日本では街を歩いているとき、困っている人を親切に助けている人をよく見かけます。多くの日本人は善人で、街で困っている人をさらに困らせようと考える人にお目にかかることは、めったにありません。
しかし海外に出ると、親切な顔をした犯罪者が存在します。今回は、海外渡航する日本人が遭遇する可能性がある「善人の仮面を被った犯罪者」の手口を紹介します。
A氏は南米に出張中し、新しく仕立てたスーツを着込んで商談に行くところです。
A氏:「よしっ!今日の商談は絶対に成功させるぞ!」
彼は、意気込んでホテルから出かけて行きました。
A氏は訪問先のオフィスに行くために街中を歩きながら、相手先との取引条件について、頭の中で何度も繰り返し考えていました。
すると、後ろから誰かに肩を「トントン」と叩かれました。振り返ると3人の男が立っていて、そのうちの1人が意外なことを言いました。
「服にケチャップがついてますよ」
男が指す肩のところをみると、べっとりとケチャップのようなものがついていました。
A氏:「えーーーっ!これから大事な商談なのに、不味いことになったな。新調したスーツなのに!」
男 :「これは大変ですね!手伝いますから、上着を脱いで拭き取ってみましょう」
A氏は急いでビジネス鞄を路上に置いて上着を脱ぎ、ケチャップのようなものをハンカチで拭き取ろうしました。親切な男たちは口々に何か言いながら、いろいろ手伝ってくれました。
なんとか格好がつく程度に拭き取ったあと、A氏は男たちに礼を言って訪問先に急いで歩き出したのです。
「どこの国にも親切な人はいるものだな。教えてくれて助かったな」
A氏は、男たちの親切な対応に感謝したのでした。
しばらく歩いていると、A氏は鞄のファスナーが開いていることに気が付きました。
A氏:「ファスナー、閉めたはずなのにな….」
念のため鞄の中をチェックすると、貴重品をまとめて入れていた小分けバッグが無くなっていることに気が付きました。
「あーーっ!あいつらの仕業だな!やられたあ!」
A氏が犯行に気が付いたときには、「親切な男たち」の姿は何処にもありませんでした。
このストーリーは窃盗の古典的な手口で、「ケチャップ強盗」と呼ばれています。この種の犯罪は多くの国々でみられますが、ケチャップだけでなく異臭のする液体が使用される場合も多いようです。また、すれ違いざまや路地・店舗から突然出てきて、ターゲットに衝突して液体を服にかけ、謝りながら拭き取りを手伝っている隙に金品を窃取する手口もあります。
プロの窃盗犯は、しばしばターゲットに対して「ちょっとした混乱」を惹き起こし、貴重品から注意を逸らせて、金品を窃取する手口を使います。ケチャップなどの液体をかける以外に、路上に小銭を撒いて拾うのを手伝わせている隙に鞄から金品を抜き取る手口など、さまざまな方法で混乱を惹き起こして、注意を逸らそうとするのです。
この種の犯罪は複数の犯人が連携して、あっという間に実行される場合が多いようです。
私たちは突然に想定外の現象に遭遇すると、混乱し、目の前で起こっていることに意識を集中させてしまいます。想定外の現象は、私たちの思考を停止させてしまうのです。
混乱するような現象が目の前で起こったら、速やかに現場から離れることがセオリーです。ケチャップ強盗などの場合は、その場で拭き取ろうとせず別の場所に移動し、安全を確認してから対処するのが無難です。
万が一、プロの窃盗グループの巧みな「混乱戦術」にはまってしまったときのために、
などの、「盗られ難い」工夫をすると良いでしょう。
また、そもそも貴重品は持ち歩かず、現金は当日使用する程度の金額に留める、分散して持ち歩くなどの、被害を最小限に留める基本的な対策も、非常に重要だと言えるでしょう。
[山本 優 記]
※ コラムは筆者の個人的見解であり、日立システムズの公式見解を示すものではありません。
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