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株式会社 日立システムズ

第10回 枠からの脱却

「あすなちゃん、お疲れさま」
少し休憩を取ろうということになり、食堂の片隅にある自販機でホット紅茶を買ったあすなに、ナミが声をかけた。
「すごく生き生きしてるわね。立派よ」
そう言われて普段なら浮かれるところだが、今日は何となくそんな気になれない。
「うーん…でも、ビジネスを大きくするのって本当に大変なんだなって…当たり前のことに今さら気づかされてます」
紅茶を一口飲んだあすなは、ふーっと大きなため息をついた。
「安田さんに言われたとおりファクト(事実)をしっかり見つめようと思っていろいろ調べると、何か私たちの業界の暗い部分ばかり見えてきちゃうんですよね…どうしよう」
そう言って苦笑するあすなからは、もはや大学生時代にあった幼い雰囲気は感じられなくなりつつあった。
「私たちの業界…っていうのに縛られなければ良いんじゃない?」
「えっ?」
「だって、新規事業なのよ。同じことをやりたくて私たちはここにいるわけじゃないんじゃないかしら?」
ナミはあくまで優しい笑顔のまま、グサリと核心をついた。日比野が安心して合宿を任せて出かけるわけだ。

「そっか…そうよね。もう少し頑張ってみます」
「うん、その意気よ」
テーブルに戻ると、富永が待っていたかのように声をかけた。
「ああ、戻ってきたか。ちょっと思ったんだが…」
「はい、なんでしょうか?」
「こういう保養所って、大手の会社しか持ってないよな?」
「…そうですね、昔ながらの大企業じゃないとなさそうです」
「中小企業はどうしてるんだろな?こういう研修みたいなときは」
何でそんなことを訊くんだろう?と思いながら、あすなは
「会議室付きのホテルを予約するんじゃないですか?」
と答えた。
「いっそのこと、ここを貸してあげたらどうだろうと思って…」
富永の表情は、どこか恍惚としていた。
「…富永さん、冷静に考えてください。それでどうやって1000億稼ぐんですか?しかも中小企業向けの予約システムって、B2Bの話じゃないですか」
あすなもオブラートに包む余裕がだんだん無くなり、先輩の富永に向かってそれなりに無遠慮な口調になってしまっている。
「あ…そっか」
富永はあっさりとその案をひっこめた。
「うーん、借りたい人と貸したい人をつなぐのって悪くないと思ったんだけどなぁ…」
そうぼやく富永のセリフを聞きながら、あすなは「確かに」と思っていた。今までのH社のビジネスを一言で言うと、

  1. 不動産開発=建てて、売る/貸す
  2. リフォーム=リフォームして、その代金を取る
  3. 住宅サービス=マンションの管理業務などのサービスを提供して、その代金を取る

…といったものが中心である。
何らかの軸で、新しいことをやらなければいけない。そのためには、新規の顧客を開拓するか、それとも、既存の顧客に新しいことを提供するか…。こういったブレインストーミングに煮詰まったとき、あすなたちのように「そもそも論」に立ち返るのもひとつの方法である。

「なぁ、H社がやっているB2Cのビジネスの相手って、ほとんどは賃貸の大家さんだよな?」
「そうですね…不動産開発は企業向けですし、リフォームはB2Cといいつつ、収益物件を持っている人たち向けのサービスって感じですからね…」
「うん、そうなんだけど…彼らって何をしたがってるんだろうか?」
「…やっぱり土地の利活用とか、物件の有効利用じゃないですか?」
「じゃあ、今後、土地って何に使われるようになるんだろう…?それを見越すことができたら、新しいビジネスのパイの大半を奪えるんじゃないかな……いや」
富永の眼に輝きが戻ってきた。
「むしろ、新しいパイを焼くことができるんじゃないか?」
「パイを焼く?」
つまり、全く新しいビジネスをH社が主導権をとって創出しようということか。
「そう。ちょっとその線で考えてみよう。不動産オーナーの持つ土地をどう使うか」
今までSWOT分析をベースに考えていた内容から外れる発想だが、確かにそれもひとつの方法だという気がしてきた。
「分かりました、一緒に考えます」

その頃、本社では日比野と安田が役員会議室に呼ばれていた。
「まさか日比野君とここで再び会うことになるとはな…」
日比野の先輩であった営業本部長の山西が、そう言って笑みを浮かべるが、目は笑っていない。
「若手時代はお世話になりました。またこういうご縁をいただけて嬉しく思っています」
その言葉に他意はなかったが、山西は「ふんっ」と鼻で笑った。
「若手時代は、か。確かにお前は俺を追い越すように課長職に抜擢されたからな…まぁいい。それで、新規事業とやらは順調に練れているのか?」
「はい、鋭意準備を進めていますが、なにぶんプロジェクトはまだ緒についたばかりで、それらしい形にはまだまとまっていません。今ちょうど…」
安田の説明を遮るように、
「知ってるさ。合宿の真っ最中なんだろう?」
と山西が割り込む。安田は口をつぐんで、山西の次の言葉を待った。
「…大阪支社のほうで大型の開発案件が立ち上がった。うちの取り分だけで数百億になろうかという規模だ」
「ほう…数百億ですか」

安田は素直にその数字に反応した。もともと彼も不動産開発の畑を歩んできただけに、思わず血がたぎるのも無理はない。
「そうだ…新規事業を立ち上げて会社の立て直しを図るというお前の気持ちは買うが、結局俺たちは土地を開発してなんぼなんだよ」
山西のセリフの意図を、安田ははかりかねていたが、隣にいた日比野が鋭く切り込んだ。
「山西さんのしたいことは、大阪支社の拡張ですか?」
その言葉に、山西は目を丸くした。安田もだ。
「…ふふっ、H社を辞めてふざけた名前の会社でちまちま商売していると思いきや、ちっともその洞察力は衰えていない。さすが日比野くんだ」
「……」
「そのとおり。このプロジェクトを契機に大阪支社を大阪本社に格上げしようというわけだ。もちろんそこのトップの座は俺が射止める。H社の王道たる不動産開発で、俺は俺の方法でH社を立て直し、そして最後にはこの会社の頂点まで上り詰めてやる」
安田はそのシナリオを聞いて慄然とした。
「…何が言いたいのか、私も察してしまいました…」
「なら黙って従え。新規事業の開発をひっこめろ。そうすればお前は俺の右腕にしてやるよ」

つづく。

 

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