日本企業を取り巻く環境が、非常に厳しいと言われ始めて、かなりの年月が経過しました。大手企業だけでなく、中小企業も含めた多くの日本企業が、活路を見出すべく、海外進出に余念がありません。それに伴って、海外で邦人が事件・事故に巻き込まれる事案が増えています。
2016年バングラディシュの首都ダッカでレストランがテロリストに襲撃され、日本人の駐在員7人が巻き込まれ亡くなるという、非常に痛ましい事件が発生しました。その後、海外で活動する中小企業においても、海外危機管理の重要性が認識されつつあります。
しかし、経営者が事業運営を最優先に考えてしまったり、海外危機管理には莫大な費用がかかると考えて、ともすれば安全対策を後回しにしています。
実際には、現地で活動する駐在員・帯同家族・出張者が「ほんの少しだけ」安全行動に留意し、日本本社が現地で活動する仲間の安全に関心を寄せて、適切な判断と支援をすることで被害に遭う確率を大幅に低減できるのです。
今シリーズでは、海外進出企業だけでなく、これから海外進出を予定している企業が、派遣する駐在員・帯同家族・出張者に対して行なうべき安全上の対策と支援、そして現地で活動する駐在員が行なうべき安全行動の「思考法」について、企業の海外危機管理担当者だった私自身の経験や実際の事例を参考にして、分かりやすく解説します。
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企業の海外危機管理の手法には、100%正しい「答え」は無いと言われています。常に改善と工夫を積み重ねることにより、ノウハウを蓄積していくことが重要です。そのことが事件・事故に遭遇しても冷静さを失わず、企業としての適切な対応につながります。
海外で大きな事件が起こった場合、当然のことながら現状の把握は重要です。しかしながら、企業が対応を判断する際に、多くの経営者にとって今後の予測を行うことは、非常に重要な思考です。情勢を分析し、ある程度の予測を立てるときの考え方を、分かりやすく解説します。
海外事業所経営では、現地従業員との軋轢は労務管理上の大きな問題です。就業態度が悪いからといって無闇に解雇すると、恨みを買うリスクがあります。実際の事例をもとに、妥当な対応を考察します。
企業が海外危機管理を行う上で最も重要なプロセスの一つに、「情報収集・分析」があります。どんなに一生懸命に情報を集めても、正しく分析しなければ適切な判断や行動につなげることはできません。海外危機管理担当者に必要な情報の読み方について、分かりやすく解説します。
近年、比較的安全とされていた国においても突然、激しいデモや抗議行動、政情不安、大規模なテロ、自然災害など、出張を禁止せざるを得ない事象が多くなったと感じます。海外出張を延期、禁止する際の判断のプロセスについて、分かりやすく説明します。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、多くの企業が駐在員や帯同家族の「国外退避」などの対応に追われました。「退避」はタイミングによっては、駐在員や帯同家族にさまざまな困難をもたらします。企業として、退避判断・指示のタイミングをどのように考えるのが適切なのかを解説します。
今回の新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大に伴い、多くの企業が駐在員や帯同家族の退避を余儀なくされています。また、最近になって、中小規模企業の経営者が海外危機管理体制の必要性を強く感じているという話を聞くようになりました。企業規模に関係なく、海外危機管理体制が必要な理由を分かりやすく解説します。
海外駐在員にとって、住居の選定は大きな関心事です。特に、治安の悪い国に駐在する場合には、住居の安全性がとても気になるものです。駐在員が現地で住居を選定する際に注意すべきことは何か、そして企業として配慮すべきことは何か、分かりやすく解説します。
家族帯同での海外勤務は、とても素晴らしい経験です。しかし一方で、子供の誘拐リスクは非常に深刻な問題ですから、企業は帯同子女への安全配慮も重要な課題の一つであることを忘れてはいけません。親の仕事の都合で、自分の意思で海外へ渡航するわけでは無い子供たちを、企業として、親として、いかに誘拐から守るかについて解説します。
海外駐在員は若く心身ともに健康な人ばかりではありません。特に、海外拠点の責任者は年配の人が多く、脳血管障害・心疾患などのリスクを抱えた人もいます。これらの疾患は、周囲の同僚や家族などが予兆に気が付き難く、最悪の場合には命に関わる事態になる可能性があります。しかしながら、企業の人材不足のため、やむを得ず健康上のリスクがある従業員に白羽の矢を立てざるを得ない場合がああります。企業の海外危機管理の中でも、非常に重要な年配駐在員の健康管理について解説します。
海外駐在中に盗られたら非常に困る物の一つに、パスポートがあります。油断したためにパスポートを盗られてしまったら、本人だけでなく事業運営にも大きな影響が発生します。実際の事例をもとに、企業として実施すべき対策と、駐在員本人が現地で注意すべき点を解説します。
企業が海外駐在員として従業員に辞令を出し、一旦海外に赴任してしまうと、本社側では日常的に本人の姿を見ることはなくなり、駐在員・帯同家族の安全に無関心になりがちです。しかし、彼らは決して他所の人になったのではなく、現地で事業運営を担う重要な存在です。企業と海外赴任予定者が、渡航前にすべき安全上の準備について、分かりやすく解説します。
筆者のご紹介
株式会社グローバル・ワン
山本 優
海外危機管理コンサルタント
関西の自動車部品メーカーで、メキシコおよびカナダ駐在を通じて、海外工場立上・運営と海外支店経営を経験。帰任後は海外人事で人事制度改善に従事した後、海外危機管理担当者として、海外危機管理の仕組み構築や特命事項に携わった。
現在は、海外危機管理コンサルタントとして活動すると同時に、中小企業の海外人事の相談に対応している。経理、生産計画、海外工場運営、海外営業、海外販売支店経営、人事・海外人事、海外危機管理という企業のさまざまな経営管理の経験に基づき、独自の視点でコンサルティングを行っている。
* コラムは筆者の個人的見解であり、日立システムズの公式見解を示すものではありません。