンピューターに複数のユーザーがログインして、あたかも専有しているかのように利用する方式である。一方で、仮想記憶方式も開発された。これも、高価だったコンピューターのメモリを記憶装置に退避することで拡張する技術だ。
これらの技術はUNIXやWindowsでも実現され、現在の仮想化の基礎になっている。
ただし、これらの技術は1台のコンピューターを複数ユーザーで利用するためのものである。一般的に「仮想化」とは、1台のコンピューターの中であたかも複数のコンピューターが稼働しているように見えることを言う。このような技術も、実は1972年に登場している。IBMのVM/370がそれだ。初期はあまり性能が出なかったが、徐々に改良されて、1980年代中頃になるとビジネスユースにも耐えるようになっていった。
「その後メインフレームは、オープン化とPCの性能向上に伴い、WindowsやLinuxが稼働するx86系サーバーに置き換わっていきました。そこで、スタンフォード大学の研究グループがメインフレームの仮想化技術をベースにx86系CPUで仮想化を実現する研究を始めたのです」
この研究が実り、商品化するために1998年に設立されたのがVMware社だ。1999年にLinux上で仮想マシンを動かす商品が発売され、すぐにWindows版も発売された。日本での販売開始は2000年からだ。
当初は、仮想マシン上でWindows 95を稼働するために使われる事例が多かった。Windows 95が稼働するハードウェアはなくなっていたが、アプリケーションは多数残っていたからだ。
VMwareが最初に開発したのは、従来のOS上で仮想化用ソフトウェアを起動し、そのうえで複数の「ゲストOS」を稼働させる方式の仮想化だった。これを「ホストOS型」と言う。これは負荷の大きい方式だった。
そこでVMwareは2002年に仮想化専用のOSであるvmkernelを開発し、性能向上を実現した。このような方式を「ハイパーバイザー型」と呼ぶ。
仮想化の2つの方式
「VMware以外にも、XenハイパーバイザーやマイクロソフトのHyper-Vといったハイパーバイザーが開発され、仮想化は高性能化しつつ低価格になっていきました。それに伴い、急速に普及していったのです」といずみ。
まとめ
いずみの目
システムの規模や用途によっては、HCIを導入するよりも従来の仮想化技術のほうがフィットする可能性があります。まずはそちらを検討することも1つの選択肢かもしれません。
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