海外進出企業にとって政情が安定していて治安が良いとされる日本を離れて外国で事業を運営することに、さまざまなリスクがあることは既に周知の事実です。
では、海外駐在員は、どのようなリスクを抱えながら事業所を運営しなければならないのでしょうか?
海外事業に携わる人たち、つまり経営者、日本本社での海外事業部門、人事部門、海外駐在員は、改めてこの問いに真剣に向き合うときが来たのだと、私は考えています。
なぜなら、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって、世界中の経済、社会、そして治安情勢に大きな変化をもたらした可能性があるからです。
コロナ禍が終息した後、海外に渡航する企業の従業員は、コロナ前とは違った風景を目にする公算が大きいといえるでしょう。
では、そもそも海外事業所を取り巻くリスクには、どういったものがあるのでしょうか?しばしばコンサルティング会社などから提示される海外リスクは、大まかに下記のように分類されています。
1)ビジネス上のリスク
2)現地環境によるリスク
ざっとこの一例を見ただけでも、海外で仕事をすることに抵抗を感じる人がいるかもしれません。例示したもの以外にも、厳密にはもっとたくさんのリスクがあります。文字を読むだけではピンと来ないかもしれませんが、海外で事業を営む企業、駐在員、帯同家族、出張者にとっては、実際の日常業務や生活で経験している「重い現実」なのです。
日本企業が海外に進出する際、ほとんどの企業が「1)ビジネス上のリスク」を意識して準備しています。なぜなら、調達、生産、販売、事務所管理については、経営者は事業運営上の優先対応事項と考えるからです。
しかしながら、「2)現地環境によるリスク」については、日本では火災・自然災害などの大規模な被害対応を除いて、ほとんどが企業として意識しなくても支障がないため、海外に派遣した従業員の安全確保の配慮が不足しがちです。
1970年代以降、日本企業は海外進出を急速に加速させてきましたが、初期の段階では、ほとんどの駐在員が丸腰で派遣され、現地で実際に事件や事故に遭遇しながら対処ノウハウを習得してきたのです。そして、不幸にも亡くなられた人が少なからずいることも、忘れてはなりません。
仲間の被害や死に直面した企業は、安全対策の不備を痛感して、二度と同じ悲劇が起こらないようにするために、一つひとつ社内の危機管理体制に対策を追加し、現在に至っているのです。そして、そのノウハウは現時点においても、海外駐在員の皆さまの貴重な経験によって日々追加されています。
海外危機管理のノウハウは、専門家が机上で構築してきたのではなく、その大部分が私たちの先輩たちの尊い犠牲によって積み上げられてきた、いわば「命の代償」として体系化されたものであることを忘れてはなりません。
私のような海外危機管理の専門家を標榜する者は、「こんなことが起こるかもしれないから、危ないぞ!」というスタンスで恐怖心を煽るような注意喚起をするものです。それは、実際の事件や事故に対応し悲劇的な被害の実態に触れた経験から、海外で活動する皆さまが誰一人として被害に遭わないように強く願うためです。
現在駐在中の皆さま、これから渡航される皆さま、そして企業の海外危機管理担当部門の皆さまにおかれましては、有意義な海外生活の思い出とともに無傷で帰国するため、安全確保を決して怠らず、意気揚々とした「日本人駐在員」としてご活躍されることを祈念しつつ、本コラムを終了させていただきます。
[山本 優 記]
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※ コラムは筆者の個人的見解であり、日立システムズの公式見解を示すものではありません。
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