2012年8月20日掲載
ここ数年間は、リーマンショックや東日本大震災、企業の数々の不祥事と大きな出来事が絶えません。このような中、数年前から“老舗”が注目を集めています。今、なぜ老舗なのでしょうか?
老舗企業研究会
代表幹事 柳 義久氏
以前、日本ビクター株式会社に勤めていましたが、当時はVHSビデオやオーディオ機器が好調で、会社が急成長している時でした。6年間で売上高が10倍になったほどです。業務は忙しくなっていくばかりで、かといって給与はそれに比例して上がるわけではありませんでした。
赤坂にある虎屋などを見て、「老舗企業はビクターみたいにあくせくしていないのに、そこそこ儲かっているんだな。」と漠然と思っていました。
その頃から、老舗はどのように商売しているのかと興味がありました。
その後、中小企業診断士の資格を取り独立した際、何か専門の研究テーマを持とうと思い、以前から気になっていた老舗を研究することにしたのです。
また、私がビクターの後に勤務した宣伝会社の親会社であった製薬会社が、200年以上続いている老舗だったということも興味を持った要因の一つです。
老舗の研究を始めた年は、ちょうどリーマンショックがあった2008年で、それまで否定的に見られていた“日本的経営”を見直そうという機運が高まっていた時期でした。
そのような中、東京商工会議所が日本橋の名だたる老舗を訪問・研究する「老舗企業塾」というプロジェクトを立ち上げ、私もそのプロジェクトに参画することになりました。その研究のために、「老舗企業研究会」を立ち上げ本格的な活動をスタートさせました。
その後、老舗研究の第一人者である後藤俊夫先生の勉強会や、ファミリービジネスに携わるオーナーや経営者、親族を会員とする、世界最大組織の日本支部であるNPOファミリー・ビジネス・ネットワーク・ジャパン(FBNJ)の活動に参加し、現在までに50社ほどの老舗を訪問しています。
また、“老舗”の定義ですが、これには諸説ありますが、FBNJでは、100年・3世代(兄弟は1世代と考える)以上継続していること、繁盛していること(世の中の支持を得ていること)などを条件としています。
また、老舗企業の国際組織であるエノキアン協会では、以下4点を加盟資格としています。
起業しても一握りしか残れないと言われる中、老舗と呼ばれるようになるのはほんの一握りです。
創業から3~4年後に残っているのは20%、さらにその後の3~4年で残るのは20%で、結局、創業から6~8年後には約4%しか残らないと言われています。
エノキアン協会に加盟している日本企業は、「法師(有限会社善吾楼)」(718年創業、温泉旅館業:粟津温泉)、「株式会社虎屋」(1530年創業、和菓子製造・販売)、「月桂冠株式会社」(1637年創業、酒造業)、「岡谷鋼機株式会社」(1669年創業、商社:名証一部上場) 、「株式会社赤福」(1707年創業、和菓子製造・販売)の5社です。
他国では、イタリアの企業が14社、フランスの企業12社、ドイツ3社、オランダ2社とヨーロッパ企業が多くなっています。
しかし実際は、創業以来200年を超える企業数では、日本がいちばん多いのです。日本が3,937社でトップ、2位がドイツで1,850社、3位が英国で467社となっています。(日本経済大学後藤俊夫教授調査、2009年発表)
“老舗”というと、「保守的」とか「変わらないもの」というイメージがありますが、実際、老舗企業の当主たちが異口同音に言うのは、「伝統は革新の連続である」ということです。老舗企業は長い歴史の中で幾多の難局を乗り越えるために、経営革新を繰り返してきています。
この経営革新には2種類あります。既に持っている技術・知識をつきつめるタイプと、これまでとは全く別の事業に参入するタイプです。
前者の良い例としては、「株式会社榮太樓總本鋪」(えいたろうそうほんぽ、東京都)があります。1818年から一貫して飴の製造・販売を続けていますが、近年においても独自の技術を使い、サクサクパリパリとかめる「かむ飴」や、ほかの食材に付けて味わう「つける飴」という創業以来初の試みを行っています。
後者の良い例は「イケマンファーム株式会社」(大阪市)です。1736年の創業時はコメの販売をしていましたが、歴代当主は主力事業を切り替えながら生き延びました。そして戦争中の1942年、8代目当主は統制経済の下に入るのを嫌い廃業しています。
その後、9代目は「人が食べるのはコメ、企業が食べるのは文具。」と考え文具販売をスタートさせました。しかし文具にはこだわらず、店がビジネス街の真ん中にあったことから「オフィス街の人に使ってもらう物を売る」というスタンスをとり、10代目にも「筆屋になるな」と言い聞かせました。
その教えが、筆記具が鉛筆からワープロ、PCへと変わる中で商材を合わせることにつながっています。この企業では、「やめる」「切る」が事業の基本となっているのです。(出典:日本経済新聞「200年企業」)
次に老舗の特長として言えるのが、「内部統制」ができていることです。
不正会計、賞味期限の再設定、産地・出所の偽造など、企業の不祥事は絶えませんが、老舗企業の多くは、当主の暴走を戒めるための家訓や制度を設けています。
事業承継についても、老舗は非常に早い時期から考えています。決して息子への承継に固執することなく、息子が後継者として適していない場合は継がせず、家業を守る方が優先されるケースが多いのです。
「息子よりも娘婿(むすめむこ)」という考え方もあります。「息子は選べないが、婿は選べる」ということです。
韓国や中国には日本よりも老舗が少ないのは、日本よりも血縁を重んじていることが要因の一つだという説もあります。
また、老舗は代を重ねるごとに事業に係わる家族関係が複雑になります。その家族統治(ファミリーガバナンス)をどうするかは、企業統治以上に重要です。これをコントロールしている人物が存在し、このコントロールがうまくいっている老舗が生き残っているのです。
そのほかにも老舗の特長を表すものとして、地域貢献(地域が栄えないと自分たちも繁盛しないという考え)、先義後利(利益は後から付いてくる)、三方よし(Win-Win-Win)、腹八分目商法、質素倹約、身の丈経営などが挙げられます。現在のような先の読めない時代、老舗にはこれを打破するヒントがたくさんあるのではないでしょうか。
法政大学大学院の坂本光司教授は、永続している企業の特長として次のようなことを挙げています。
柳 義久
老舗企業研究会 代表幹事
大学時代は会計学ゼミとマンドリン倶楽部に所属。大手企業の広告宣伝・マーケティング部門を経て、2008年KCGコンサルティング株式会社 代表取締役就任。現在は、中央区役所で5号認定相談員を務める傍ら、超人シェフ倶楽部の管理部長として事業化を推進中。
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