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専門家コラム:人を活かす心理学

【第12回】その不正、会社のためになると思いますか?

不祥事は続く

連載第5回で「企業不祥事はなぜなくならないのか」を取り上げましたが、その後も相変わらず不祥事は続いています。重電メーカーの不正会計、自動車メーカーの燃費データ不正公表問題など、日本を代表する企業の経営陣が記者会見でそろって頭を下げるという、大変残念な光景がテレビや新聞を賑わしました。悲しいことですが、いまやこうした光景は珍しいことではなく、私たちの倫理感覚も何か麻痺していくような思いさえします。
私たちは、連載第5回で紹介した心理学者A.バンデューラの「道徳的束縛からの解放メカニズム」理論に基づき、大学生を対象にビジネス倫理に関する実験的な研究を行ったことがあります。海外では、「今日の学生は明日の経営者やビジネスパーソン」という視点で、ビジネス場面での倫理的ジレンマに対する大学生の反応を調べた研究がいくつも発表されており、私たちもそれに倣って日本人大学生を対象にデータを集めてみました。
研究の紹介に入る前に、ちょっと連載第5回の復習をしてみましょう。通常私たちの中では、道徳規準に沿わない行為をとることに対して、社会的制裁と自己制裁という2つの抑止メカニズムが働きます。特に、内面的な自己規制感情である自己制裁(自尊心を傷つけ自責の念を生む感情)は、道徳規準に沿った行いへの指針となり、非倫理的な行為を抑止する「自己調整機能」として働きます。
ところが、私たちはこうした自己規制を自ら取り払ってしまうことがあります。その結果、普段は良識的な行動をとっている人たちが、葛藤やストレスを感じることなく、非倫理的な行動をとってしまいます。バンデューラはこれを「道徳的束縛からの解放メカニズム」と呼び、そのようにタガの外れてしまう条件を8つ挙げています。詳しくは第5回をもう一度お読みいただければ幸いです。

ビジネス倫理意識には経営状態が影響する

ここからは私たちの行った研究の紹介です。この研究では、過去の研究や不祥事の事例分析、調査機関が発表した資料の分析などから、組織での地位と倫理的な志向性との関係は、会社の経営状態によって仲介されるのではないかと考えました。

図1.地位と倫理観の関係は経営状態によって変わる

具体的には、経営が順調で心配がないときは、役員など経営幹部は一般従業員よりも高い倫理的志向性を示すけれども、経営が危機に見舞われると、経営幹部の倫理的志向性は一般従業員よりも低くなると考えました。つまり経営陣は、会社が経営的に脅かされ不安を感じると、『自分たちは従業員皆のために会社の企業価値を守っているのだ。だから多少の倫理違反は見逃されるべきだ』と信じることによって、倫理観からの逸脱を合理化する(道徳的束縛からの解放)のではないかと考えたわけです。
このような考えに基づいて、研究に協力してくれた201名の学生を4つの状況(表参照)に割り振り、ビジネスに関する倫理観尺度など、いくつかの尺度への回答を求めました。

表. 条件の操作

要因 条件 想定状況(カッコ内は参加学生)
組織の中での地位 中規模製造会社の部長級役員
  • 「役員×経営順調」(51名)
  • 「役員×経営不調」(50名)
  • 「一般社員×経営順調」(50名)
  • 「一般社員×経営不調」(50名)
中規模製造会社入社3年の一般社員
会社の経営状態 高い収益を上げており将来の繁栄も見込まれ経営順調
利益が上がらず将来倒産の危険も抱え経営不調

結果は、「役員×経営順調」条件では参加者の倫理的志向性が他のどの条件よりも高かったのに対して、「役員×経営危機」条件での参加者の倫理的志向性は、いずれよりも低いことが示されました。これは統計的に見ても意味のある違いでした。一方、「社員」条件では経営状態の2つの条件間に倫理的志向性の違いは見られませんでした。

図2.4つの条件におけるビジネス倫理志向性

不祥事は経営危機のときに起きる

この結果は、わが国企業の不祥事が、従業員ではなく経営幹部によって、経営が危機の状態のときに引き起こされているということを推測させます。すなわち、経営が順調で先の心配もないときには、ビジネスに関する経営層の倫理的志向性も高く、企業統治という面でも適正な運営を可能にするのですが、経営が危機的な状況に陥った場合には、経営層の倫理的志向性は低下し、役員による不祥事発生の危機が高まると言えます。
もちろん、大学生を対象にしたいわばシミュレーション的な研究であり、大学生の反応であるという点を割り引いて見る必要はあります。けれども、頻発する企業不祥事を思い起こしてみるとどうでしょうか。本来であれば、経営陣は倫理性を高め健全な組織運営をすることが社会的にも求められます。この意識は経営が順調なときには問題なく働くのですが、経営が怪しくなってくると揺らいできます。組織を守るという内向きの思考が強まり、多少グレーなやり方であっても会社の存続、従業員を路頭に迷わせないためには、許されるべきだという意識が頭をもたげてくるのです。バンデューラが言うところの「道徳的束縛からの解放メカニズム」が作動してくることを、私たちの研究は示唆しているといえます。
いかがでしょうか。皆さんの実感にあてはまるものでしょうか。私たちも次は実際に働いている人たちを対象に、この結果をさらに探っていきたいと考えています。

  • ※ コラムは筆者の個人的見解であり、日立システムズの公式見解を示すものではありません。
 
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