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株式会社 日立システムズ

海外での実践的危機管理~海外進出企業編

【第8回】海外出張、行ってもいいですか?

行けない外国は無い

私が企業の海外危機管理担当者として働いていた頃、海外危機管理コンサルティング会社には、いつもお世話になっていました。特に出張可否判断が必要になったときは、すぐに電話して助言を求めていました。

私:「昨日、A国で大規模なデモが発生しているという報道がありましたが、出張は可能な状況でしょうか?」
コンサルタント:「山本さん、何度も申し上げておりますが、行けない国なんて無いんですよ」
私:「じゃ、行っても良いのでしょうかね?」
コンサルタント:「そんな風に軽く考えては、いけません。出張はね、行こうと思えば、どこにだって行けるのですよ。極端な話ですが、その気になれば歩いてでも行けるんです。出張可否判断は山本さんが思っているよりも、もっと複雑でシリアスなものなんですよ」

恥ずかしながら、その頃の私は不勉強で、海外危機管理の本質がまったく分かっていなかったのです。

企業は何しに海外へ出ていくのか?

企業は、なぜ海外へ出ていくのでしょうか?
それは、概ね以下の理由が挙げられるでしょう。

  • 新しい市場の開拓
  • 安価な労働力の活用
  • 取引先(顧客)企業や親会社からの強い要請

その他に国家的事業の請負、政府関連事業の受注などもあります。

企業の海外進出の主な動機は、収益の維持や拡大によって「生き残る」ためと言えるでしょう。
「そんなこと、当たり前じゃないか!」と多くの人が言うと思いますが、この当たり前が海外出張の可否判断を検討する上で、重要な視点の一つになります。

「費用」対「効果」?

海外で大規模テロ、紛争、暴動、自然災害などの事象が発生したとき、海外危機管理担当者は出張可否判断を迫られます。従業員を無防備な状態で現地に送り込むことが無いように、まずは日々の情報収集と分析が重要です。
そして、危機事象の発生を認識したら、現地で活動する駐在員や帯同家族、現地従業員、出張者などの安否確認や安全行動支援などを行うと同時に、必要があれば速やかに「出張制限」を全従業員に通知する必要があります。

出張制限の通知を行う際には、一般的には「当面の間、A国への出張を原則禁止とする」という文章で伝えます。この通知を行うことによって、一旦はすべての出張案件を停止することができますが、「原則禁止」という文言は「例外措置」を検討する余地があることを示唆しています。

出張禁止の通知を発信すると、事業本部からの問い合わせやクレームが来ることがあります。なぜなら、出張禁止措置はビジネス上の大きな影響があるからです。海外危機管理担当者は、事業本部や経営陣からの強い要請に応じて出張案件の例外措置を検討せざるを得ない場合があります。
例外措置の検討には、「出張の影響度」を精査するプロセスが必要です。海外出張案件には「延期・中止してもビジネス上の影響度が低い、または後で挽回可能な」案件だけではなく、極端なケースで「民間警備会社の武装警護員を高額な報酬で雇用してでも行く価値のある」案件もあります。

海外事業の現場では「ビジネス上の高い効果」が期待できる出張案件については、あえて危険を承知で実行されることも珍しくありません。そのような例外措置を適用する出張案件では、出張者が安全に渡航して任務を完了させて帰国できるように、十分な安全対策と場合によっては高額の安全対策費用を拠出する必要があります。そういう意味では、出張可否判断は「費用」対「効果」の損得勘定をするという側面があることを否定できません。
しかし一方で、いくらお金をかけて努力しても十分に安全が確保できるかどうか、確信が持てないことがあります。その場合には、どんなに大きな利益に直結する案件であっても出張を許可すべきではありません。なぜなら、犠牲者がでた場合には企業の信用き損につながり、期待される利益を遥かに上回る経済的、社会的、そして心理的にも償いきれない代償を支払うことになるからです。

危ない場所は儲かる

「治安が悪い国ほど儲かる」というのは、海外事業の本質です。逆に言えば、「危ないから行かない」のであれば、海外に進出する必要など無いということになります。私たちは、たとえ危ない場所であっても儲かるから出て行くのであって、そこに企業が利益編重の罠(わな)に陥ってしまう落とし穴があります。
出張可否判断は、事業遂行上は「安全対策費を拠出してでも実行する価値があるかどうか?」を合理的に評価する仕組みであるべきですが、海外での任務に果敢に挑戦する従業員の身体、生命の安全を確保すると同時に、企業の社会的信用を維持するための必要不可欠な安全弁(ファイアーウォール)として適切に機能しなければなりません。そのためにも利益編重に傾斜しがちな社内の圧力に耐えうるよう、出張可否判断の仕組みに強靭な「安全配慮の精神」を織り込んでおかなければならないと言えるでしょう。

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※ コラムは筆者の個人的見解であり、日立システムズの公式見解を示すものではありません。

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