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株式会社 日立システムズ

第19回 社長の強力なリーダーシップ

約束の時間の5分前に、日比野と安田は社長室につながっている応接間に通された。秘書に出された紅茶の香りがふんわりと立ち込めている。
「日比野がここに来るのは、初めてか?」
「…いや、先代の社長のときに、ちょっとな」
「へぇ、そうか」
日比野はかつて、奨学金基金の設立を当時の社長に直談判したことがあり、それがしこりになってH社を去ることになった…いきさつがある。しかし、安田にそのことは話していなかった。半ば、H社に追い出された形になった自分が、いつの間にかH社を救うために奔走しているという巡り合わせを感じた日比野は、つい「皮肉なもんだな…」と、つぶやいた。
「ん?何か言ったか?」
「…いや、こっちのことだ」
と我に返った瞬間、扉が開き、社長が入ってきた。

「やあ、お待たせして申し訳なかったね」
「いいえ、お時間をいただきありがとうございます」
「いやいや」
社長は安田と言葉を交わした後、チラリと日比野を見て
「日比野さん、この度はお世話になっております」
社外の人間となった日比野を重んじる口調で、自ら名刺を差し出した。「代表取締役社長 東野武大」と書かれた名刺には、H社の代表電話の番号しか書かれていない。滅多なことでは、自分のメールアドレスや携帯電話の番号を知らせないのだ。
「こちらこそ、貴重な機会をいただき、感謝しております」
名刺の交換を終えると、東野は日比野に意味ありげな微笑みを向けた。日比野は一瞬、その意味を測りかねたが、東野はそのまま
「まぁ、おかけください」
と、二人に着座を促し、さっそく本題を切り出した。
「…プレゼンまで一週間だな。首尾はどうだ?」
「は、はい。おかげさまで新規事業の草案は、ある程度まとまりが出てきたところです。プロジェクトチームのメンバーはまだ合宿を終えていない段階なのですが、一度私たちの考える方向性を社長とすり合わせておこうと思いまして」
「うん…どうだ、面白いアイデアになったか?」
わずかな時間の会話ではあるが、日比野は安田と東野のやり取りから、東野のスタンスを感じ取っていた。新規事業の立ち上げという、H社では何度となく失敗に終わっていたプロジェクト。どの会社でも言えることだが、この手のプロジェクトが立ち消えに終わるのは、たいていトップ、つまり社長のリーダーシップの影響に拠るところが大きい。会社の長期的な発展よりも短期的な、つまり自分の任期中の時価総額を落とさないことを優先するような社長の場合、新規事業プロジェクトは「やったふり」で終わることが多いのである。
東野の興味の持ちようを見る限り、少なくとも東野はこの新規事業プロジェクトに本腰を入れているように見受ける。そもそも、東野が今日の会談に快く応じてくれたこと、さらに元をただせば安田のようなエースをプロジェクトリーダーに据えたことも、社長の本気度を伺えるものだ。

「なるほど…不動産業の我々がモビリティに挑むわけか」
安田がひと通りの概要を説明すると、社長は沈思した後、尋ねた。
「非常に面白いプロジェクトになることは間違いないが…長い目で見て、既存の住宅とのカニバリゼーションを引き起こしはしないか?という点が、気になるな」
「…は、はい」
安田は虚を突かれたように、口ごもる。さすがだ、と安田は思った。たった数分の説明を聞いただけで、東野はプロジェクトメンバーの視界にすら入っていなかった部分を見抜いたのである。
カニバリゼーション、直訳すると「共食い」である。H社が既に手掛けている住宅事業のシェアが、同じH社の「走る家」によって奪われることを、東野は懸念したのだった。
「当社のリフォーム事業と住宅サービス事業を加えると、既に1,000億円を超える売り上げが上がっているわけだよね?それだけの売上を食い散らかすことなく、新しい売上を1,000億円積み増すことが本当に可能なのだろうか?」
安田はその言葉を聞いて、絶望的な気分になった。若いメンバーがあんなに頑張ってくれたのに、俺はそんなことにも気づかなかったのか…。ちらりと日比野の表情を盗み見ると、何か考え込むようにしている。こいつの頭脳の中では、果たしてこれを論破するロジックが組み立てられているのだろうか。
しかし、日比野は動かない。なぜだ?あの4人が考えたアイデア以上のことを、ここで口走るわけにはいかないと思っているのか。それとも、俺に気を使っているのか…?
安田がパニックに陥りかけたとき、考え込んでいた東野が口を開いた。
「安田君、前提の確認をしよう。君が言った1,000億円というのは、国内市場だけの数字かね?」
「は、はい…そうです。国内で年間12,500台を売り上げるという目標を、いったん掲げました」
安田はそう答えながら、東野の思い付きに驚愕した。まさか、東野はそれを言おうとしているのか?
「…海外、出ちゃえば?」

H社は首都圏や大阪・名古屋といった都市圏を中心に業績を伸ばしている会社だ。海外への進出は、おそらくこれまで論じられたこともないだろう。
「しかし…それはあまりにも…」
安田は思わずそう言ったが、反面「おもしろい」と思っていた。それを感じ取ったからか、東野は「ふふっ」と笑って言葉を継いだ。
「当然、前例はないだろう。でもこれは新規事業なんだから、それくらいじゃないと。カニバリゼーションを避ける意味ももちろんあるが、トレーラーハウスのような低所得層に向けた市場開発も海外ならできるかもしれないだろう?ましてや、自動運転車がいつ日本で解禁されるかも分かったもんじゃない。社会実験を積極的に行っている場所を、グローバルな規模で探したほうが良いに決まっている。どうだ?」

ディスカッションを安田に任せていた日比野は、東野の提案に内心驚愕していた。部下の持ち込んだアイデアをダメ出しするだけなら、誰でもできることだ。しかし、東野はそれだけにとどまらず、部下たちとともに考える姿勢をこの場で示して見せたばかりか、あっさりと海外進出というアイデアまで持ち出したのである。ああ…これは今度こそ上手くいくかもしれない、と初めて日比野は思った。
「ありがとうございます。週が明けたら、さっそくメンバーと検討を進めます」
「うん、海外では僕らは完全な無名だから、その辺も含めて慎重に考えてほしいな…」
安田に対してそう言葉を投げかけながら、東野は日比野のほうをチラッと見た。
「日比野さん、この後ちょっと話さない?」
「はっ?」
日比野は、思わずたじろいだ。東野の目は、先ほどと同じ意味深な微笑みをたたえている。

つづく。

 

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