昔は、心理学を勉強していると言うと「ほう、じゃあ私の心を読んでもらおうか」などと、からかわれたものです。心理学が普及してきた現在では、さすがにそうしたことはなくなるとともに、モチベーションや集団の心理、対人コミュニケーションなど、心理学的な問題に深い関心を寄せる人が、以前よりもずっと多くなっています。
心は目に見えないものですから、心理学では目に見える行動を通じてその働きに迫っていきます。本コラムでは、私たちが日常で体験する出来事を取り上げ、その背景にある心の働きを解き明かすことで、人を活かすヒントを探っていきたいと思います。
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グループ・ダイナミクス(集団力学)という領域の創始者である社会心理学者のK.レヴィンは、行動を人と人を取りまく環境との相互作用としてとらえ、次のような公式で表しました。
つまり人の行動は、人の側の要因と、人を取り巻く環境要因とが絡み合って生まれるものであり、どちらか一方が欠けても行動は生まれません。
最近、企業の方や小・中学校の先生方との会話の中で、「内発的モチベーションをどう高めるか」が話題になることがよくあります。「上司から言われたり与えられたりして動くのではなく、自分から課題を見つけて解決し自分から動いてほしい」「先生に言われたからやるのでなく、自分で勉強に向かってほしい…」。こうした話の中で、「それって内発的モチベーションの問題ですよね」と聞かれることが多くなりました。
「うちの職場はモラールが低い」とか「わがチームのモラールは高い」など、職場や集団ではモラールという言葉もよく使われます。もとは兵士の戦闘意欲を意味する用語であったのが、集団への貢献に関わる個人の態度として、働く場面でも用いられるようになったものです。日本語では「勤労意欲」や「職場士気」などの言葉があてはめられています。
近頃はあまり耳にしなくなったようにも思いますが、「幽霊の正体見たり枯れ尾花」ということわざがあります。怖い、恐ろしいと思うと道端の枯れススキも幽霊に見えてしまうということですが、私たちの心の持ちようが思い違いや見間違いを生んでしまうことの、よい例といえます。
私たちの身近では、さまざまな災害や事故が起こります。想定を超えた自然災害は今も身近に発生しています。事故はどうでしょうか。水の事故、交通事故、医療事故など、さまざまな事故が起きますが、こうした事故ではその原因として「不注意」を挙げることがよくあります。
フィードバックとは、遂行状況や結果についての情報をもつこと、あるいは情報を与えることであり、仕事に限らずいろいろな場面で用いられています。 いま自分は目標のどのあたりまで届いているのか、達成状況のフィードバックが得られれば、その後の努力の量を調節することができ、目標達成までの計画もさらに具体的になります。反対に、進捗状況についての手がかりがないままに仕事を進めなければならないときには、ロスも多くなってしまいます。
連載第5回で「企業不祥事はなぜなくならないのか」を取り上げましたが、その後も相変わらず不祥事は続いています。重電メーカーの不正会計、自動車メーカーの燃費データ不正公表問題など、日本を代表する企業の経営陣が記者会見でそろって頭を下げるという、大変残念な光景がテレビや新聞を賑わしました。悲しいことですが、いまやこうした光景は珍しいことではなく、私たちの倫理感覚も何か麻痺していくような思いさえします。
私たちが行動するためには、行動を引き起こす内部的な力が必要です。これを欲求とよびます。生命を維持しようとする欲求から、自分の持つ可能性を最大限に追い求めたいという欲求まで、人の内部にはさまざまな欲求が存在します。こうした欲求が私たちの内部に秩序をもって存在するという、A.マズローによる欲求階層説(5段階を想定していることから欲求5段階説とも)は、広く知られているところです。今回は、欲求のあれこれを見ていきましょう。
集団や組織における良好な人間関係は、仕事や課題へのモチベーションを促進します。良好な人間関係を築くためには、お互いの信頼関係は欠かすことができないものです。 リーダーシップ研究の中でも、従業員の上司に対する信頼感が、組織へのコミットメントや仕事継続意思に影響を与えることが明らかになっています。
あなたがいま取り組んでいる仕事は、あなたに充実感や満足感をもたらしているでしょうか。普通に考えれば、取り組んでいる仕事を通じて本人の持つ欲求が満たされるほど、仕事に対する肯定的な態度が強まり、職務満足感は高まると考えられます。けれども、本当に、欲求が満たされたときにはいつでも満足を感じ、欲求が満たされないときにはいつでも不満足を感じてしまうのでしょうか。産業心理学者フレデリック・ハーツバーグによる研究は、この考え方に疑問を投げかけました。
大卒新卒採用選考、いわゆる就活の解禁は、昨年は8月でしたが今年は6月に前倒しされました。たった1年での解禁日の変更は、学生にとっても企業にとっても対応に苦慮するところが大きいでしょう。こうなると来年は?という疑心暗鬼も生まれてきそうです。
セクハラ、パワハラ、アカハラ、最近ではマタハラも深刻な問題になっています。セクハラ(セクシュアル・ハラスメント)以外は和製英語ですが、職場や学校などでこうした行為が蔓(まん)延していることが、マスコミでも大きく取り上げられるようになっています。
「グローバル」あるいは「グルーバル化」という言葉は、いまや日常の会話の中にも普通に出てくるようになりました。ITは日進月歩どころか秒進分歩(ピコ進ナノ歩?かもしれません)で発展し、地球の裏側であっても情報は瞬時に伝わります。ビジネスから教育、私たちの日常生活の隅々にまで、グローバル化の波は押し寄せています。
企業不祥事があとを絶ちません。直近の事件では、横浜のマンションに端を発した基礎工事の不正が、全国を揺るがす大問題になっています。時を同じくして、海外では自動車メーカーの不正プログラム装着問題、国内ではさらに大手ゴムメーカーの免震ゴム性能データ改ざんが明らかになりました。このゴムメーカーは3度目の性能偽装とのことで、過去の教訓が全く生かされていないようです。
あなたとはA型同士だからウマが合う、一緒に仕事がしやすい血液型の組み合わせがある─。血液型によって性格に違いがあると信じている日本人は多いようで、職場や学校、同好のサークルなどでもよく話題に上ります。いわゆる血液型性格分類ですが、日本では今日までしばしばブームが繰り返されてきています。そのたびに根拠薄弱として専門家からは否定されるのですが、それでもしばらく経つとまた現れ、なかなか終息することがありません。
理解できることと実行できることの違いについて、心理学者のアルバート・バンデューラは、人が行動を起こし成果を得るうえでは2つの期待が存在すると考えました。
グラスにお酒が半分。あなたならこれをどう見ますか?
「まだ半分ある」と見る人は、ものごとにクヨクヨしない反面、おおまかでアバウトなところがあり、一方「もう半分しかない」と見る人は、細部の違いによく気がつく半面、落ち込みやすい人が多いといわれています。
通常、前者は楽観的思考(楽観主義)、後者は悲観的思考(悲観主義)といわれます。
私の専門は心理学で、産業・組織心理学という、一般の方々にはあまり聞きなれない分野に身を置いている。年来の研究テーマはモチベーション(動機づけ)である。日常的なことばとしては、やる気や意欲に相当するが、厳密に考えると少しちがう。
筆者のご紹介
角山剛(かくやま たかし)
1951年生。立教大学大学院修了。立教大学、東京国際大学を経て2011年9月より東京未来大学教授。現在、同大学学長。
放送大学、フェリス女学院大学、慶応義塾大学大学院講師、米国ワシントン大学ビジネススクール客員研究員などを歴任。
専門は産業・組織心理学、社会心理学。産業・組織心理学会会長、日本社会心理学会理事、日本グループ・ダイナミックス学会理事などを歴任。
現在、産業・組織心理学会常任理事、人材育成学会常任理事、日本応用心理学会理事など。
著書に「最新 心理学事典」(産業領域編集責任者 平凡社)、「産業・組織」(新曜社)、「産業・組織心理学ハンドブック」(編集代表 丸善)、「産業・組織心理学」(共著 朝倉書店)、「組織・職務と人間行動」(共著 ぎょうせい)など。その他著書・訳書・論文多数。
* コラムは筆者の個人的見解であり、日立システムズの公式見解を示すものではありません。