【第12回】携帯用端末の恐怖（全般）

ひったくり被害

私の知り合いで、頻繁に海外出張するA氏から聞いた話です。

A氏：「やまもっちゃん、俺さ、こないだ海外出張したときにね、ひったくり被害に遭ったんだよ」
私 ：「えっ！そうなの？怪我はなかった？」
A氏：「怪我はしなかった。何を盗られたと思う？」
私 ：「バックでも盗られたのかな？」
A氏：「命の次に大切な相棒を盗られたんだ！」
私 ：「誘拐か！」
A氏：「なんと、携帯用端末を盗られたのだよ。見事な腕前だった」
私 ：「感心してる場合じゃないだろ。どんな状況だったんだい？」

海外出張の相棒

A氏にとって携帯用端末は海外出張の良き相棒で、重要な商売道具として活用していました。

ある途上国に出張したときのことです。A氏が取引先を訪問するために、街中を歩いていました。そのとき、携帯用端末に着信がありました。
A氏は直ぐに電話にでました。相手はA氏の部下で、非常に重要なビジネスについての連絡でした。

A氏は歩道に立ち止まって、携帯用端末を耳にあてて話し込んでいると、背後から接近してきた若い男が、いきなりA氏の携帯用端末をひったくり、脱兎のごとく走って逃げて行きました。

A氏：「そのときにね、咄嗟に君がいつも言ってたことを思い出したのだよ。犯人を追いかけちゃいけないって、いつも言ってただろ？」
私 ：「そうだね。犯人を追跡して取り返そうとすると、身体に危害を加えられるリスクがあるし、殺害された人もいるからね。近くに潜んでいる実行犯の仲間が、追いかけている君を襲撃する可能性もあるからな」
A氏：「だから、俺は追いかけなかった。偉いだろ？」
私 ：「そうだね。えらい、えらい」
A氏：「ところがだ。部下にしてみたら、突然に連絡が途絶えるわけだから、俺が事故に遭ったんじゃないかとか、誘拐されたんじゃないかとか、大騒ぎしたらしい」
私 ：「心配してくれるのは、ありがたいことだよ。今頃は、誰かが何処かで君の携帯用端末を楽しく使ってるだろうな」

換金性の高い携帯用端末

途上国では、盗まれた携帯用端末を効率的に売りさばく、犯罪の組織が存在するとみられています。また、先進国で盗まれた携帯用端末も、国内のみならず途上国に持ち込まれて、売りさばかれていると言われています。そのため、携帯用端末は換金性が高く、プロの犯罪者にとっては「情報機器」ではなく「お金」に見えているのです。

路上で携帯用端末の画面に集中していたり、電話の会話に集中している人は、「周囲への警戒レベルが極端に低下した」最も狙いやすいソフトターゲットなのです。そのため犯人にとって路上で電話をしていたA氏の姿は、「油断して札束を耳に当てている、ネギを背負ったカモ」そのものだったのです。

まずは外出時に、携帯用端末を所持していることを周囲に見られないようにすることが重要ですから、鞄などに入れておくのが無難です。どうしても路上で携帯用端末を使用しなければならないときは、近くのビルなどに入るなどして、より安全な場所で使用することをお勧めします。

盗まれたのは、物だけではない

私 ：「ところで、盗まれたのは携帯用端末だけじゃないよね」
A氏：「うん？ほかに何かあるのか？」
私 ：「仕事上の機密情報とか、個人の連絡先とか、データも入ってたんじゃないのか？」
A氏：「あははは！絶対、そう言うと思ったよ。俺さ、以前にパソコン盗まれたことがあっただろ？それに懲りて、海外に持っていく会社の情報機器には、個人情報や機密情報は入れてないんだよ」
私 ：「そうか、よかった。学習能力はあるみたいだね」
A氏：「俺さ、海外で携帯用端末を盗まれたことよりも、あとで君に上から目線で指摘されるほうが、よっぽど腹が立つんだよ。だから、用心してるんだ（笑）」
私 ：「君の言い草は気に入らんが、怪我がなくて良かったよ」