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専門家コラム:人を活かす心理学

【第11回】葛藤(コンフリクト)は職場活性化のカンフル剤

欲求

私たちが行動するためには、行動を引き起こす内部的な力が必要です。これを欲求とよびます。生命を維持しようとする欲求から、自分の持つ可能性を最大限に追い求めたいという欲求まで、人の内部にはさまざまな欲求が存在します。こうした欲求が私たちの内部に秩序をもって存在するという、A.マズローによる欲求階層説(5段階を想定していることから欲求5段階説とも)は、広く知られているところです。今回は、欲求のあれこれを見ていきましょう。

接近欲求と回避欲求

欲求には2つの相異なる方向性があると考えられます。対象に近づきたいとする欲求(接近欲求)と、対象から離れたいとする欲求(回避欲求)です。例えば子どもの鬼ごっこ。鬼になった子は相手を捕まえようと一生懸命走っていますが、追いかけられている子は鬼から逃げようと、これまた一生懸命走ります。同じ「走る」という行為でも、一方は接近、一方は回避の欲求であると言えます。
一般に、接近の欲求は対象から離れていても働き、息長く私たちに働きかけます。人生目標などはその良い例です。目標とする対象に近づくほど充実感も深まり、あと一息というところではモチベーションもさらに強まります。一方、回避の欲求は対象に近づくほど不快感や緊張感が高まり、少しでも早くその対象から離れたいという気持ちが強まり、そして離れてしまえば回避行動は急速に弱まります。

回避欲求によるコントロールの難しさ

回避欲求を刺激して行動をコントロールすることもできます。ノルマを達成できなければ給料が下がるというように、失敗したらペナルティを与えるというやり方です。部下は給料を減らされたくないことから、ペナルティから逃れようと必死にノルマを達成しようとするでしょう。
しかし、ノルマを達成したらその先もがんばるでしょうか。自分から熱意を持って仕事に取り組んでいくでしょうか。「やれやれ、今月はこれでおしまい」と、それ以上がんばろうとする意欲は期待できません。
あるいは、成績が下がったらお小遣いを減らすと言われた子どもが、お母さんがうっかり忘れてしまっていて、成績が悪かったのにお小遣いが減らなかったとしたら、どうでしょう。「あ、成績が下がっても大丈夫だ」と、進んで勉強する気持ちは湧きそうにありません。
このように、回避欲求に基づく管理は、短期的に見れば効果も期待できますが、その行動は長続きしません。避けたい対象から遠ざかることができ、不安や不快な緊張から解き放たれれば、そこで行動は終息してしまうのです。

マネジメントは接近欲求を大切に

回避欲求に対して接近欲求を刺激するマネジメントを考えてみましょう。途中は苦しくても、やがて頂上が見えてくれば、もう一息だとがんばる気持ちも強まります。明確で魅力的な目標があること、長期にわたる展望が持てること、上司や同僚との円滑なコミュニケーションの中で有用な情報が得られること、周囲からのサポートがあることなどは、接近欲求を強める刺激剤です。回避欲求ではなく接近欲求によるマネジメントが、仕事へのモチベーション促進につながるのです。

コンフリクト

欲求は私たちの中に一つだけ存在するわけではありません。あれもしたい、これもしたい、あれはなんとか避けたいなど、さまざまな欲求が存在します。こうした欲求同士が拮抗しぶつかりあうところにコンフリクト(葛藤)が生まれます。
コンフリクトには次のような3つの基本型があります。

「接近—接近」型

魅力ある対象が同時に存在する。どちらかを選ばねばならない。
「今度の海外旅行、ハワイにするかスペインにするか」


より魅力の高い方を選ぶ。

「回避—回避」型

近づきたくない対象が同時に存在する。どちらからも逃げたい。
「今度の仕事はやりたくない、でも上司からにらまれるのもいやだ」


両方から離れた中間点で行動は停止する。

「接近—回避」型

一つの対象が接近と回避の欲求を引き起こす。
「フグは食いたし命は惜しい」


近づいたり離れたりが繰り返される。

図 コンフリクトの基本形

上の例では、接近-接近コンフリクトでは、より魅力の高い方を選びます。コンフリクトを解消するためには、選ばなかった方の不備や欠点を並べたり、選んだ方の良いところを強調したりするなどして、合理化を図ろうとする心の働きが生まれます。
回避-回避コンフリクトでは、どちらにも近づかないよう両方から離れた中間点で行動は停止します。それが難しい場合には、物理的に逃げ出したり心身の不調に陥ったりするなど、場面からの逃避も起こります。
接近-回避コンフリクトでは、対象に近づいたり離れたりを繰り返します。仕事が面白いときには休日出勤も厭わないけれど、仕事がつまらないときには職場に来る気も萎えてしまうことがあります。思えば会社勤めというのは、接近-回避コンフリクトの繰り返しなのかもしれません。

コンフリクトは組織活性化をもたらすことも

コンフリクトは欲求充足を妨げ、フラストレーション(欲求阻止状態あるいは結果としての欲求不満状態)を引き起こします。フラストレーションが強まると、わずかなことで周囲や部下に当たり散らしたり、憂さ晴らしのために部下をいじめたりするなどの攻撃的な反応が現れやすくなります。また、ツメをかんだり、身体を揺すったりといった単純な動作や反応が現れる(退行反応)こともあります。
したがって、コンフリクトの発生を抑えることは大切ですが、一方で組織においては必要最小限のコンフリクトが活性化をもたらすとする考え方もあります。組織研究者のS.ロビンスによれば、メンバーが協調的で和気藹々(あいあい)のままでは凪(なぎ)状態が続いて停滞が生まれてしまう、多少の波風のあることが、組織を活性化し変革を生むためには必要になります。このような視点から、ロビンスは、組織におけるコンフリクトを3つに分けています。

生産的 タスク(課題)・
コンフリクト
仕事・課題の内容や目標達成に対する考え方の違い、意見の対立によって生まれる。考え方や意見を調整していく中で対立を解消していくことが可能であり、組織活性化に向けて効果的な行動を生み出すことも可能。
プロセス(過程)・
コンフリクト
仕事を進める過程で、進め方や裁量権限の対立などによって生まれる。違いや対立を調整していく中で組織活性化を促進することが可能。
非生産的 エモーショナル(情緒)・
コンフリクト
好き嫌いなど、人間関係の中での感情的な対立や緊張によって生まれる。基本的には非合理な感情であり、緩和や解消には多大なエネルギーや時間を要する。メンバー間に不安や緊張を生み出し、組織活動の成果を低下させることも出てくる。

(S.ロビンス著/高木晴夫訳「組織行動のマネジメント」ダイヤモンド社より. 一部改変し表にまとめた)

この考え方の下では、コンフリクトはすべてが回避すべきものではなく、場合によっては組織にプラスの影響をもたらすものとなります。マンネリ化を感じたときには、異なる意見や考え方といった小石を敢えて投げ込んで、集団にさざ波を立ててみることも、組織活性化のカンフル剤になります。もっとも、大きな石をドボンと落としていきなり水を濁らせてしまうのは、いささかやり過ぎかもしれませんが。

  • ※ コラムは筆者の個人的見解であり、日立システムズの公式見解を示すものではありません。
 

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