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株式会社 日立システムズ

専門家コラム:人を活かす心理学

【第13回】フィードバックの効用

フィードバックの重要性

フィードバックとは、遂行状況や結果についての情報をもつこと、あるいは情報を与えることであり、仕事に限らずいろいろな場面で用いられています。
いま自分は目標のどのあたりまで届いているのか、達成状況のフィードバックが得られれば、その後の努力の量を調節することができ、目標達成までの計画もさらに具体的になります。反対に、進捗状況についての手がかりがないままに仕事を進めなければならないときには、ロスも多くなってしまいます。
目標はフィードバックと組み合わされたときに、より大きな効果を発揮するということであり、目標達成を目ざす私たちの活動にとって、フィードバックはなくてはならない要素であるということができます。
組織心理学者のロックとレイサムによれば、フィードバックには「手がかりのフィードバック」と「まとめのフィードバック」があります。前者は、活動中に自分のやり方がどうなっているのかを教えてくれるもの、後者は、活動の総量がどれくらいの水準に届いているかを教えてくれるものです。どちらも、現状の努力が成果につながっている場合には自信につながり(『この調子でOK!』)、成果につながっていない場合には活動の再調整(『計画の練り直しが必要』)を促す情報となります。

進み具合の遅い人には特に効果的

心理学者のビロドーらが行った実験では、試行ごとの作業結果についてのフィードバックを、初めは与えず途中から与えるようにしたところ、作業中の誤りの量が著しく減少しました。逆に、途中からフィードバックが与えられなくなったグループでは、試行を重ねるごとに誤りの量が増えていきました。つまり、フィードバックを与えることが作業の質を高めていったということです。
私たちも、こんな実験を行ったことがあります。10分間で70問を解くことを目標に、1桁の簡単な足し算問題を参加者に課しました。5分経過した時点でいったん作業を中断し、それまでの作業量を数えてもらって(結果のフィードバック)から残り5分間の作業に取り組んでもらいました。
作業が終了したあとで、前半5分間の作業量をもとに作業量が多かった群と少なかった群に分け、フィードバックの前後で作業量の変化を比べてみました。すると、後半の作業量の伸び率は、作業量が少なかった(進捗度合いが遅かった)群の方が、多かった(進捗度合いが早かった)群を上回っており、この差は統計的に見ても意味のあるものでした。
さらに興味深いことに、進捗度合いの早い群は成績に対する満足度は高いのですが、後半作業に対する努力の打ち込み度合いは弱く、反対に進捗度合いの遅い群では満足度は低いのですが、作業への打ち込み度合いは強いことが分かりました。

図1.進捗度によるフィードバック効果の違い(角山らによる)

つまり、フィードバック時点で成績や結果に満足できる場合には、後半も今のペースで目標達成が可能と判断できるのでペースが変わらないのに対して、『このままでは目標達成ができない!』というフィードバックを受けた場合には、後半で盛り返すべく力が入るということです。この結果から、仕事の進み具合が遅い人にはフィードバックで情報を与えることが、特に効果が大きいと期待できます。

フィードバックのタイミング

フィードバックはどの時点で与えるのがよいか、また何回くらいすればよいか。タイミングと頻度の問題は、効果を考えるうえで、なかなか難しい問題です。
まずタイミングの問題ですが、長期にわたる仕事やプロジェクトで結果がすぐには見えにくい場合には、早めにすることが大切です。進捗が遅い場合にフィードバックが遅れると、頑張っても期間内での目標達成が不可能になってしまう事態も生じてしまいます。「今回の売り上げがまだ目標に届いていないって…。今さら数字を言われても、明後日までの目標達成は物理的に不可能だよ」となれば、どうせ頑張っても無駄という気持ちが強くなり、目標達成へのモチベーションはかえって下がってしまいます。
つまり大切なポイントは、フィードバック後にゆとりをもって計画や行動の修整ができるかどうかということです。タイミングが遅くなるにしたがって、その後の計画や行動修整の余地が少なくなってしまいます。特に進捗度合いが遅い人の場合、目標達成のためにフィードバック後の作業量を一気に増やさねばならなくなり、それだけ目標も高くなってしまいます。もうだめだと目標の受け入れをあきらめてしまえば、仕事へのモチベーションは急速に低下します。

フィードバックの頻度

頻度の問題はどうでしょうか。フィードバックの効果に関するこれまでの研究では、多く与えられる方が、その課題への関心度や仕事への満足度が高まるという結果が得られています。たびたびフィードバックを受けることで、進度のチェックも綿密に行うことができ、必要な修整がしやすくなります。
ただし、あまりに頻繁なフィードバックは、かえって遂行に混乱をきたすこともあるので注意が必要です。大切なことは、フィードバックによって計画や行動を修整した場合に、その結果を実感できるくらい間隔をあけるということです。修整結果の手応えがないままにまた次のフィードバックを受けても、これまでの進め方が適切であったかどうか評価することができません。
まとめれば、フィードバックは早めのタイミングで、かつ修整結果をチェックできる間隔を保ちながら、多めに、ということができます。

フィードバックを仕事に生かす

「なんだ、結局当たり前のことじゃないか」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。けれども目標達成に向かう中で、ふだんからフィードバックの重要性を意識している人は、案外少ないものです。目標はフィードバックがあってこそ現実的で身近なものになります。フィードバックもまた然り。目標が明確になっている中でこそ、具体的な情報として役に立ちます。

図2. 目標とフィードバックの相互作用が高業績を生む

PDCAサイクルのC(チェック)にも、フィードバックの要素は含まれています。目標の動機づけ効果を高めるうえでも、フィードバックのもつ役割は欠かせません。もちろん、ふだんのコミュニケーションの中でも、お互いに有用な情報をシェアし進捗をチェックすることで、困難な仕事にも効率よく向かっていくことができます。フィードバックの大切さを、ぜひ再確認してほしいものです。

  • ※ コラムは筆者の個人的見解であり、日立システムズの公式見解を示すものではありません。
 

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