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専門家コラム:人を活かす心理学

【第8回】やる気は測定できる?~心理学理論に基づくモチベーションの測定~

大卒新卒採用選考、いわゆる就活の解禁は、昨年は8月でしたが今年は6月に前倒しされました。たった1年での解禁日の変更は、学生にとっても企業にとっても対応に苦慮するところが大きいでしょう。こうなると来年は?という疑心暗鬼も生まれてきそうです。

さて、ここに田中君と佐藤君という2人の大学4年生がいます。2人とも就活中で、毎日会社訪問したりエントリーシートを書いたり、忙しい毎日です。2人ともH社を受けてみようと思ってはいるのですが、「がんばって努力すれば内定がもらえるだろう」という見込みは、田中君は60%、佐藤君は80%と見積もっています。この数字からだと、田中君より佐藤君の方がH社入社に向けた就活モチベーションは高くなりそうですが、果たしてどうでしょうか。

今回は道具性期待理論とよばれる研究をもとに、モチベーションの測定という問題にアプローチしてみます。

期待・誘意性・道具性

道具性期待理論というと、なんだかいかめしい響きを感じますが、この理論は私たちがいだく「期待」を基本に据えて、行動へのモチベーションを予測しようとするものです。ここでいう「期待」とは、Xという行動をとればYという結果がもたらされるだろうという見込みを意味します。がんばればH社の内定を得られる見込みが80%とか60%というのが、まさにそれです。見込みというのは別の言い方をすれば主観的な確率であり、したがって数字のうえでは0から1までの間で表すことができます。この値を100倍すればパーセントになるわけです。

しかし、期待値がそのまま行動に結びつくかどうかは分かりません。この値だけでは、モチベーションを正確に予測することはまだ困難です。道具性期待理論では、さらに「誘意性」と「道具性」という2つの要素が入ります。まず、誘意性とは、結果がもつ魅力の度合いです。田中君たちの例でいうなら、H社に内定することがもつ魅力ということになります。これも、上限を1に置いて数値化することにします。ただし1つ注意が必要です。魅力というのは、通常はそれを手に入れたい、近づきたいという、プラスの方向でとらえられますが、反対に、「あそこはブラックの評判が立っているからイヤだ」「あの会社は嫌いだ」など、それに近づきたくない、できれば避けたいというマイナスの方向性も考えられます。そこで、誘意性については+1~-1の幅で数値を与えることにします。

誘意性についてはもう1つ注意が必要です。それは、結果それ自体がもつ誘意性と、その結果がもたらす2次的な結果がもつ誘意性に分けられることです。例えば、H社に入ることは、好きなIT系の仕事ができる、将来海外で働ける、あるいは高い給与がもらえる等々、いろいろな結果につながることが予想されます。ここでは、H社に入ることを第1次結果、第1次結果がもたらす2次的な結果を第2次結果とよぶことにします。第2次結果にはこのように複数が考えられ、それぞれについて魅力の強さも異なると考えられます。

3つめの要因である道具性ですが、これは第1次結果が第2次結果につながる手段あるいは道具としてどれくらい役に立つかの見込みです。例えばH社に入ることは高い給与を得ることに役立つけれども海外で働くという夢を叶えるには役立ち度は低いといった具合です。道具性も0~1の間で表すことにします。

モチベーションの予測値を計算する

道具性期待理論を提唱した心理学者のV.H.ヴルームは、期待、誘意性、道具性の3要因をもとに、ある行動に向かう力(モチベーション)を次の公式で表しました。

FE×Σ(V×I

F:行動への力 E:期待 V:第2次結果の誘意性 I:道具性

「数式を見ると頭が痛くなる!」という方には申し訳ありませんが、モチベーションを測定するというテーマなので、もう少しだけお付き合いください。

上で見たように、第2次結果は複数ある(IT系の仕事ができる、海外で働けるなど)ので、誘意性Vも複数が考えられます。また、第1次結果を得る(H社に入る)ことが第2次結果を獲得するのに役立つ度合いIも複数存在します。Σ(シグマ)はそれぞれのV×Iの総和を意味します。それでは、ここまでの例をもとに田中君と佐藤君のモチベーションの強さをヴルームの公式を使って比較してみましょう。

表 田中君と佐藤君のモチベーション予測値

  • ※1 E:期待(「努力すればH社の内定をとることができる」見込み)
  • ※2 V:それぞれの第2次結果がもつ誘因(魅力の程度)
    第2次結果はまだ他にも考えられますが、ここでは仮にこの4つとします。
  • ※3 I:H社に入るという第1次結果が、それぞれの第2次結果につながる道具性(役立ち度合い)

誘意性Vはそのことにどれくらい魅力を感じるかということですから、田中君と佐藤君で同じ値になるとは限りません。表の例でいえば、田中君は海外で働けることに対して大きな魅力を感じていますが、佐藤君はそれほどでもありません。道具性Iについても、田中君と佐藤君では評価が違っています。同じく海外で働くことを例にとれば、H社に入ることが海外で働けるというチャンスをもたらしてくれる(すなわち海外で働くという結果を獲得することに役立つ)確率については、田中君よりも佐藤君の方が高く評価しています。

VIも本人の主観的な評価ですから、感じ方は人によって当然異なります。ある人が魅力を感じていることでも他の人はそれほどでもないかもしれません。役立ち度についても感じ方は人によって違います。例えば、ゴルフの上達にとって素振りは欠かせないという人もいれば、素振りは上達にはあまり役には立たないという人もいるでしょう。

話を戻しましょう。表からは、努力すればH社の内定をゲットできるという期待は田中君の方が佐藤君よりも低いのですが、計算結果からは、田中君の方がH社内定に向けた就活モチベーションは高くなります。第2次結果は現実には他にもいろいろ考えられますが、ここで仮に設定した4つについて見た場合、誘意性はいずれも田中君の方が勝っています。マイナスの値が小さいことから、仕事がきついことについても、あまり苦にしていないようです。結局、予測値からは、どうやら田中君の方が熱心にH社を訪問することになりそうです。

理論の問題点

道具性期待理論については問題点もあります。その1つは、誘意性の測定に限界があることです。今回の例でいえば、海外で働けるということはさらに第3次結果の誘意性(海外生活を送ることの魅力など)につながっているかもしれませんし、さらにその先には第4次結果もあるかもしれません。つまり、誘意性はどこまでたどっていけばその根源に至るのかが明確にされていません。また、第2次結果もたくさんの候補が考えられ、その中でどれをリストアップすればよいか、恣意的な判断が入ってしまう危険性もあります。もう1つ、主観的とはいえ確率に基づく合理的な意思決定を前提とする予測がどこまで妥当であるか、必ずしも明確ではありません。可能性ゼロであっても、駄目で元々という思いでがんばる行動は、私たちの日常でもよく見られることです。

このように、理論そのものはいくつかの大きな問題点を抱えていますが、モチベーションを測定するという試みは、モチベーション研究の中でも大きな足跡を残しています。

※ コラムは筆者の個人的見解であり、日立システムズの公式見解を示すものではありません。

 

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