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株式会社 日立システムズ

専門家コラム:グローバル最新AI事情

【第6回】医療部門におけるAIの概要レポート

概要

医療業界は、21世紀に入って直面している大きな課題に立ち向かうため、最新のテクノロジーを活用して変革を起こそうとしています。医療分野は、長期的に見て、人工知能(AI)によって非常に大きな変革を遂げる分野の1つとなるでしょう。医療分野では現在、患者転帰の改善、さまざまな利害関係者の利益の調整、医療費の削減にAIを活用しようとしています。人はついに、能力や考え方を修正、改善し、継続的に向上させる機会を得るのです。医療業界のAIは、人間の知能をコピーできる機械の実現に大きな関心を寄せている科学分野から大きな注目を集めています。  

今は想像できないかもしれませんが、医療の分野でAIを使い続けていけば、患者に提供するサービスの改善につながり、医師が計算に基づくより良い意思決定をする助けとなります。

人工知能のアルゴリズムは、近年の計算能力の向上を背景に、データから学習して、一定の条件が発生する可能性を予測することができ、医師の診断や治療計画の策定に役立っています。AIはさまざまな臨床課題に役立つ可能性がありますが、それを実現するには、管理機関や規制当局が医療におけるアルゴリズムの使用をどのように規制すべきかを判断できることが求められます。

病気の早期発見からより良い医療診断の実現まで、AIは私たちの世界を変革し続けています。AIと機械学習(ML)は、医療サービスの利用のしかたや、医療従事者によるサービスの提供方法、実際に得られる健康上の成果など、さまざまな形で医療のあり方に変化をもたらしています。医療分野のAIが成功するには、幅広い個人のニーズに対応できることが求められるでしょう。それには、患者の行動や社会福祉サービスと臨床ケアの連携が含まれます。

医療分野のAIソリューションは、徐々に診断の精度が向上しつつあります。機械学習のアルゴリズムは、医薬品の生物的相互作用や化学的相互作用の調査に使用されるようになります。ニューラルネットワークを使用した医用画像の解析、NLPによる電子化された診療データのマイニング、深層強化学習を利用したロボット手術など、機械学習はさまざまな分野に大きな影響を与えるようになります。また、遠隔医療が実用化されれば、患者は医者に相談しやすくなり、医療の改善につながるでしょう。創薬の分野では、臨床試験にかかる時間が大幅に短縮され、従来より短期間で新薬を製品化できるようになっています。ウエアラブルデバイスに機械学習の技術を応用すれば、センサーのデータを処理して、予防医療を実現することもできます。慢性疾患のケアやモニタリングを24時間体制で続けることも容易になります。デジタルのバイオメディカル機器は医師の助けとなり、ストレスの多い状況を緩和してくれます。生体工学は、障害を持つ人や、重い病気やケガに苦しむ人に新しいソリューションをもたらします。精密医療も進みつつあり、変分オートエンコーダ(VAE)などの手法を取り入れることで、患者転帰の改善に役立っています。軽量で信頼性に優れた新素材、3Dプリント技術、スマートなアルゴリズムにより、機能性に優れた人工器官を作ることができます。

課題とリスク

現行プロセスの、新しい技術への置き換え: 医療分野に人工知能を取り入れるうえで最大の課題の1つとなるのが、現行プロセスの、新しい技術への置き換えです。まだ実績に乏しい新しいテクノロジーを使って、革新を進めることになります。

人的要因: 主に医師がインテリジェントな機械に置き換えられるなど、それまで人間がいたところがAIに置き換えられることも大きな懸念事項です。

人への危害やエラー: 最もわかりやすいリスクとして、AIシステムが間違いを起こせば、患者のケガや健康上の問題につながるというリスクがあります。AIシステムが誤った医薬品を患者に勧めたり、放射線検査で腫瘍を見落としたり、あるいは、患者のメリットを正しく予測できず病床割り当ての優先順位を間違えれば、患者が被害を受けるおそれがあります。もちろん、AIを利用していない現在の医療システムでも、医療過誤による患者の被害は少なからず起きています。しかし、次の2つの理由から、AIのエラーには潜在的な違いがあります。第1に、人間の過失による問題と、ソフトウェアに起因する問題では、患者や医療従事者の受け止め方が異なる可能性があります。第2に、1人の医療従事者の過誤によって被害を受ける患者の数は限られますが、AIシステムが広く普及した場合、1つのAIシステムに内在する問題によって、非常に多くの患者が被害を受ける可能性があります。

データの可用性: 米国にはまだ患者データの標準フォーマットや集中管理を行う機関はありません。これが大きな課題となります。AIシステムのトレーニングには、電子健康記録、投薬歴、保険金請求記録、また、フィットネストラッカーや購入履歴などの消費者生成型の情報を含め、さまざまな情報源のデータが大量に必要になります。医療や健康に関するデータの収集には課題が多く、データは通常、さまざまなシステムに分散しています。すでに述べたようにさまざまな種類のデータがあるだけでなく、患者が複数の医療機関にかかったり、保険会社を乗り換えたりすることはよくあります。これによって、複数のシステムにデータが分散され、それぞれにフォーマットも異なります。このようにデータが分散されていると、間違いの起きるリスクが高くなり、データの包括性が下がります。データを収集するためのコストが高くなり、効果的な医療用AIを開発できる企業や機関が限られてしまいます。

プライバシーの問題: 膨大なデータが収集されることで、プライバシーの侵害を気にする患者もいるでしょう。大規模な医療システムとAI開発者の間でのデータの共有に関する訴訟も起こされています。AIでは、そのアルゴリズムが直接的には受け取っていない情報であっても、患者の個人情報を予測することが可能です。例えば、ある人が、自分がパーキンソン病であることをだれにも知らせていなくても、画面に触れてAIシステムを使用しているときに、その震えから、パーキンソン病であることをAIシステムが識別できる可能性があります。特に、このAIシステムの推測を銀行や保険会社など、第三者が使用できる場合、これはプライバシーの侵害だと考える人もいるでしょう。

偏向と不平等: 倫理的なAIが大きな課題となっています。AIには偏向と不平等があります。AIシステムは、トレーニング用のデータから学習するため、そのデータに偏りがあれば、AIシステムにも偏りが生じます。例えば、主に大学病院で収集されたデータをAIのトレーニングに使用した場合、そのAIシステムでは、通常あまり大学病院に行かないようなタイプの患者についてはデータが少ないため、そのような患者の治療では相対的に効果が低くなります。また、音声認識のAIシステムを使って、診察時のやり取りを書き起こす場合、使用する医療従事者の人種や性別のデータがトレーニング用データにあまり含まれていないと、そのAIシステムの性能が低下する可能性があります。

デジタル医療市場とそのデータ

米国では、医療は全体で3兆ドルの産業であり、人工知能は、2030年代、2040年代には大きな優位を占める新しい革新的な巨大企業を生み出すことになります。

医療AI市場は、2021年までに複合年間成長率40%を達成する見込みです。これは主に、AIが医療の成果を40%改善すると同時に、治療費を半分に削減できる可能性があるためです。

投資家たちが2018年にデジタルヘルス企業に投資した金額は68億ドルです。AI関連のスタートアップ企業による2019年第2四半期の資金調達額は、75件の取り引きで8億6,400万ドルでした。CB Insightsによれば、第3四半期には、人工知能関連ヘルスケア企業への世界全体でのベンチャー投資額は、103件で合計16億ドルとなりました。この第3四半期の投資額には、Babylon Health社がシリーズCラウンドで5億5,000万ドルの資金を調達したことが大きく影響しています。ロンドンを拠点とするこのスタートアップ企業の調達金額は、米国および欧州のデジタル医療関連スタートアップの投資ラウンドで過去最高額となっています。

デジタル医療全体の実際の市場規模は非常に大きく、1,450億ドルに上り、1万8,000社のスタートアップ企業が参入しています。AI規制はまだ整備されていませんが、導入は進んでいます。

AIを中心としたヘルスケア市場は、2021年には66億ドルに達し、2020年には、医療データが73日ごとに倍増すると予想されています。

McKinseyは、ビッグデータを活用し、人工知能と機械学習ツールでそのデータを処理することにより、医療・製薬業界では年間1,000億ドルの節約が可能になると予想しています。

IDCは、2023年には、人間と機械のコラボレーション、AIを活用したインターフェイスにより、3分の1の病院で大きな変革が起こり、未来の働き方が実現されると予測しています。診断および治療用途でのAIへの支出が全世界で24%増加しており、2023年には49億ドルに達すると、IDCは予測しています。また、同じくIDCの予想では、2021年には、テクノロジーを活用して、健康に関するあらゆる観点からの情報を統合して個別化医療を実現する医療機関は50%まで増える見込みです。

北欧諸国

Nordic AIによると、医療会社や製薬会社におけるAIの導入はまだ初期段階ですが、病院や管理医療、個人の健康管理においては重要となっています。北欧ではデジタル医療に注目が集まっており、スウェーデンがその先陣を切っています。

北欧では、データの品質が、プライバシーやセキュリティと並んで、最も重要視されています。

中国

世界の医療AI市場で、中国はランキングを駆け上がり、トップになろうとしています。中国はすでに英国を抜いて、医療AIの市場の活発さでは世界2位となっています。

中国には、データの複雑性や、相互運用性に欠けるという問題がありますが、多大な労力をかけて医療データを1か所に集約しようとしています。

中国政府は地域ごとにいくつかの健康データセンターを開設し、国民保険の請求、出生/死亡登録、電子健康記録のデータを集約するという目標を掲げています。

カナダ

カナダでは、総医療費はおよそ2,420億ドルで、GDPの11.5%を占め、カナダ人の約10人に1人が従事している計算となり、AIを実現し、リードする役割を担ううえで、包括的な基盤があります。カナダには、大規模な公的医療制度があり、膨大なデータを収集できます。これがAI活用型医療用アプリケーションの開発に重要な役割を果たしています。カナダの各州は、医療関連データをリンクし、統合して、この価値ある情報をうまく活用するために大きな投資を行っています。カナダの持つ多様性により、ビッグデータ研究者は幅広いデータセットを利用することができ、あらゆる性別、人種、民族の人たちに新しい治療法の効果があることを確認できます。

また、カナダは臨床試験の実施および管理に最適な場所の1つとして世界から認知されており、現在も4,500件を超える臨床試験が実施されています。AIの利用は、臨床試験に参加する適格な被験者を見つけるうえでも、大きな効果があります。

深層学習の第一人者であるベンジオ教授は、深層学習は高度な医療を実現するための基盤になると考えています。機械は非常に系統立った方法で処理を行うことができ、トレーニングによって、(画像解析などの)タスクを医師や技術者と同等かそれ以上にうまく実行できるようになると、ベンジオ教授は言います。

カナダにはモントリオール学習アルゴリズム研究所(MILA)、アルバータ・マシン・インテリジェンス研究所(AMII)、人工知能研究のベクター研究所(VIAI)など、大規模な研究機関があるほか、モントリオール、トロント、エドモントンに最先端のスタートアップ企業があり、世界でもトップクラスのAI人材が集まる国となっており、AI分野をリードする存在です。

医薬品関連の大手企業

従来型の製薬会社は、革新的なソリューションを求めて、AI SaaSのスタートアップ企業との提携や取得を積極的に模索しています。

製薬会社は新しい治療法の候補を見つけるため、また、時間のかかる創薬プロセスを変革するために、AIアルゴリズムに巨額の投資を行ってきました。医薬品開発でAIを適用できるのは、創薬段階だけではありません。製薬業界ではAIを利用してがん治療用新薬の開発を行っており、新薬申請件数は記録的な伸びを見せています。

新しいトレンド

コンピュータービジョンとマシンビジョン

医療においてマシンビジョンは、診断、スキャン画像や医用画像の確認、手術などに使用されています。マシンビジョンにより、医師は出産時の母体の出血量を正確に知ることができ、分娩後出血による母体の死亡率を低下させるための適切な処置を取ることができます。神経疾患や心疾患の検出や腫瘍の特定のためにCTスキャン画像を確認する際に、AIが使用されています。

ゲノミクス

ヒトのゲノム情報を利用してその人に合った治療計画や臨床ケアを判断するなど、AIによって、ゲノム医療が進歩しています。薬理学、がん研究、感染性疾患の分野に影響を与えています。 AIにより、遺伝子の分析や病的状態を生じさせる遺伝子変異の分析にかかる時間を大幅に短縮できます。病気がどのように発生するかについて理解が深まるだけでなく、治療方法やその病気を根絶させる方法を知るうえでも役立ちます。臓器移植拒絶反応、のう胞性線維症、がんなど、多数の研究プロジェクトがあり、それぞれの病態に対する適切な治療を個別化医療で実現する方法が追求されています。

3Dプリンティング

3Dプリンティングは、医療分野におけるプロトタイピング、カスタマイズ、研究、製造に役立ちます。3Dプリンティングを利用すれば、外科医は、手術の準備として患者自身の臓器の複製を作ることができます。また、さまざまな医療機器や手術器具を3Dプリンティングで作ることもできます。3Dプリンティングにより、患者に合わせた快適な義肢をコスト効率よく作ることが容易になります。また、移植用の細胞組織や臓器をプリントすることもできるようになります。3Dプリンティングは、歯科や歯列矯正にも使用されるようになっています。

デジタルツイン

デジタルツインとは、対象をほぼリアルタイムで複製したものです。実際の医療の世界では、各個人の生涯のデータ記録の複製がデジタルツインとなります。デジタルツインは、手術で良好な転帰が得られる可能性を医師が判断するのに役立ちます。また、治療法の決定や慢性疾患の管理にも役立てることができます。デジタルツインには、効果的な患者中心のケアを実現して、患者経験価値を高められる可能性があります。医療におけるデジタルツインの利用はまだ初期段階ですが、非常に大きな可能性が秘められています。

XR(VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実))

XR(eXtended Reality)は、医療分野で幅広く使用されています。ヘルスケアVR/AR市場は、2025年には51億ドル規模に達すると見られています。この技術は、トレーニングや手術のシミュレーションに非常に役立つだけでなく、患者ケアや治療にも大きな役割を果たしています。VRは、視力障害、うつ病、がん、自閉症などの患者の助けになっています。ARは、医療従事者の支援に役立つだけでなく、外科医が脳外科手術や血管縫合を行う際にも利用されています。仮想の世界と現実の世界を結び付ける技術は、医療専門家の教育に大きな可能性を提供するだけでなく、患者に自分の状態や治療計画を理解してもらうのにも役立ちます。

AIを使用した認知療法

メンタルヘルスケアは、費用が高く利用可能性も高いにもかかわらず、AIでの対応が非常に困難な分野となっていますが、同時にとても面白い分野でもあります。メンタルヘルスのセラピーの費用が高く、年中無休で利用できるという点には、新しいAIベースのメンタルヘルスエージェントや対話型プラットフォームの可能性があります。メンタルヘルスは、症状のばらつきが大きく、分析も主観的に行われます。

対話型AI/NLP(自然言語処理)を利用して、認知行動療法の効果を上げることができます。 このような技術を利用した新しいAIセラピーが実際に出現しています。 会話機能を利用した認知行動療法のアプリケーションで、そのときどきの気分を記録したり、デジタル日記の機能を提供したりできます。まだ初期段階であるため、定期的な確認を行ったり、人間のように言葉を発して話し相手になったりできる程度で、機能は限られています。

「AI Ready」を実現する大規模なデータセット

アルゴリズムに異常の識別方法を教えるため、画像に注釈を付ける必要があり、そのための医療専門家の需要が大きくなっています。テクノロジー業界では、この注釈に多額の投資を行っており、そのデータセットをほかの研究者やグループも利用できるように公開しています。注釈付きのデータセットが一般に公開されることで、ほかのAI研究者の参入障壁が低くなります。

医学的な専門知識の民主化

熟練者の知識や経験を共有できれば、未熟な医療従事者の助けとなります。眼科や放射線科は、AIによる画像分析の技術の開発に長年力が注がれてきこともあり、こうした取り組みが多くなっています。従来であれば眼科医が必要だった、眼科画像診断を行えるようにする取り組みもあり、一般開業医や、あるいは患者自身が診断結果を知ることができます。多くの分野で専門家、特に高いスキルを持つ専門家は、ニーズに対して不足しがちであるため、このような民主化が重要になります。

バイオメトリクス技術の進化 - ディープニューラルネットワークによる未知のリスクパターンの特定

AI研究者は、これまでは定量化が困難だった異常な危険因子の研究と測定を始めています。パターン認識に優れるAIは、今後も新たな診断方法やこれまで知られていなかった危険因子特定の実現に向けて道を開き続けるでしょう。ニューラルネットワークを使用した網膜画像と音声パターンの分析によって、心疾患のリスクを特定できる可能性があります。

一例として、ディープニューラルネットワークを使用した網膜画像と音声パターンの分析が、心疾患のリスクの特定に役立つ可能性があります。

高度なAIの活用事例

MLとAIの応用事例は、ほとんどが診断、研究、創薬の分野です。一般的な使用事例としては、糖尿病と高血圧を患う患者を対象とした、網膜スキャンの画像認識による網膜症の初期兆候と進行状況の特定が挙げられます。また、心電図検査、X線、超音波検査、CTスキャン、MRIスキャンで異常を識別するためにも役立てられています。

AIによる患者経験の効率化

最近は、エクスペリエンス(経験、体験)が重要視されています。病院、診療所、医師が日々、より多くの患者に質の高い対応ができるように、シームレスな患者経験を実現することが、患者を引き付け、成長と増収を実現するうえで非常に重要になりつつあります。

3万5,000人の医師を対象とした2016年の調査では、患者の不満の96%が顧客サービスの不足、事務手続きの煩雑さ、窓口での不快な経験となっていました。

医療分野のAI技術の新しいイノベーションによって、患者経験が合理化され、病院職員が膨大なデータを迅速に、効率的に処理できるようになります。

現在の医療業務ではコンピューターでの作業が大部分を占めていますが、AIによってその作業の多くを自動化できます。医療従事者は、画面を見たり、キーボードで入力したりして、電子カルテを処理するために多くの時間を費やします。検査室でも同様です。AIシステムによって、患者のカルテの中で特に重要な情報を整理し、予約や会話の記録から要点を抜き出して構造化データに落とし込むことができれば、医師の時間を大幅に節約でき、医師と患者が向き合って話す時間が増え、両者にとって質の高い診療を実現できる可能性があります。

AI創薬 – AIを活用した新薬の開発

開発費用はどんどん膨れ上がり、また研究には膨大な時間がかかるため、製薬業界は身動きが取れなくなっています。1つの薬の臨床試験完了までにおよそ26億ドルの費用がかかりますが、新薬候補のうち実際に市場に出回るのはわずか10%に過ぎません。バイオ製薬会社は、技術の飛躍的進歩により、AIによってもたらされる効率性、精度、知識にいち早く気付き始めています。

創薬におけるAIの飛躍的進歩として最も大きなものは、2007年にアダムというロボットに酵母の機能を研究するという仕事を与えたことでした。アダムは、公開データベースの数十億件に上るデータを徹底的に調査し、酵母の中の19の遺伝子の機能について仮説を立て、9つの新しく的確な仮説の予測を行いました。

医療の分野にAIが登場したことで、医療データや患者の見方が変わってきています。製薬業界では、AIの活用により、科学者による新薬開発の方法、感染症への対策などが大きく変わりました。

製薬会社は、創薬サイクルが長すぎるという課題に対する革新的な解決策を求めて、AI SaaSスタートアップ企業に手を伸ばしています。深層学習や人工知能が利用できる最大の機会は、全く新しい兆候を特定するところにあります。AIは、新薬開発、服薬遵守(アドヒランス)の支援、臨床試験の詳細分析に大きな役割を果たすでしょう。機械学習のアルゴリズムは、医薬品の生物的相互作用や化学的相互作用の調査に使用されるようになります。

AIによる医療データの管理

価値の高い情報が膨大なデータの中に埋もれてしまえば、数千億ドル分の損失にもなりえます。また、重要なデータを結び付けることができなければ、新薬や予防薬の開発、適切な診断に遅れが生じます。

医療業界では、データ漏れを防ぐ手立てとして人工知能を活用しようという動きがあります。

Medical Device Software-as-a-Service(サービスとしての医療機器ソフトウェア)としてのAI

米国食品医薬品局(FDA)では、医用画像処理および診断用のAIソフトウェアの承認を急速に進めています。多くのアプリケーションが短期間でFDAの承認を受けています。特に近年のAIの急速な進歩を受け、FDAは、Software-as-a-Medical-Device(SaMD)(ソフトウェア医療機器)の明確な定義と規制に力を注いでいます。

また、FDAでは事前認証の制度を設け、企業がデバイスに軽微な変更を加える場合にはその都度申請をする必要をなくし、AIの進化に対応しやすくしています。

AI-as-a-Service(AIaaS)プラットフォームは、FDAの承認を受けたホームモニタリング機器と連携して、異常があれば医師に通知することができます。

正確な医療診断 - 診断の効率化と誤診低減のためのAIの利用

深刻な誤診の件数は毎年1,200万件を超えており、医療の質が十分でない地域も数多く存在します。病気の誤診と医療過誤は、米国全体の死亡原因の10%を占めています。医療診断へのAIの適用は、患者転帰に関するデータが限られているため、現在はまだ導入初期段階です。病歴情報の不備やデータ件数の過多は、致命的な人的ミスにつながるおそれがあります。

医療分野へのAIの適用は、診断プロセスを改善できる見込みがあることから、大いに期待されています。AIは、たいていの医療専門家よりも迅速に疾病の予測と診断ができます。

AIソリューションによって、診断を迅速化し、精度を高めることが可能です。2022年までには、AIはその能力をさらに進化させ、医療従事者の診断方法や医療システムにおける診断の扱いに影響を及ぼす可能性があります。AIによって新たな扉が開かれ、個人が自分の健康状態の変化をリアルタイムで把握できるようになっていくでしょう。

これまでのところ、AIの適用範囲は、病理学者および放射線科医による診断の所要時間短縮と正確性向上に限定されています。

検査病理学 - 病気の早期発見

病理学にAIを活用すると、画像分析、希少オブジェクトの特定、セグメンテーション、ホールスライドイメージング(WSI)が容易になります。近年の臨床診療において人工知能とデジタルパソロジーの導入が進んだことにより、新しい「価値に基づく医療(value-based care)の提供」という考え方が生まれています。

  • アルゴリズムと深層学習を使用したAIモデルの研究では、11人の病理学者よりも高い発見率で乳がんの診断を行っています。
在宅診断とウエアラブル端末

人工知能により、スマートフォンや消費者向けのウエアラブル端末が強力な家庭用診断ツールとなります。スマートフォンを診断ツールとして使用することで、新たな可能性が開かれます。

ウエアラブルテクノロジー - 80%以上の人がウエアラブルテクノロジーの利用に前向きであり、医療分野でこのような機器を使用することには、非常に大きな可能性があります。最近のスマートウォッチは、万歩計として使用できるだけでなく、心拍のモニタリングもできます。その他のウエアラブル端末としては、心房細動を検出して医師にレポートを送信する心電図モニターや血圧計、体温や心拍数などをトラッキングできる粘着式のバイオセンサーパッチなどがあります。ウエアラブルテクノロジーにより、一般の人が自分で記録を確認し、異常があれば予防的に健康のサポートを受けられるようになります。

医用画像処理と放射線医学

医用画像処理にAIを使用すると、医用画像再構成、ノイズ除去、品質保証、セグメンテーション、トリアージなどのさまざまな重要な処理を実行できます。

深層学習により、画像内の固有の特徴の識別、画像品質の改善、外れ値や異常の特定ができます。多くの医用画像研究所は、適切な水準の効率性と専門性を実現するため、先進技術を俊敏に取り入れようとしています。今後登場する多くのAIベースのアプリケーションには、ラジオゲノミクス、コンピューター支援検出(CAD)、分類の分野で可能性があると言われています。

次世代の補装具

まだ初期段階ですが、生物学、物理学、機械学習を組み合わせた補てつ研究への取り組みも現れています。機械学習を使用して、体に取り付けたセンサーからの信号を解読し、補装具を動かすコマンドに変換する研究が始まっています。

ロボティクスとIoT

業界に大きな成長が期待されていることを背景に、世界の医療ロボティクス市場は2023年には200億ドル規模に達すると予想されています。AIとIoTを組み合わせることでさらに大きな価値を生むことができ、さまざまな医療機器やセンサーをインターネットに接続して重要な患者のデータを大量に収集できるようになります。

AIロボット支援手術

ロボット支援手術の人気が高まりつつあり、病院では低侵襲手術から開心術まで、あらゆるところでロボットが使用されています。Mayo Clinicによれば、医師がロボットを使用すると、人間の能力を超えた精度、柔軟性、制御性で複雑な手技を行うことができます。

ロボットにはカメラ、機械のアーム、手術器具が搭載され、医師の経験、スキル、知識を補い、新しい形の手術を実現します。執刀医がコンピューターのコンソールに座って機械のアームを操作すると、ロボットは手術部位を拡大して三次元で執刀医に提示します。これにより、執刀医の目だけに頼っていては分からなかったことも確認できます。執刀医はチームのほかのメンバーに指示を出し、メンバーはロボットと緊密に連携を取って手術を進めます。

調査によると、ロボット支援手術では、手術による合併症が少なく、痛みが軽く、回復までの時間が短いという結果が出ています。

ロボット手術や協働ロボットはすぐに、多くの定型的な手術では医師より優れたパフォーマンスを発揮できるようになるでしょう。医療技術の導入は加速していくでしょう。手術支援ロボットのダヴィンチは、すでに手術室で人の作業を支援しています。

その他のロボティクスの事例

医療におけるロボットの可能性は、手術用途に留まりません。医療分野でのロボットの使用は、さらにさまざまなタスクに広がり続けるでしょう。すでにロボットは、「テレプレゼンス」を使用した医師による地方在住患者の検査や治療の支援、医薬品の輸送、病室の消毒、リハビリや補装具による患者の支援、検査の自動化、医療機器の包装などに使用されています。

治療を必要とする高齢者が増加する中で、ロボットはその圧倒的な需要に対処する1つの手段になると研究者たちは考えています。

  • 対話型AIエージェント - Ipsoft社のAmeliaなど、高齢者管理/高齢化に対応するAIの対話型/コグニティブエージェントがあります。
  • ロボットコンシェルジュは、高齢者が自分の力で生活を続けられるように支援します。ロボットは、料理や掃除から人との付き合いまで、あらゆる能力を備えています。ロボットには高齢者のケアや社交的なやり取りができるものもありますが、人間に固有の倫理の問題をどう扱うかについては課題が残ります。
  • マイクロボットのロボットでは、腫瘍に対する放射線照射や細菌感染の除去など、特定の部位に対する標的療法を行うことができます。
  • モバイルロボットテレプレゼンス(MRT)システムはすでに、高齢者との間でポジティブな社交的なやり取りを行えることが確認されています。MRTとは、基本的には頭の位置にディスプレイがあり、足元にタイヤが付いていて、遠隔地からシンプルなスマートフォンのアプリでコントロールできるものです。MRTを使うと、高齢者が地方や遠隔地に住んでいても、近親者やソーシャルワーカーが頻繁に「訪問」できるようになります。高齢者が機器を操作する必要はなく、自由にソーシャルワーカーや家族とやり取りできます。
  • ヒューマノイドロボット(人型ロボット)は、進化を遂げており、強く望まれてきた高齢者のケアができるようになっています。こうしたロボットは、物を拾ったり、自分で動き回ることができ、腕や手のジェスチャーを使うなど、人間のような自然なやり取りができます。さらに先進的なものでは、タッチスクリーンなど、高度なセンサーや装置が搭載されています。多くの高齢者は、タッチスクリーンを使うのは難しいと感じ、ロボットに対して会話型のコマンドを使って、画面以外で応答を受け取ることを好んでいました。一方、加齢により難聴や視覚障害がある高齢者にとっては、タッチスクリーンを使用するという選択肢があることが必須でした。人型ロボットについては、主に技術的な機能の評価に注意が向けられてきました。社会的、倫理的な影響については深く検討されてきませんでしたが、これが今後の課題となっていく可能性があります。
  • ドローン - Zipline社はシリコンバレーの企業です。ドローンと医療を非常にうまく結び付けています。2016年にルワンダ政府と契約し、オンデマンドのサービスを開始しました。緊急の医療処置用に50種類の血液製剤(血液、血しょう、血小板)を届けています。

医療の未来

AIの持つ可能性を引き出すには、AIのアルゴリズムのトレーニングや設計に使用できるデータの可用性、量、品質、完全性が重要であることは明らかです。それには、電子医療記録を全国的に導入し、構造化された医療データを包括的に収集する必要があります。

また、医療従事者ごとにデータがサイロ化されていて、データのやり取りができないと、患者が同じ検査を不必要に何度も受けることになります。そのような事態を避け、またデータが損なわれることのないように、すべての医療従事者のデータの相互運用性を実現するには、複雑な課題が伴います。

課題を克服するには、何らかの形で国家的なデジタル医療の計画を実現していく必要があります。その計画を通じて、医療データを1カ所にまとめて、そこに自分のデータを所有できるようにします。また、すべての医療機関に対して参加を必須として、生成された医療データをすべて共有できるようにします。国家的なデジタル医療の計画ができれば、これまでは想像できなかったような形で医療に破壊的変化をもたらすテクノロジーを実現するのに適切な環境が生まれるでしょう。

これからの医療は、今とは全く違うものになる可能性があります。将来的には、遺伝子とプロテオームのデータが、ウエアラブル端末や環境センサー、さらにはTwitterやFacebookなどのソーシャルメディアサイトから収集された情報と組み合わされ、特定の疾患のリスクとその兆候を明らかにするために使用されるようになります。医療従事者や医療消費者が症状の進行を妨げるために利用できる、低コストの医療的介入を企業が実現するには、このような情報が必要になります。複数の診断や従来型の臨床検査、ウエアラブル端末から得られるこのようなデータを組み合わせることで、疾病リスクの全体像が明らかになり、医療従事者やヘルスコーチは、長期的な行動変容につながる、早期の低コストの医療的介入を優先させることができます。

身に着けた服やアクセサリーで、汗や呼吸、心拍のデータが継続的に収集されるようになったらどうでしょうか。何か異常なパターンが見つかれば、ぱっと警告が出て、その場で医師に相談して診療が受けられるようになります。医師は、病気が進行する前に一次診療の提案ができるようになります。病気が深刻であれば、医師は患者に対面診療に来てもらうように伝えます。その場合、医師はインテリジェントな機能を利用して、患者の到着前に、発作などの詳しい病歴の情報を確認できます。医師は患者を診察し、アルゴリズムによる提案を受けながら、必要な検査を依頼します。医師は、最も重要である、治療における人間的な触れ合い、共感を通じて、患者の痛みや苦しみを軽減することができます。コグニティブAIを利用して、過去の病歴、これまでの病気の症状、治療に対する反応をすべて考慮したうえで明確な診断がついたら、標準的な治療法と、その患者に最も効果がある方法をもとに、AIが治療計画を提案します。医師はそれを承認し、処方を行います。

集合知と呼ばれる技術を利用すれば、伝染病などの病気が蔓延する前に発見できるようになります。治療への反応に関する蓄積されたデータをもとに、スーパー耐性菌などのパンデミックの問題を回避することも可能になるかもしれません。私たちの想像力が及ぶ限り、その可能性には限りがありません。

医療の仕組みをAIで変革すれば、医師はより多くの患者を効率よく治療できるようになる可能性があります。それは、今後の医療で優れた患者経験を提供することにもつながっていくでしょう。

* コラムは筆者の個人的見解であり、日立システムズの公式見解を示すものではありません。

* 記載されている会社名、製品名はそれぞれの会社の商標もしくは登録商標です。

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