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株式会社 日立システムズ

政府のIT戦略に見るデジタル変革のポイント

【第3回】コロナ禍で見直された「政府の新IT戦略」で変わる未来~私たちの働き方、教育、暮らしは今後どうなる?

世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、経済・社会や私たちの価値観に大きな変容をもたらしました。これまで日本政府は「世界最先端のデジタル国家」になることを掲げ、IT戦略を推進してきました。しかし、コロナ禍でのさまざまな変化を受け、その戦略を見直しています。

本コラムでは、政府が掲げるIT新戦略のポイントを紹介していきます。現在、政府は感染拡大抑制後の経済再興に向けて、ピンチをチャンスに変え、デジタル化を社会変革の原動力とする「デジタル強靱化」を掲げています。今回は、デジタル強靱化の具体例として「働き方改革(テレワーク)」「学び改革(オンライン教育)」「くらし改革」を取り上げます。

テレワークは緊急対応から、恒久的な取り組みに

政府は2019年4月に「働き方改革関連法案」の一部を施行し、働く人々が個々人の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で選択できるように改革を進めています。働き方改革施策の1つである「テレワーク」は、2020年に開催予定だった東京オリンピック・パラリンピック期間中の通勤混雑を緩和するため、首都圏の一部の大企業を中心にテレワーク環境の整備を進めていました。
しかし、今回の新型コロナウイルス感染症への緊急対応として、中小企業も含めて多くの企業がテレワーク環境を導入することになりました。

デジタル強靱化におけるテレワーク施策では、感染拡大の防止と経済社会活動の維持の両立をめざし、また、今後発生し得る同様の緊急事態が発生しても経済社会活動の維持や成長を可能とするため、テレワークの一層の活用促進が求められています。

ただ、テレワーク環境の整備においては、中小・小規模事業者や地方公共団体などでテレワークに関するノウハウが不足したり、導入コストの負担を強いられることによりシステム導入の課題も浮き彫りになりました。

新IT戦略では、中小・小規模事業者、地方自治体を支援するため、各地域における中小企業支援の担い手となる団体の窓口を「テレワーク・サポートネットワーク」として設定し、それら窓口に対してノウハウを提供することで、地域内の相互連携を促進させるとともに、BCP(事業継続計画)の観点からもテレワーク環境の整備を促進させることをめざしています。

また、フリーランスや兼業・副業などの人材を含めたIT専門家を「中小企業デジタル化応援隊」として選定し、その活動を支援することにも取り組んでいます。
国の行政機関でも、テレワークの運用課題が明らかになりました。テレワークに必要な機器やネットワークのキャパシティが、テレワークを原則的な働き方とする場面に対応しきれていない事態が起こったのです。また、各府省庁間や民間企業、地方公共団体とのWeb会議サービスの接続が困難となる状況も発生しました。

そこで新IT戦略では、国家公務員のテレワーク環境の大幅拡充に取り組んでいます。テレワークに必要な機器の増設やネットワークの増強などのインフラ環境を強化し、官民が参加できるWeb会議の環境整備をめざしています。

児童・生徒ひとり1台の端末でオンライン教育を効果的に活用

新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、臨時休校を余儀なくされた学校があり、非常事態時の遠隔教育の重要性が再認識されました。また、学内のみならず、急務の課題として家庭内でのオンライン学習の環境整備も指摘されています。

また、教育機会の公平性を確保するため、ネット環境が整備されていない家庭向けに支援を進めたり、今回の経験を通じて遠隔教育や教育ICT化の利点や課題を洗い出してオンライン教育の効果的な活用をめざしています。

新IT戦略では、義務教育段階の児童・生徒ひとり1台の端末と高速大容量の校内通信ネットワークを一体的に整備する「GIGAスクール構想」を掲げています。また、在宅やオンライン学習に必要な通信環境の整備を支援したり、ICT支援員の配置など教育現場の支援体制の充実を図っています。

また、教育環境の変革に必要な先進技術「EdTech」や科学技術や工学、アート、数学などの分野横断型教育「STEAM」の導入、教育コンテンツのオンラインライブラリーの構築などでICTを活用した教育サービスの充実をめざしています。

さらに、学校内外における児童・生徒の学びやプロジェクトの記録を保存する学習ログや健康情報など、個人情報保護に留意しつつ継続的にデータ連携や分析を可能にするための標準化や利活用にも取り組む予定です。

デジタル化で「非対面」「非接触」が前提となる日々の暮らし

コロナ禍を契機に、日々の暮らしの中での感染を避けるため、これまでは対面が基本だった多くのことが「非対面」「非接触」に移行しました。それを実現するのがデジタル化です。

新IT戦略では、暮らしの中のさまざまな仕組みや手続きをデジタル化・オンライン化することで国民の利便性が高まり、かつさまざまな危機にも順応性の高い社会構造への転換をめざしています。そのためには、中小・小規模事業者や障がい者、低所得者などを含めた、「誰もがデジタルの恩恵を享受できるデジタル・インクルーシブ社会を作り出す」ことを重視しています。

健康・医療・介護・障がい福祉の分野では、デジタルデータを活用してリスクの早期発見・予防、健康・医療・介護サービスの高度化、地域社会における高齢者向け生活支援サービスの実現などをめざします。また、時限的な措置として、初診を含むオンライン・電話による診療も解禁されました。

子育て・介護の分野では、生まれてから学校、職場など生涯にわたる健診・検診情報などをマイポータルなどを活用して電子化・標準化された形で提供する仕組みを検討し、子育てや介護などの各分野でのワンストップ化を推進していきます。

経済活動・企業活動の分野では、2023年10月のインボイス制度導入も見据え、請求書・領収書のデジタル化、キャッシュレス化、税・社会保険手続の電子化・自動化などによって企業や生活者の負担軽減を図る取り組みを促進していきます。諸外国と比べて、現金での支払い率が高い日本でもキャッシュレス化を促進するため、統一QR「JPQR」の普及促進に取り組んでいます。

さらに「(かい)より始めよ」を掲げ、国の行政機関における慣習を見直し、デジタル活用を実践することをめざしています。各府省では会計手続や人事手続きの内部手続における「書面」「押印」「対面」などの慣習を見直しており、政府が主導する各会議体の外部構成員との事前調整のオンライン化などで、完全デジタル化の実現に向けた環境整備を進めていきます。

次回は、デジタル強靱化の具体例として「防災×テクノロジーによる災害対応」「社会基盤の整備」「規制のリデザイン」などを取り上げます。

※ コラムは筆者の個人的見解であり、日立システムズの公式見解を示すものではありません。

日立システムズは、システムのコンサルティングから構築、導入、運用、そして保守まで、ITライフサイクルの全領域をカバーした真のワンストップサービスを提供します。