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株式会社 日立システムズ

第16回 でき上がった計画、そして次のステップへ

15分間の休憩が終わり、ディスカッションが再開された。
「それでは、各年度にどれくらいの台数が売れそうか、検討をしていきましょう」
そう言って日比野は表を書いた。

1期目 2期目 3期目 4期目 5期目
         

「先ほど、目標から逆算すると12,500台を売る必要があると言いましたが、今回は逆、つまり、現時点から引き延ばして何台売れそうか?と言う現実論を交わしていきましょう」
日比野がそう言った時、庄司が不安そうに口を開いた。
「これって、そもそも1台目はいつ売り出されるんでしょうね?自動運転車って、下手したら5年経っても実用化しないんじゃないかな、と」
「……」
庄司がそう言うと、みんな黙ってしまった。この手のディスカッションは、しばしばこのようなちゃぶ台返しにも思える発言で、突然みんながテンションを下げることも少なくない。しかし、日比野は涼しい顔を崩さない。
「いや、この事業の本質は、住まいにモビリティの概念を付け足すこと。そして、土地オーナーに新たな有効活用の方向性を提案できるようにすることでしょう…だとしたら、自動運転車が実用化するか否かに関わらず、この事業が実現できることはたくさんあるはずです」
「…そっか、確かにそれはその通りですね」
「むしろ、自動運転車を実用化するまでの間に、ウチが市場シェアをとってしまう方向で考えれば良いんです」

2時間ほどで、5カ年の売上計画が。ひとまずでき上がった。

1期目 2期目 3期目 4期目 5期目
0 500台 2,000台 5,000台 12,000台

「自動運転車の土台の上に、住宅やオフィスのユニットを載せる」という当初の案は「電気自動車の~」と置き換えられた。1期目は開発に終始するとみて、2期目から少しずつ販売が始まっていくという想定で積み上げられた計画は、1,000億円にわずかに届かないラインに落ち着いた。
途中、メンバーによって提案されたのが、起業家向けの販路であった。確かに起業してオフィスを借りようとした場合の保証金や月額負担を考えれば、「走るオフィス」も悪くない。
特に地方都市では駐車場代も安く済む。都市部でもカーシェアリングの要領で時間貸しするプランも、ニーズが見込まれると判断された。何より起業家向けの販路であれば、H社は既にレンタルオフィスやコワーキングスペースの分野にも進出しており、スピード感が出せる。
一方、リースに出された場合のユーザーの月額負担を考慮すると、単価はせいぜい500万円になるのではないか?ということになり、結局5期目の売上見込みは600億円と、当初の目標にはまだ遠く及ばない。

「うーん、やっと600億円か…」
木田がうめくようにそう言った。その声がおかしくて、ずっとディスカッションを手伝っていたナミが思わず笑った。
「あはは、もう一息ですよ。そもそも、今回の計画のようにゼロから600億円にたどり着くのも大変なことです。しかし、仮に600億円ものビジネスを生み出せたとしたら、その過程で、かなりの顧客を囲い込むことができているはずです。この顧客に対して、『走るオフィス』以外に売ることができるものがあるとしたら、どうでしょう?600億円からさらに上積みできそうじゃないですか?」
ナミが提案しているのは「クロスセル」という手法だ。ハンバーガーと一緒にポテトを売るのと同じで、「走るオフィス」と一緒に色々なものを抱き合わせで売るというものだ。
「それから、先ほどいったん平均単価を500万円ということにしましたけど、高級志向のモデルも開発することにしたら、どうかしら。例えば、大企業の社長車がただの高級車ではなく、オフィスとしても機能するような『走るオフィス』に乗っているとしたら…素敵でしょう?」
先ほどのクロスセルと似ているが、このように高額モデルを売ることを「アップセル」と呼ぶ。

こうして、夕飯時にはなんとか売上計画ができ上がった。日比野は、先ほどの休憩以来ずっと椅子に座って様子を見届けていた安田に、講評を求めた。
「…正直、ホッとしている。こういった新規事業の構想は、現実味のない絵空事になってしまったり、逆にとりたてて新規性のない凡庸なものに落ち着くことが多い中で、君たちは見事にそのどちらでもない領域を見つけてくれたと思っている…ありがとう」
安田のその言葉は、4名に対する最高の労いとなった。みんなが安堵のため息をつくのを見届けてから、安田は続けた。
「実は、さっき社長から連絡があった」
「えっ?」と、あすなが大きな声をあげる。
「来週の金曜日に進捗報告をしてほしいとのことだ。君たちのプランによっては私だけで行こうと思っていたが、このでき栄えなら…富永、お前にプレゼンを任せようと思う。ほかのメンバーもサポートしてやってくれ」
富永の顔が、緊張で引き締まった。H社ほどの規模になれば、社長と直接会うことができるのは安田のような執行役員・部長クラス以上か、秘書室や労組専従などの限られた部署の人間だけなのだから、無理もない。
「大丈夫だよ。お前のエネルギーで社長をあっと言わせてやれ」
そう強く言ったのは、庄司だった。たった2日ではあったが、切磋琢磨し、ぶつかり合い、そしてともにたたき台を作り上げるまでの間に、庄司は富永のことをすっかり認めるようになっていた。

「いいのか?大事な局面を部下に任せて」
日比野も安田にそう訊いておきながら、計画に目鼻がつくようになって内心ホッとしていた。
「ああ、アイツらが大きくならないと、H社は大きくならないからな…おい、みんな聞いてくれ。まだ話が残っているんだ」
みんなが静まってから、安田は笑顔でこういった。
「まだ、細かい仕上げの作業は残っているが、みんな、今日のところはここで一息つこう。食堂にお願いして、今日はBBQにしてもらっている。明日またフレッシュな状態で頑張ってくれ」
その言葉に、思わず歓声が上がる。そんな中で、ひときわ大きい声で「やっぱり!」と叫んだのは、あすなだった。
「私、そういう流れになるんじゃないかと思って、さっきお酒を買い込んでおきました!今日は飲みましょ~!」
「あっはっはっ、読みが鋭いな…おい、どうした?日比野」
日比野の顔が真っ赤になっているのに、安田は気づいた。そう、あすなが調達したお酒は、先ほど日比野が渡した一万円で買ったものに違いない。
「あいつ…お釣りをなかなか返さないと思ったら…」

つづく。

 

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