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株式会社 日立システムズ

第8回 自律型人材をつくるチームマネジメント(3)~人材育成、マネジメント

2014年11月14日掲載

PMBOK(プロジェクトマネジメント知識体系ガイド)などの普及で、科学的・定量的なマネジメントがかなり浸透してきました。しかし、メンバーのモチベーションやモラール(士気)などに関しては、まだまだ問題が多いという話をよく聞きます。高い目標を自らに課し、困難に対して自発的に動き出し、問題解決を推進する自律型人材がなかなか育たないというのが悩みのようなのです。では、どうやったらそのような人材が育成できるようになるのでしょうか。

* 本文中の登場人物・企業名はすべて架空のものです。

第8回 自律型人材をつくるチームマネジメント(3)~人材育成、マネジメント

前回までのあらすじ

美咲いずみは、YMC電子工業(仮名、以下YMC)のITコンサルタントとして定期的に同社を訪問している。週1回のシステム部の部内会議に参加し、その後、システム部門の持つ課題について山田昭(仮名)CIOと打ち合わせるという形態だ。

YMCのシステム部メンバーは4名。少人数で和気あいあいとしたチームなのだが、新しいことに自律的に取り組む姿勢に欠けているというのが山田CIOの悩みだ。

それに対するいずみの提案は、自律型の営業チームを作り出す支援をしている篠田(仮名)というコンサルタントのやり方が応用できないかを一緒に考えてみましょうというものだった。山田CIOはその提案を採用し、いずみから篠田の考え方を聞いて、ぜひ自部門でも取り入れたいと言ったのだった。

よい話を共有する

「御社のランチは、特に野菜が美味しいですね。」いずみが昼食を振り返りながら言った。

「うん。ちょっと値段は高いのだけど、近隣の農家が無農薬の有機野菜を作る仲間を集めていて、そこを通して仕入れているんだ。従業員が健康で気持ちよく働いてもらうには、いい食べ物を食べてもらうのが一番という社長の考えでね。」

食後のコーヒーを飲みながらの雑談が5分ほど続いてから、「さて、続きをお願いしようか。」と山田CIOが合図した。

「では、まず『情報を共有する』からですね。大事なことは、"良い話"を共有するということです。」

「なるほど。営業マンだったら、それもいいかもしれないね。でも、たとえばトラブルや進捗遅れのようなことは早めに隠さず報告してもらいたいと思うのだけど。」

「それは営業マンでも同じです。月100万円の売上目標のところ、20日になっても30万円ぐらいしか売り上げがなければ進捗遅れですよね。でも、それは情報共有とは違うのです。そういうことばかりが報告されると会議が暗くなって、良い情報を持っている人も話しづらくなります。」

「だとすれば、たとえば『最初はものすごく時間が掛かると思っていた作業でしたが、工夫をしたら計画していた工数の半分で完了しました』というような話になるのかな?」

「はい。その通りです。そのような報告に対して『そうか。よくやった。で、具体的にはどんな工夫だったの?』とねぎらいの言葉とともに具体的な内容を聞き出すのが、リーダーの仕事だと篠田さんは言うのです。篠田さんは、これを"ヒーロー・インタビュー"と呼んでいます。」

「なるほど。そうすればノウハウが共有されるし、ヒーロー扱いされることで次も工夫をしようと思うようになるわけだね。生活向上社(仮名)の北(仮名)CIO(前回参照)も同じようなことを言っていたのを思い出したよ。でも、進捗遅れなどの対策は会議ではやらないということかい?」

「それも会議でやればいいのですが、2番めの『成功パターンを作る』というポイントに該当します。」

「そうなんだ。それについて聞きたいね。」

ユーザーの声を聞く

「その前に、情報共有のもう1つのポイントの話をさせてください。」

山田CIOがうなずく。

「もう1つは、篠田さんの言葉でいえば『お客さまの声』ですが、私たちに当てはめるとすれば『ユーザーの声』ですね。」

「ふむ。ユーザー部門に行って、彼らと話をして来いということだね。」

「はい。これは篠田さんが初心者営業マンばかり集めた、チームの活性化をしたときに獲得したノウハウと関係します。初心者営業マンにいきなり売ってこいと言っても無理ですよね。それ以前にお客さまに会えません。」

「うん。YMCの営業も既存先は問題ないが、新規先にはなかなか会えないと嘆いていたよ。」

「でも、それは『売ってこい』というからで、『これこれこういうことを聞いてこい』なら初心者でも行けるんだそうです。」

「ハードルを下げて、早く慣らそうということだね。」

「はい。システムの企画も一緒だと思うんです。普段ユーザー部門とあまり話をしないのに、いざシステムを導入するときになって協力してほしいと言っても、文句を言われるに決まっています。普段からユーザーの意向に耳を傾けることで信頼関係を作りつつ、その意向に沿うためにこういう企画をしているのだけど……と持ちかければ協力してくれますよね。」

「そのとおりだね。新しいことをやろうとすると、必ずユーザー部門の抵抗があるのも、うちの部員たちが自律的に動けない原因の1つに違いない。普段から話を聞きにいくための機会をリーダーが作ってあげればいいということだね。」

「そうなんです。それをお願いしようと思っていたんです。」

成功パターンの2つの要素

「では、次の『成功パターンを作る』です。成功パターンには、2つの要素があると篠田さんは言っています。1つは基本プロセスを作ること。もう1つは行動仮説を作ることです。」

「順に考えようか。」

「はい。基本プロセスというのは、営業よりもシステム部のほうがきちっと作っていると思います。」
「そうだね。幸いなことに『共通フレーム』というものがある。」

「ベースは『共通フレーム』でいいと思います。ただ、これは『共通フレーム』を作成したIPA(独立行政法人情報処理推進機構)も言っていることですが、各社に合わせてテーラリング(≒カスタマイズ)することが必要です。また、プロジェクト単位でのテーラリングも必要です。これらができれば、基本プロセスについてはできたと言っていいでしょう。」

「うん。標準的なベースがあるのはありがたいことだね。ただ、魂を入れないと、単なるお題目になってしまう。魂を入れる作業がテーラリングと僕は理解しているが。」

「卓見だと思います。すばらしいです!」

行動仮説を立てて、ベテランから暗黙知を引き出す

「次の行動仮説に移ります。営業の話になりますが、篠田さんがよく話す例をまず示します。仮に売上目標が100万円、顧客ごとの平均単価が10万円とします。そうすると10社契約すれば達成できるわけです。過去の実績から5社回れば1社契約でき、10社電話すれば1社アポが取れるとすると……」

山田CIOが続きを引き取った。「500社に電話すれば50社とアポが取れ、そのうち10社と契約できて、めでたく目標達成ということだね。」

「計算がお速いですね。でも、中には500社に電話したのに30件しかアポが取れない人もいますし、10社と契約が取れたのに平均単価が低いので目標達成できない人もいます。」

「それぞれにアドバイスの仕方を変えないといけないね。」

「はい。アポが取れない人にはアポの取り方、平均単価の低い人には大きな契約の取り方をアドバイスしますよね?」

「そうなるね。進捗報告の話に戻すと、遅れている理由は人によって違うわけだ。」

「ただ、それを聞き出すのは難しいんです。そこで、うまく行っている人のやり方を聞く。先ほどの情報共有と同じことですが、ちょっと聞き方が変わってきます。」

「どういうこと?」

「たとえば提案依頼書を書くといっても、いきなり文書を書き始めるわけではありません。いろいろな準備が必要です。計画時には、たぶん提案依頼書のページ数を過去実績の生産性で割って工数を計算するというようなやり方をすると思うのですが、これだと初めて書く人はほぼ間違いなく遅れてしまいます。」

「そうだね。」

「ベテランは、どんな準備と段取りで書けば一番速いかを知っています。しかし、そのようなことがドキュメントになっている会社はほとんどないと思います。」

「YMCにもないなあ。」

「ベテランにはあたりまえだけど文書化されていない知識を“暗黙知”と言います。成功パターンを作るためには、進捗遅れやトラブル対策などをチャンスと捉えて、ベテランに暗黙知を出してもらうのです。」

「それも北CIOの言っていたことだ。なるほど、成功パターンを作るというのはそういうことなんだね。」


「はい。そのときに重要なのは、手順を細かく思い出してもらうということです。それを議事録として書き留めておけば、形式知となります。」

「それを全文検索できるデータベースに蓄積すればいいということだね。」

「はい。そこまでやれば完璧です。」

全員で検証するために会議をやる

「残るは、"全員で検証する"だけかな?」


「はい。これは、今まで出てきたこと、つまり、"良い話の共有(ヒーロー・インタビュー)""利用者の声の共有""行動仮説を立てる""暗黙知を形式知に変える"などを会議の場で実施することが、"全員で検証する"ということの本質です。言い方を変えれば、このような目的で会議をするようになれば、"全員出席"ではなく"全員参加"の会議になるということです。」

「なるほど。どれも当たり前のことのようだけど、どれ一つとしてできていなかったと思うよ。大いに反省しないといけないなあ。」

「いいえ。本当にほとんどの会社でできていないことですから、今からやるということが大切だと思います。」

「うん。そのように考えることにするよ。」

「さて、このような会議にするためには、実はデータが大事なのです。データがなければ、行動仮説と実績が違っていることさえ分かりません。篠田さんが使っている帳票は、営業管理に特化したものなのでここでは示しませんが、このような会議をするために必要十分なものだけに限定しています。」

「ムダな帳票類は一切使わないということだね。目的志向で管理ツールを整えよと。」

「ご明察です!」

「では、YMCではどんな管理ツールを用意するべきか、次回相談にのってくれるかな?」

「はい。もちろんですが、『これからはこういう会議をこういう理由でやっていきたい』ということを、山田CIOから全メンバーに語っていただき、その後に全員でどんな管理ツールが必要かを話し合うほうが、私たち二人で考えるより何倍もいいと思います。」

「そうだね。そこから"全員参加"を始めよう。ちょっとワクワクしてきたぞ。」

いずみも一緒にワクワクしてきたのだった。

まとめ

  • 情報共有すべきことは、「良い話」と「ユーザーの声」
  • 「成功パターン」の要素は、「基本プロセス」と「行動仮説」
  • 行動仮説と実績が違うときが、ベテランから暗黙知を出してもらうチャンス
  • 以上のことを全員で検証するのが会議の目的であり、そのために必要十分な管理ツールだけを使用する

いずみの目

今回の話の本質は、会議は結果をうんぬんする場ではなく、情報や知(ナレッジ)を共有する学びの場に変えていこうということだと思います。これを心がけていけば、全員出席ではなく全員参加の会議となり、自律的な人材に変わっていくということなのです。
そのサポートの道具としてITができることはたくさんあります。

  • * この物語は、筆者の見解をもとに構成されています。
    日立システムズの公式見解を示すものではありません。

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