経済産業省は2022年6月7日、東京証券取引所、情報処理推進機構(IPA)と共同で「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」を選定し、「DX銘柄2022」選定企業 33社と「DX注目企業」15社を発表しました。この制度は、2015年から選定してきた「攻めのIT経営銘柄」の後継制度に位置付けられます。攻めのIT経営銘柄では、中長期的な企業価値の向上や競争力の強化をめざし、経営革新や収益水準・生産性の向上をもたらす積極的なIT利活用に取り組む企業を表彰するものです。
「DX銘柄2022」は、東京証券取引所上場会社等約3,800社を対象に実施した調査の回答企業401社の中から「DX認定」を申請した企業が選定対象です。まず、アンケート調査と3年平均のROE(自己資本利益率)に基づいたスコアリングなどを経て、DX銘柄評価委員が評価を実施。その結果を基にDX銘柄評価委員会による最終審査で決定します。「DX銘柄2022」企業は、製造業や流通・小売業、金融業など幅広い業種から各分野で代表的な取り組みを進めている企業が選定されました。
DX銘柄制度における活動状況を紹介する本連載。「DX銘柄2022」選定企業33社の中から、機械、電気機器、精密機器分野で選ばれた5社を紹介。それぞれの業界・企業が抱える課題をどのようにデジタル技術を活用し、解決してきたのかを探ります。
巨大な市場規模と多くの労働者を抱える電機業界。受注生産型の事業者が多い業界でもあり、電気機器メーカーに加えて部品メーカー、素材メーカー、特約店や代理店、卸売業者なども関係する複雑な生産フローがあります。また、国や地域をまたがる複雑なサプライチェーンで構成されることも多く、生産状況の管理がより難しくなっています。
また、IoT/5Gの普及、新型コロナウイルス感染症の拡大などを背景に、半導体需要に拍車がかかり、多くの業界にとって頭痛の種となっています。さらに、新興国の台頭や労働力の減少、ビジネスモデルの変革など、日本企業を取り巻く現状は大きく変容を見せています。
そうした点を踏まえて、ここからは先述した5社のDX推進の取り組みにおける傾向や具体的な実施施策を紹介していきたいと思います。
「DX銘柄2022」の選考にあたり、その評価基準の土台となるのが上場企業を対象とした「デジタルトランスフォーメーション調査2022」です。経済産業省が2022年6月に公表した「デジタルトランスフォーメーション調査2022の分析」レポートによると、調査結果を基にDX銘柄企業の特徴などが報告されています。
同レポートでは「DX銘柄に選定される企業は、デジタルガバナンス・コードに沿った取り組みが進んでいる」と記載しています。デジタルガバナンス・コードとは、経済産業省が社会構想「Society5.0」をめざす上で設定した「企業経営におけるデジタル技術による社会変化への対応を捉え、ステークホルダーとの対話を基盤として、経営者に求められる企業価値向上に向けて実践すべき原則」です。
デジタルガバナンス・コードは「ビジョン・ビジネスモデル」「戦略(組織づくり・人財・企業文化に関する方策)(ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策)」「成果と重要な成果指標」「ガバナンスシステム」の4項目を柱に構成されます。
たとえば、小松製作所は2022年4月、新たな中期経営計画「DANTOTSU Value Together, to “The Next” for sustainable growth」をスタートしています。同計画は、前中期経営計画のコンセプトを継続して「安全で生産性の高いスマートでクリーンな未来の現場をお客さまと共に実現する」というめざすべき姿の実現をめざしています。
また、トプコンは自社の事業領域である「医・食・住」分野では、高齢化や人口増加等に伴う社会的課題に直面しており、また大きな産業にもかかわらず、IT化や自動化が遅れていると認識。これらの社会的課題に対し、同社は光学やセンシング・制御技術などの独自技術をベースとして、IoTとネットワーク技術を駆使したDXソリューションで解決することを中期経営計画に掲げています。
さらに、DX銘柄企業の共通点として、DXの専任組織やリソース、人財育成などを整備しつつ戦略実現に向けた組織・制度が充実している点が挙げられます。
たとえば、IHIでは、DXの推進を支える人財育成にも積極的に取り組んでいます。データ分析を実務に適用するスキル習得を目的とした「データアナリスト研修」を2018年度から実施し、2023年度までに1,000名の育成を計画。また、全グループの主要部門で中核を担うミドル層から「DXリーダー」を選任し、教育の実施とコミュニティを設置し、複数部門にわたるDX推進や新事業の取り組みなどを展開しています。
また、日立製作所は「Lumada」を核にデータドリブンの新しいビジネスモデルを構築し、2020年度までにパートナー制度と価値創造のデジタルプラットフォームを立ち上げています。2021年度には協創フラッグシップ拠点「Lumada Innovation Hub Tokyo」(LIHT)の開設やM&Aを通じたアセット獲得を実施。2021年4月開設以降、300社 5,100人が活用して活発な議論やDXプロジェクトを推進しています。
小松製作所は、建設現場の安全・生産性向上を支援する新たなビジネスモデル「DXスマートコンストラクション」を2020年4月より提供開始し、施工現場でのデジタルツインを実現しDXを加速させています。
2021年にはビジネスパートナーと4社共同で新会社「EARTHBRAIN」を発足。アプリケーションやプラットフォーム、施工の可視化デバイスなどの開発を通して、DXの高度化、海外への幅広いビジネスモデルの展開、顧客企業の施工を最適化するコンサルティングやサポートの提供などを進め「スマートコンストラクション」の推進を図っています。
トプコンでは、眼科以外での眼病早期スクリーニング(健診)を実現可能にする「シェアードケア・モデル」を創出しています。全世界的に不足している眼科医の課題を解決するため、世界300万拠点にも上る、かかりつけ医や眼鏡店、ドラッグストアなどを活用し、眼疾患のスクリーニング(健診)を実施可能にしています。
早期発見された眼疾患については、クラウド上に蓄積された経過データを眼科医に連携できるプラットフォームを構築し、医療効率を高めるモデルを実現します。
DX銘柄企業では、先述した各業界・自社が抱える課題をDXで解決する取り組みを進めています。
たとえば、リコーではAI(人工知能)を活用し、自社トナー工場における省力化、高品質化、従業員満足度向上などを実現しています。これまで、多くの熟練技術者が必要とされていた複雑で長い工程の品質管理・制御、膨大なデータの確認・監視を自動化。労働生産性を2倍にして、不良品発生率を65%~91%と高品質化を図り、総生産量を5%向上しています。
日立製作所は、企業競争力を支える研究開発分野でDXを積極的に推進。データ利活用によるさらなる高度化や効率化を図るため、「Materials Informatics(MI)」の深化に取り組んでいます。具体的には、画像処理やテキストマイニングを通じて、MIの肝となるデータを生成する取り組みなど、材料開発効率化に向けた技術開発を進めています。
さらに、研究開発の高度化、研究開発スピードの向上、開発力の強化に加え、研究データ基盤を整備。研究開発部門の情報共有の促進や業務プロセスの変革によって、研究開発のDXへとビジネス領域を拡大しています。
機械・電気機器・精密機械分野では、今回紹介した5社のようなDX推進への取り組みが進められています。導入設備の老朽化、生産性や品質の向上・業務効率化、属人的な技術継承など、さまざまな課題をDXなどで解決しようと取り組んでいます。
世界の主要各国が第四次産業革命への対応を進めている中、日本でも「デジタルツイン」「スマートファクトリー」などの実現に向けた動きも加速している中、今後もさまざまな場面でデジタルを活用する機会が出てくると考えられます。先進的なDX企業の取り組みを参考にして、ぜひ自社のデジタル化を進めてみてはいかがでしょうか。
[翁長 潤 記]
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