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株式会社 日立システムズ

第21回 いよいよ社長向けプレゼン

合宿が終わり、あっという間に社長向けのプレゼンテーションの日がやってきた。
「はぁ…憂鬱だ」
富永は朝食のトーストをかじって、何度目かの深いため息をついた。
「もうやめてよ、そんなにため息ばっかり…こっちまで暗くなっちゃう」
妻がそういうのも無理はないが、しかし自分の置かれた境遇はあまりにも酷なのではないかという気がしてくる。
「俺は、プレゼンが苦手なんだよ…なんでそんな俺が、失敗したら会社が傾くかもしれないような重要なプレゼンを任されないといけないんだ…」
社内では気を張っていても、家にいるとつい本音が漏れる。
「そうね、あなたプロポーズの時だって『僕と結婚してください』の間に3回噛んでたもんね…あっはっは」
「…おい、こんな時にそんな話しないでくれよ!」
「でも、おかげで私はこの人についていこうと決めたのよ。それのどこが失敗なの?」
「えっ…」
富永ははっとした表情で妻を見つめる。
「下手でもいいから、本気でやっておいでよ。
きっと、それで大丈夫だから」

ちょうどそのころ。
「はぁ…憂鬱だ」
H社のミーティングルームで、安田が何度目かの深いため息をついた。
「お前、案外小心者なんだな」
日比野はそんな安田の表情を楽しむように眺め、コーヒーを一口飲む。
「…なんでお前はそんなに余裕なんだ」
そう聞くと、日比野は眉一つ動かさずに答える。
「手を尽くしたからだよ。チームのメンバーも2泊3日の合宿…その後今日までの準備期間でもあんなに頑張っていたじゃないか。俺たちは俺たちで合宿所と本社を行き来して、社長の意向をしっかりとくみ取ったうえでここまで来ている。これ以上何ができた?あとはじたばたせずに結果を見守るだけだ」
「…その通りだな」
安田は最後に一つだけ控えめにため息をつくと、少し冷めたコーヒーをすすり、時計を見た。運命の瞬間まで、あと1時間ほどだ。多忙な社長たちを待たせるわけにはいかないので、安田たちは早めにプレゼンのセッティングを行うべく、30分前には社長室を訪れることにしていた。

社長室内に設けられている会議スペースに、あすなと木田がプロジェクターを設置し、そこに富永のパソコンをつなぐと、突貫工事で作られたプレゼン資料の1ページ目が投影された。ちょうどそのタイミングで、社長以下数名の重役が入ってきた。そこには山西の姿はない。
「一応知っているとは思うが、紹介しておこう。今日同席してくれているのは、専務取締役の大村さんと、取締役管理本部長の唐沢さん、財務経理部長の吉村さんだ。専務は言うまでもなく私の相棒的な存在だし、唐沢さんと吉村さんには今回のプロジェクトの採算性を判断するために来てもらっている。よろしく頼む」
社長の声掛けに応じるように、全員がお互いに向かって頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「じゃあ、さっそく話を聞かせてもらおうかな」
あすなが印刷した資料を社長たちの手元に並べると、緊張を隠し切れない面持ちで、富永がスクリーンのそばに立つ。
「今回、プレゼンを担当する富永と申します。よろしくお願いいたします」
「ああ、始めてくれ」
社長に促され、富永はガチガチなまま説明を始めた。

プレゼンテーションの前半部分では、H社が置かれている現状分析と、それを打開するための方向性が示されている。要旨をまとめると、以下のようなものだ。

  • 増収増益は「仮の姿」に過ぎず、五輪後の需要減による影響で、最悪の場合、5年後には赤字に陥る可能性がある。
  • それを避けるためには、新規事業として5年以内に1,000億円程度の売り上げを計上できるようにしなければならない。
  • しかも、既存事業との共喰いを起こさないようにするためには、新規事業の柱として抜本的に新しいサービスを考案する必要がある。

「…というわけで、私たちが考案しました新規事業というのが…」
富永のプレゼンテーションの途中で、社長が口をはさんだ。
「富永君、いったんストップ」
「えっ?」

富永は驚いた顔をしたが、社長は同席している重役たちのほうを向いて、
「ここまでの現状分析だけど、君たちは大筋では同意できるものだと思うかい?…たとえば、5年後には赤字だという彼らのシナリオは、唐沢君にはどう見えたかな?」
そう聞かれた管理本部長の唐沢は、軽くうなずいて答える。
「…あまり想像したくないシナリオではありますが、最悪のラインとして、確かに赤字転落はありうるところだと思います」
「うん、そうだよね。吉村君も同じ意見かい?」
東野社長は、吉村部長にも見解を尋ねる。吉村は管理本部長の顔色を見つつ、言いにくそうに答えた。
「5年後に赤字転落というのは、実は災害などの突発的な事象が起こらないという前提でのシナリオだと思われます。そういう意味では、何らかの事象でもっと早く赤字計上をせざるを得ないようなことも、ありうるのではないかと。そう考えると、これが最悪のシナリオなのかどうか、ということすら疑わしくはないでしょうか」

「そうだね…でも、君の言う通りかもしれないな。ともあれ、この部屋には現状を楽観視している人は一人もいない、ってことは確かなようだね…富永君、そういうわけだから安心して続きをプレゼンしてくれていいよ」
東野はそういって微笑みながら富永に続きを促した。
その様子を見ていた日比野は、改めて東野の懐の深さに感銘を覚えた。「あなたがカジ取りしている会社はもうすぐ赤字になります」という内容のプレゼンを若手社員から受ければ、たいていの経営者はいい気持ちはしないものだ。それをしっかりと受け止めたうえで、同席する全員の見解をそろえてからプレゼンの話を聞く態勢を作ることで、少しでも富永が話しやすい空気をつくろうという東野の隠れた配慮を、日比野は感じ取っていた。

つづく。

 

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