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株式会社 日立システムズ

第6回 顧客は誰だ?

「社長、コーヒーが入りました」
「ああ…」
株式会社ビジネス・キューピッドの社長室では、いつもどおりの1日が始まっていた。H社のプロジェクトはひとまず順調に滑り出すことができたように思われた。キックオフミーティングが終わった後、安田からも「おかげで良いスタートが切れたよ」と労いの言葉をもらうことができたのだった。
「ええ…それぞれの立場でお仕事を頑張られてきたんでしょうけど、それよりも必要なのは全社的な視点と、新しいアイデアを着想できるか、というところですよね…どなたか、気になる人がいたんですか?」
「うむ、最年長の庄司と、そのすぐ下の富永。この2人のモチベーションがあまり上がっていないようだ。危機感を持たせようにも、今後赤字に陥ることなどまるで信じられないといった様子だ…」
「どうします?」
「…あまりやりたい方法ではないが、少し彼らに花を持たせてみるか。あのままではミーティングが白けてしまいかねない」
「…ふふふっ」
ナミが笑ったのを見て、日比野は「どうしたんだ」と訊く。
「確かにあのままだと、あすなちゃんばかり目立っちゃいますもんね」
日比野をからかうつもりで言ったセリフだったが、
「ああ、あいつは、思っていたより大丈夫のようだな。安田のおかげかもしれん」
思いがけず正直な答えが返ってきたので、ナミはまた笑ってしまった。

次のプロジェクトミーティングは、3日後に開かれた。あすなが早めにミーティング室に入ってプロジェクターの設定をしていると、間もなく木田が入室してきた。
「ねぇ、あすなちゃん」
「あ、木田さん。お疲れさまです」
「あの日比野って人、どういう関係なの?」
木田は興味津々といった感じで尋ねてきた。
「…あぁ、私が学生の時にアルバイトさせてもらってたんです。たまたま、私が入りたかったH社のOBだったこともあって、就職してからもたまに近況を報告したりしてて」
「なるほどね…ねぇねぇ、やっぱりあの2人って、できてるの?」
木田はさらに前のめりになる。
「そこがまた歯がゆいんですよね…お互い好きなのは分かり切ってるのに、全然そんな感じにならないんですよ」
「えー、そうなの!?面白ーい!」
ついつい女子トークで盛り上がっていると、安田が日比野とナミの2人を連れて入ってきた。

「なんだ、騒がしいと思ったら2人だけか」
安田は不機嫌そうな顔を見せた。確かに、すでにミーティング開始時刻の10時を回っている。日比野とナミは、顔を見合わせた。やはりあの2人のモチベーションは十分に温まっていないようだ。
結局、2人が入ってきたのは、10時10分ごろだった。2人は「お疲れさまです」とだけ言い、遅れたことのお詫びもせずに着席した。
「おい、お前たち…一体何時だと」
苛立たし気に安田が口を開けたのを、日比野はとっさに制した。
「いや、すまん。2人には、前回の宿題の取りまとめをついさっきお願いしたんだよ。遅れたのはそのせいだ」
「何だって?初耳だぞ」
初耳どころか、日比野のセリフは真っ赤なウソだった。
「いや、本当さ。もう少し早く伝えるべきだったんですが、申し訳ありません」
日比野のウソにつられて、庄司と富永は
「あ、いえ…」
と戸惑いながら同調した。日比野はしれっと、ミーティングを始めた。
「前回の宿題は期日までに全員にご回答いただきました。1000億という数字を客数と客単価に分解するというものだったのですが、非常に難しい問いだったと思います。事実、4人の回答の中には、200社×5億と書かれた方もいれば、100万人×10万円と書かれた人もいて、答えがあまりにもバラバラなのです。庄司さん、取りまとめていてそのことに気づかれましたか?」
「え、えぇ…まあ」
庄司がうなずいてくれて、日比野は内心ほっとしていた。全員の宿題はメールのCCで共有されていたが、庄司は最低限それに目を通してくれていたことになる。
「もしかして、私の問いが良くなかったですか?あらかじめ、事前に土俵をそろえるための議論をしたほうが良かったですかね?」
日比野はわざと自分に非があるかのような言い方をして見せ、庄司にアイデアを求めるような言い方をした。それが彼の承認欲求を刺激すると思ったからだ。
「はい、実は、その点は私も悩んだのです」
「やはりそうですか。もう少し掘り下げたいのは、客数のほうですか?客単価のほうですか?」
「どちらかというと、客数です」
「ふむ…具体的にはどの辺を明確にすべきだったでしょうか?」
日比野はそう言いながら「良かったら、書きながらどうぞ」と、ペンを渡した。

既存製品 新製品
既存市場 戦略:市場浸透 戦略:新商品開発
新規市場 戦略:市場拡大 戦略:多角化

「皆さんもう知っていることかもしれませんが、新しい戦略を考える場合、まずこういったマトリックスを描いて、どの分野に打って出るかという方向性を決めるべきなのではないかと思いまして…例えばH社の場合、本業の不動産開発は主に鉄道会社など、有力な土地をおさえている企業向けに行ったりするB2Bがほとんどです。リフォーム事業も一般消費者向けのB2Cは少数です。今後も同様にB2B主体で行くのか、あるいはB2Cに思い切って舵を切っていくのか…まずはそこを絞り込むべきだったな、と」
庄司の説明を、皆メモを取りながら聞いている。彼が話しているのはアンゾフのマトリックスと呼ばれる、経営学の教科書でもよく見かける典型的なフレームワークの一つだが、メンバーはそういった勉強もいまだ発展途上ということだろう。が、それは日比野にとって大きな懸念ではなかった。
「よし、じゃあ今日はその点をしっかり検討しましょう。今から20分間、B2BとB2C、それぞれのメリットとデメリットを吐き出してみたいと思います。全員付箋を手に取ってください。最初の5分間で、付箋1枚に1つずつ、できるだけたくさん書いてください。残りの15分間で、それらを並べて足りないところを皆で検討することにします」
付箋が皆の手に渡ると、日比野は富永の肩に手を置いた。
「…たった今庄司さんに発言してもらったので、次は富永さんに仕切ってもらって良いですか?ストップウォッチを渡しておくので、スタートのコールからお願いします」
富永は「え、良いんですか?」といって、まんざらでもなさそうにストップウォッチを手にした。
「じゃあみんな、行きますよ?よーい、スタート!」

日比野は皆の手が動き出すのを見届けて、安田に耳打ちした
「喉が渇いた。コーヒーをおごってくれないか」
むろん、外に出て話そう、という合図だ。安田がうなずくと同時に、ナミに目くばせをして、日比野は部屋を出ていった。

つづく。

 

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