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株式会社 日立システムズ

専門家コラム:人を活かす心理学

【第17回】報酬はやる気を削ぐ?内発的モチベーション

最近、企業の方や小・中学校の先生方との会話の中で、「内発的モチベーションをどう高めるか」が話題になることがよくあります。「上司から言われたり与えられたりして動くのではなく、自分から課題を見つけて解決し自分から動いてほしい」「先生に言われたからやるのでなく、自分で勉強に向かってほしい…」。こうした話の中で、「それって内発的モチベーションの問題ですよね」と聞かれることが多くなりました。内発的モチベーションという言葉が浸透してきていることを感じます。けれども、いろいろ話していると「内発的モチベーションってそもそもなに?」という、根本的なところでの疑問をもっている方も少なくないようです。

外部からの刺激だけに頼ることの難しさ

例えば仕事の場面では、「給料が上がる」「上司や仲間から認められる」「昇進・昇格する」など、モチベーションを刺激する要因がいろいろ用意されています。こうした外部からの刺激によって生まれるモチベーションは、「外発的モチベーション(extrinsic motivation)」と呼ばれます。外部からの刺激は、私たちの行動を生みだし促進する重要なきっかけになります。

しかしながら、外部からの刺激に頼るだけでモチベーションを保つことは、なかなか難しい面もあります。給料が上がった当初は嬉しくて、『よし、もっとがんばるぞ!』という意欲が湧いてくるでしょう。でも、その後がんばっても給料は上がらずそのまま据え置きだったらどうでしょうか。今度は昇給のないことが不満の種になり、仕事へのモチベーションは低下してしまうかもしれません。不満を解消するには、さらに給料を上げて新しい刺激を与え続けねばならなくなります。

鉛筆の先で皮膚を突くと、初めは痛みを感じても、しばらくそのままにしておくとやがて慣れてしまい、痛みの感覚は弱まります。これを刺激汎化といいますが、このように外部からの刺激はそのままにしておくと、刺激としての働きが鈍くなります。結局、刺激汎化を避けるために、さらなる刺激を与え続けることが必要になってくるのです。

内発的モチベーションの有効性

私たちは、他人からあれこれ指図されたり束縛を受けたりすることを嫌うものです。自分の行動は自分の意思で決めることができる、意思決定の自由は自分にあると実感できるときに、行動へのモチベーションは強まります。例えば、自分で立てた目標を苦労しながら達成したときの喜び、他人に指示されることなく好きなことに没頭しているときの充実感などは、それ自体が報酬として行動へのモチベーションを強めます。

こうした達成感や充足感、行動すること自体の喜びといった、私たちの内部から生み出される刺激に基づく行動へのモチベーションは、「内発的モチベーション(intrinsic motivation)」と呼ばれます。心理学者のE.デシによれば、内発的モチベーションによって生まれる行動は、環境を自分自身がコントロールできているという有能さの感覚と、外部的な制約からではなく自らの自由意思で行動しているという自己決定の感覚を強めます。『やればできる、自分はそれだけの力を持っている』という感覚と、『人から言われたり報酬で動かされたりしたのではなく、自分の意思で決めたのだ』という感覚です。

デシらの研究によれば、内発的モチベーションから生まれている行動に外的報酬が与えられると、「好きだから」「楽しいからやっている」という気持ちを阻害することになり、内発的モチベーションは弱まってしまいます。これは、せっかく自分でやろうとしている気持ちをさらってしまう(土台である自分の足元を掘り崩してしまう)という意味で、「アンダーマイニング現象」と呼ばれます。

外発的と内発的ということ

では外的刺激は、モチベーションにとってすべて有害なものなのでしょうか。もしそうであれば、従業員に給与やボーナスを支給することは有害であるということにもなってしまいますが、いくら仕事が面白いから、楽しいからといって、『自分は毎日ただで働きます』『給与は要りません』という人はいません。

どのような行動であっても、はじめは大なり小なり外的な刺激が与えられたり、あるいは強制力が働いて生まれることが多いものです。給与やボーナスはもちろんですが、締め切りや上司からの指示命令、顧客からの要請など、仕事の場面ではそうした外的な刺激が多々あります。心理学者のK.レヴィンは、「行動はその人と取りまく環境との相互作用によって生まれるもの」であるとして、これを以下の式で表しました。

図1 行動の公式(K.レヴィン)

この式からは、行動は人を取りまく環境、すなわち外部刺激なしでは生まれないものということができます。

けれども、「達成の暁にはボーナスが出る」「上司に言われて不承不承」といった外からの刺激で取り組んだことでも、仕事を進めていく過程で楽しみや充足感を感じるようになり、誰に言われずとも自ら進んで課題に取り組んでいくようになることもあります。その中で有能感や自分の成長を感じることができれば、外からの刺激が弱まったとしても、その行動は消えずに長続きします。

このように、外発的モチベーションと内発的モチベーションは排他的なものではなく、互いに影響しながらモチベーションに働きかけていくものといえます。

報酬がもつ2つの側面

デシによれば、報酬には2つの側面があります。一つは、私たちをコントロールする側面です。例えば『報酬がもらえるからやる』という意識は、行動を報酬でコントロールし強制することになり、自分から取り組もうとする内発的モチベーションは弱まります。

もう一つは、情報としての側面です。つまり、報酬が「能力をフルに発揮した結果を評価されて得たもの」と見なされた場合には、その報酬は自分の有能さを証明する情報となり、自分の意思でもっと動いてみようというモチベーションが強まります。
報酬が強制力としてではなく、謝意や評価の意味を含んでいれば、その後の行動への内発的モチベーションは強まります。

図2 報酬の意味とモチベーション

また報酬がもたらすアンダーマイニング効果も緩和されることが明らかにされています。

つまり報酬は、すべてやる気を削いで内発的モチベーションを弱めるというものではなく、どうとらえるかによって内発的モチベーションにプラスの影響をもたらすものにもなるのです。

内発的モチベーションの議論は、ややもすると外発的モチベーションが有害で、『内発的モチベーションこそが、あるべきモチベーションの姿である』という方向に行ってしまいがちです。そうではなく、両者は相互に影響し合って私たちのモチベーションを方向づけているということに、注意を払うことが大切です。

  • ※ コラムは筆者の個人的見解であり、日立システムズの公式見解を示すものではありません。
 

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