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株式会社 日立システムズ

第3回 新規事業の前に、理念の話をしよう

「俺にはリーダーの資質が欠けている、だと?」
安田は日比野の言葉を反すうしながら、顔を上気させた。
「いくらお前でも、言って良いことと悪いことがあるぞ。この会社で、曲がりなりにも俺は同期で最初に部長職の座を射止めたんだ」
安田のいうとおり、彼の辣腕ぶりは、H社の誰もが、そして日比野も認めているはずだった。
「…だったら、答えてもらおう」
日比野は冷静さを失わないまま、安田の持つA4用紙を指さした。
「お前には口頭で答えてもらいたい。そこに書いてある、3つの質問だ」

A4用紙には、3つの質問がかかれ、それぞれに回答欄が設けてある。

  1. あなたにはこの新規事業開発室で、やってみたいことがありますか。
  2. あなたは、H社の足元の業績をどう思いますか。
  3. もし、あなたがH社を辞めざるを得なくなったとします。そうなったら何に不満や不安を覚えますか。

「…俺に、アイツらと同じ質問に答えろというのか」
安田はいまだに顔を紅潮させたままだ。正直、これほどにまで安田が感情をあらわにするとは日比野も想像していなかった。しかし、実はそれこそが日比野の狙いでもあった。
「そうだ。答えてもらう…。お前はさっき自分で言ったはずだ。日比野がやることだから何か考えがあるのだろう、と」
「…分かった」

安田は怒りを収めるようにして、答え始めた。
「まずは1だが、『過去のプロジェクトチームでは思いつかなかった、画期的な新規事業の構想をメンバーとともに作り出すこと』に尽きる」
「…なるほど」
日比野は簡単に相槌を打ったが、それが安田の琴線に再び触れた。
「不満か?」
「まさか、そんなことはない。俺はただ安田の考えを聞きたいだけだ」
「…そうか。次の2だが…H社の業績に関する考えは前に話したとおりだから異論ないところだろう?」
「そうだな。そこは聞くまでもないかもしれない。3は?」
「これが一番難しい。H社を辞めるなんて考えられないからだ」
「そこを、『仮に』でいいから考えてみてほしいのさ」
安田はしばらく腕組みをして考えた。
「…やはり、自分の仕事を認めてもらえなかったことに怒りを覚えるだろうな」
「認めるって、誰がだ?」
「会社がさ」
「なるほど…ちなみに収入や生活面の不安は感じないのか?」
「それはないな。よほどのことがなければ退職金も出るだろうし、年収は落ちるだろうが転職先を探すことも不可能ではないだろうから」
「あはは、お前が辞めたら、そりゃ引く手あまただろうよ」
日比野はそこで、はじめて笑って見せた。

「なぁ…教えてくれ。これはいったい何なのだ?」
安田の心からはいつの間にか怒りが消え、むしろ日比野の3つの質問の意図を知りたいという好奇心が湧いている。
「あはは、気分を害したようで悪かったな。まぁ、すべては30分経てば分かることだから少し辛抱してくれ。それより、今ここで話しておきたいことがある」
日比野は、手帳を取り出して、3つのキーワードを書いた。

  • 経営
  • 理念
  • ビジョン

「これらの言葉の意味についてだ」
「……」
この俺に経営学の入門のような話をするつもりか?安田の眼が暗にそう言っている。
「おいおい、そんなに嫌な顔をするな。今俺が言っているのは、これらの言葉を、俺と安田、そしてメンバーで全く同じ意味で使おう、ということなんだ」

「つまり、認識をそろえろ、と?」
「そういうことだ」
「それなら分かる。皆が同じ意味で言葉を使わなければ、コミュニケーションにならないからな」
「だから、安田の言葉でこれらの言葉の意味を説明してみてほしいんだ。まずは、経営…これはどういう意味だ?」
安田は日比野の手帳にペンで書き加えながら説明をし始めた。
「経営という言葉を語るとき、残りの2つのキーワードがどうしても外せない。俺が考える経営とは、理念を実現するためのビジョンを描くこと。そしてそのビジョンを達成するためにヒト・モノ・カネを動かすことだ」
「なるほど。安田から見れば、理念なき経営はあり得ないわけだな…」
「もちろんだ」
「では、例えば今回の新規事業を、新たに子会社を設立して行うとしよう。その子会社にも理念を作らなければならないことになるな?」
「ああ、そうなるな。ただしその場合、H社の親会社としての理念も意識しないといけなくはなるが」
日比野は安田の説明に一つ一つうなずきながら、意味を頭の中で反すうし、そしゃくしていく。

「よし…じゃあ次の『理念』の意味を説明してみてくれ」
「ずばり、会社の存在意義だ。何のためにこの会社はあるのか」
「そうすると…儲けるため、というのは理念になるのか?」
日比野のこの質問は、むろん、ふざけているわけではない。むしろ、こういった質問を通じて安田の説明をブラッシュアップさせることを狙っているのである。
「儲けは結果論でしかない。理念を実現すべく経営を続けると、結局、顧客が満足して対価を払ってくれる。儲けはそのあとついてくるものだろう」
「となると、結局のところ理念はどういう意味なんだ?」
「理念とは、企業が誰に、どのように貢献するために存在するかを表したもの、だな。抽象的な言葉で完結する理念を掲げる企業も多いが、実はその裏には深い思いが隠されているものと聞く」
「ああ。覚えやすいように抽象化した理念を掲げる場合は、しっかりその解説ができるようにしておく必要はあるだろうな…では、最後の『ビジョン』について」
「ビジョンは、企業がめざす将来像を描いたものだな。例えば5年後までに、売り上げがどれくらいになっているか。あるいは、社会にとって企業がどんな存在になっているか」
「ふむ…売り上げや利益の定量化できる指標だけでなく、定性的なものも含めるわけだな」
ここまでの会話を、日比野は素早く手帳に書き留めている。これはあとでナミが清書してプロジェクトメンバーに配布することになっている。

「…そろそろ、時間だな」
日比野がそう言って立ち上がる。気づけばもうすぐ30分が経とうとしていた。
「ああ…あいつらがちゃんと質問に答えてくれるか心配だ」
安田はそう言って苦笑いしたが、日比野は笑っていなかった。
「向こうの部屋に戻る前に言っておくが…」
「今回のアンケートで試されているのは、安田、お前なんだぜ」
日比野はそういって先に廊下を歩いて行った。安田はその背中を追いかけながら、「どういうことだ?」と自問していた。

 

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