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企業の不適切会計や不祥事がニュースなどでよく取り上げられています。ひとたび発生すると金銭的なダメージがあるだけではなく、社会的信用も失墜し、企業の存続が危ぶまれる事態になり得る不適切会計。お金の出入りを管理する経理担当者は、不正や誤謬をいち早く発見し、未曽有の危機から企業を守る防波堤、最後の砦です。
そこで、不当・違法な利益を得るために意図的に行われる「不正会計」の3大パターンとその防止策について、『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(光文社新書)などの著書で有名な公認会計士の山田真哉先生に詳しくお話を伺いました。

全3回のコラム「不正会計の手口と防止策」、「横領」「循環取引」に続き、第3回は「押し込み販売」です。外部に無理やり販売して、業績の目標などに合わせようとする「押し込み販売」。他者に不利益を押し付ける押し込み販売は、循環取引と並び典型的な不正会計の一つのパターンです。比較的身近なところに潜んでいることもある押し込み販売とはどのようなものでしょうか。

「お願い」と「押し込み」は紙一重

編集:

「押し込み販売」という名称を初めて聞いたのですが、これはどのような手口のことですか?

山田先生
(以下山田):

主に期末など締め日の前に、実際の発注数以上の商品、もしくは発注されていない商品を無理やり納入して販売することです。

編集:

頼まれてもいないのに送り付けるというのはすごいですね。いらないんですけど、と断れないですか? 押し売りとは違いますか?

山田:

単純に脅して売りつけるということではないですね。期や年度が替わったあとに返品・回収するという約束の上で行われているケースもありますし、裏で購入用の資金を渡しておいて、正式な取引に見せかけるというやり口もあります。

編集:

「あとで返していいから、とりあえずしばらくの間だけ持っておいて」ということですか。しかし、返品前提ではなく、「実はギリギリ目標未達なので、なんとか、あとこれだけ上乗せして買ってほしい」「期末前になんとか契約してほしい」とお願いしたりされたりするようなケースは大いにあり得ると思うのですが、これも押し込みになってしまうのでしょうか?

山田:

相手が本来は望んでいないものを販売する、という意味ではそうですね。

編集:

というと?

山田:

例えばお願いされる側にとっては、断れない相手だから仕方なくという事情があるかもしれません。それを分かっていながら「お願い」したのでは、それは押し込み販売になります。

編集:

そうですか…。確かに立場によっては弱い者いじめ・下請けいじめにもなりそうです。

山田:

押し込む側が力関係で絶対的に強いとも限らないですよ。押し込み販売の分の商品は販売側で預かっておく、外部の倉庫に保管する、というケースもありました。納品していないわけですね。

編集:

そのケースでは押し込まれる側が協力する理由は何でしょうか?

山田:

謝礼が発生していることは多々ありますね。

押し込まれた商品はどこへいくのか

編集:

余分に商品を押し込まれた側では、当然その商品を余らせてしまいますよね。返品などもできない場合はどうするのでしょうか。どんどん在庫が溜まってしまいますが。

山田:

そうですね。お金を払った側は、どうにか余剰分を消したいわけですから、できるだけ売ろうとします。それがたとえ仕入れ値を割ったとしても、大幅に安くして売るというケースはあるようです。

編集:

なるほど、確かにただ捨てるというわけにもいかないですし、原価割れしてもゼロよりはよいでしょうね。

山田:

ディスカウントストアに格安で売られるかもしれませんし、インターネット上で売られているかもしれません。

編集:

「横領」の回でも出てきた話ですね。個人の利潤のために盗んで横流しをする人もいれば、弱い立場で押し込まれて、どうにか在庫をさばくため、ダメージを少しでも減らすために売っている人もいるかも知れない、と。何か安い商品に対して素直に喜べなくなりそうですが…。

無理やり押し込んでも「売上」にはならない

編集:

消費期限が短いなど、売ろうとしてもできないような場合は、もうどうしようもないですよね。

山田:

例えば小売店で、メーカーから季節ものの食品を押し込まれて、たくさん売らなければならないような事態になったとします。メーカーから小売店への販売も押し込み販売ですが、小売店が従業員に向けて「1人20個買いなさい」というように命令して買わせることも「押し込み販売」といえます。

編集:

それはありそうな例えですね。気の毒過ぎます。

山田:

そうですね。しかし、押し込み販売で得た売上は、厳密には「売上」とは見なされず売上高からは取り消されます。

編集:

そうなんですか! でも、この食料品の例えでいえば、実際にお金を払って買ったわけですよね? 売買は成立していませんか?

山田:

はい。資金循環させているわけでもなく、単純に押し付けられた側が自腹を切っているのですが、厳密にいえば売上の粉飾であり、不正会計であり、決算書の虚偽記載に繋がります。

編集:

無理やり買わされた上に、結局会社の売上からも取り消されたのでは、もうよいことは1つもないですね。

悪いことだと気づいていない!?

編集:

それにしても、この不正会計の話で毎回思うのが、「どうしてそんなことするの」というところなのですが。

山田:

まずはやはり目標達成や売上の粉飾ですね。それ以外にも、先ほどもあったように取引相手と個人的にインセンティブの授受が行われているようなケースもあります。

編集:

目標達成と言っても目先のことだけだと、あとで苦しくなるだけだとは、きっとその瞬間は考えないのですね。

山田:

そして、押し込み販売などは「長年の風潮になっていた」ということもあるのです。期末になったら「お願い」して多めに押し込んで帳尻を合わせる、というのが慣習になっていて、まったく悪びれずに行っていたというケースもあります。

編集:

不正だという自覚がなかった、と…。

山田:

はい。例えば部署や企業内で普通に押し込みが行われていて、隠す様子もなかったら「これは不正だ」と思わない人がいてもおかしくはないです。何か変だと疑うどころか、反対に「期末ギリギリで売上を立てた」と、営業力があるように評価されているかもしれません。

編集:

それはあるかもしれません。「お願い」する時と同じですが、基本的な知識とコンプライアンスの意識を持つことが大事ですね。

山田:

そのとおりですね。そもそも、押し込み販売でその瞬間は目標が達成したように見えても、それは本来ならば来期の売上だったはずです。それを無理やり早めに販売したわけですから、来期は来期でもっと余分に売らないとならなくなります。このように雪だるま式に膨らんでしまい、結果的に企業になんの価値も生まない上に、将来的に必ず破たんします。目先のことだけではない、中長期的な視点で見れば、どれだけ不毛なことかが理解できるかと思います。

露見した、その後はどうなる

編集:

押し込み販売はどのように露見することが多いですか?

山田:

押し込んだままでは売掛金が溜まっていくので、ここを確認して、露見することは多いです。我々会計士は「滞留債権の確認」と呼んでいます。監査の時には期末前後の売上と返品には注目しますが、期初に返品など売上取り消しをするという手口はあまりにも分かりやすく、あれば必ず詳細を確認します。また、隠ぺい目的で売上の支払いサイトを延ばすような手口も見られます。

編集:

発覚したあとはどうなりますか? 先ほど売上から取り消されるというような話もありましたが。

山田:

循環取引の回でも出ましたが、上場しているか非上場かで話が異なります。上場している場合は売上の粉飾=決算内容の虚偽記載=金融商品取引法違反(197条、有価証券報告書等の虚偽記載)になります。

編集:

そうでした、上場企業は公正な決算を発表する義務があるのでしたね。

山田:

そうです。非上場の場合は、金商法に抵触するわけではありませんが、売上の誇大表示で経営状態を粉飾し、その決算書を材料に融資を受けてその後に返済に問題が生じるなどすれば、銀行から訴えられる可能性は大いにあるでしょう。

経理担当として気をつけるべきポイント

編集:

押し込み販売の防止や発見のためには、どのような点に気をつけたらよいでしょうか?

山田:

まずは期末など締め日直近の売上について、納品書、検収報告書、以後の請求書等を突き合わせて、正しく売買がされているかどうかを確認することで発見できる可能性が高いです。期初に返品が出た場合もそうですね。

編集:

担当者へのヒアリングを並行して行うとよさそうですね。

山田:

また、売掛金が溜まっていく特定の取引先や担当者があれば、それは要注意です。ディスカウントして無理やり多めに押し込んだケースであれば、値引き率にも表れてくるでしょう。

編集:

やはりどこかに目立つ部分が出てくるのですね。

山田:

また、これは部門や担当レベルで変えられることではないかもしれませんが、「ノルマに対するペナルティを厳しくし過ぎない、短期的な売上に対するインセンティブを見直す」といった根本的な制度改革も有効かと思います。押し込まれる側の注意点は、まず、社内の誰かが無理な「お願い」をされていないかどうかをチェックしたいですね。押し込まれがちなタイミングで大きな発注をかけているような場合は、実状をヒアリングしてもよいかもしれません。

編集:

制度について提案をすることならできそうです。問題を未然に防げるように、何かが起こった時には早く気づけるように、このような経理・会計知識は勉強しておきたいと思いました。ありがとうございました。

  • ※コラムは日立システムズの公式見解を示すものではありません。

執筆者

【執筆者】

山田 真哉

公認会計士・税理士。中央青山監査法人(現・PwCあらた有限責任監査法人)を経て、一般財団法人芸能文化会計財団の理事長に就任。
主な著書に、160万部突破の『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(光文社)、シリーズ100万部『女子大生会計士の事件簿』(角川文庫)。

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