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専門家コラム:海外での実践的危機管理

【第17回】遠い病院(タイ ほか)

お世話になった人の死

10年以上前の話です。

タイでビジネスをされている、知り合いのY氏から唐突にメールが届きました。タイ語が堪能なY氏は現地で会社を経営しておられ、働き者のタイ人の女性と結婚して、順風満帆の人生を送られていました。
私はタイを旅行したときに、Y氏ご夫妻にはフルアテンドで親切にしていただきました。Y氏は豪放闊達な人柄で、タイでのビジネスをご夫婦で協力し合って成功させておられました。
そんなY氏から来たメールは、驚くべき内容でした。

「妻が交通事故で亡くなりました。彼女が独り車で出張していたときに、郊外でトラックと衝突し病院に搬送されました。しかしながら、搬送された病院では十分な治療をすることができず、妻は独りで息を引き取りました。悲しくて仕方がありません。これから、どうやって生きていけば良いか、今はまだ分かりません。」

私はメールを読んで、しばらくの間、声も出ませんでした。

不十分な医療

途上国の医療水準は日本に比べて非常に低いと言われています。特に、事件や事故に巻き込まれた場合、現地の病院では対処が困難な場合も想定しておかなければなりません。
高度な治療が必要な場合には、都市部の設備の整った病院や、国によっては他国の病院に緊急搬送せざるを得ない場合もあります。

日本では、通報すれば救急車が飛んできて、最寄りの病院に搬送され、一定水準の医療を受診することが可能です。しかし、途上国で生活する際には、日本では「当たり前」の医療を受診することが困難で、運が悪いと命を落とすことすらあります。

途上国では、最新医療は物理的に「遠い場所」にあるのです。

心理的な距離

医療について、先進国では途上国とは異なる「遠さ」があります。
私たち日本人は、現地の医療システムのことを良く知らないまま海外渡航する場合がほとんどです。また、現地の言葉に不慣れなため通院を面倒だと感じて、少しぐらい体調を崩しても病院に行かない人が多いと思います。

ある企業のアメリカ駐在員の話で、英語が苦手で病院に行きたがらない人がいたそうです。彼は「なんとなく、最近、体の調子が悪いな。仕事が忙しいから、疲れているのだろう」と同僚たちに漏らしていました。
しかし、体調は回復せず仕事を休みがちになってしまったそうです。彼の同僚たちは病院に行くように促したそうですが、「言葉が良く分からないし、こっちの病院のことも良く分からないから不安だ。もうすぐ一時帰国だから、それまで我慢して日本の病院に行って診てもうらよ」と、現地の病院には行かなかったそうです。

ところが、彼の容態は急速に悪化していき、見かねた同僚たちが病院に連れて行って検査したところ、末期のガンであることが判明し、ガン治療専門の病院に入院してしまいました。とても悲しいことですが、彼は治療の甲斐もなく、現地で亡くなられたそうです。

現地に最先端の医療機関があっても、私たち日本人は言葉の問題などで病院に行きたがらない人が多く、場合よっては手遅れになってしまうことがあります。
先進国においては、日本人にとって医療は「心理的に遠い存在」になってしまう場合があるのです。

海外医療は命綱

海外で活動する際には、「自分は大丈夫」という過信は禁物です。私自身も、海外駐在中には何度も病院に行く羽目になってしまいました。自分自身が病気するだけでなく、帯同した子どもたちも酷い風邪をひいたり怪我をしたりして、必死に病院に連れて行って下手な英語で医者に説明した経験があります。
その経験から、私は海外に駐在する予定のある人たちに、次の言葉を伝えています。

「海外に行くと、いつか必ず自分と家族は現地で病気するし怪我もすると思ってください。そして、渡航前に十分な対処準備をしてください。渡航前から病気・怪我との闘いは始まっているのです。体調に異常を感じた場合には、言葉や不慣れから来る不安を克服して、躊躇せず信頼に足る医療機関に行ってください。」

外務省海外安全ホームページでは、各国の医療水準や医療事情、設備の整った病院などが詳しく紹介されていますので、渡航前に熟読されることを強くお勧めいたします。また、国によっては支払い能力を証明できないと治療してくれない医療機関もありますから、海外旅行保険などの契約をしておくことが肝要です。特に僻地に行かれる人は、海外医療アシスタンスサービスなどの契約をしておくことも推奨されます。

渡航前には、現地の医療事情を調べて然るべき準備をし、物理的にも心理的にも「医療」を決して遠ざけず身近に引き寄せ置くことが、いざと言うときの命綱になると言えるでしょう。

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※ コラムは筆者の個人的見解であり、日立システムズの公式見解を示すものではありません。

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