【第8回】強盗レストラン（ブラジル他）

資料映像

近年、世界中で「監視カメラ」が設置されるようになりました。また、インターネットの発達によって、強盗などの犯罪の瞬間を捉えた監視カメラ映像が、動画サイトなどで紹介されるようになりました。

私は仕事柄、犯罪に関する資料映像を観察する機会がありますが、個人的には犯罪の瞬間を見るのは、あまり好きではありません。なぜなら、人が犯罪被害に遭う瞬間は、極度の恐怖、緊張、怒り、そして絶望感しか感じることができないからです。しかし、現実から目をそらさないことは、海外危機管理を考えるうえで非常に重要なことだと考えています。

食事するのも命がけ

ブラジルは観光地として有名ですが、一方で、犯罪発生率が世界の水準からみても非常に高い国でもあります。特に都市部の強盗事案では銃器が使用されることが極めて多く、日本人の強盗被害も発生しています。

ブラジルなどの治安が悪い国々では、レストランでも強盗事案が発生します。監視カメラの映像が動画サイトなどに多数出回っていますが、多くの客が食事を楽しんでいる最中に、突然、犯人が銃を構えて侵入し、従業員や客を制圧して金品を強奪します。平和な家族との夕食が、一転、修羅場と化すのです。

私たちは「強盗には決して抵抗しない」がセオリーだと知っています。しかし、多くの資料映像が別のリスクを暗示しています。

それは、「あなたが大人しくしていても、ほかに抵抗する人がいる」という可能性です。

犯人も命がけ

武装強盗犯は、「非武装の一般市民」を銃で威嚇・制圧してから強盗を働きます。しかし、ブラジルなどの銃器が広範に拡散している国では日本とは事情が違っており、最も大きな違いの一つが「護身用に銃を所持する一般市民の存在」です。治安情勢が悪い国では、一般市民が必ずしも「非武装」「無抵抗」であるとは限らないのです。

レストランなどの強盗事案では、あなたが大人しくしていても、ほかの客が銃を取り出して犯人に対抗する可能性があります。また、「レストラン側が銃で武装している」可能性もあります。このような社会・治安情勢下では、犯人側も一触即発の緊張した心理状態であることが想定され、「抵抗すれば、ちゅうちょなく撃つ」を前提にしていることを忘れてはいけません。

また、警察官が店内に突入してくることがありますが、彼らは犯人を逮捕するより、武力で犯人を制圧する方に重点を置いています。一方で、犯人側も警察官が発砲することを前提に突入して来ることを知っていますから、警察官が現れると反射的に銃撃戦が発生する確率が高まります。

逃げる、隠れる

企業の海外駐在員の中には、日常的に「セキュリティーレベルの高いレストラン」を選ぶ、「厨房や非常口に近い席を選ぶ（退避路の確保）」などの工夫をしている人もいます。
レストランなどで強盗犯が発砲し始めたら、呆然とその場に立ち尽くしていると、銃撃を受けたり、流れ弾に被弾する可能性があります。そのため、助かる確率を少しでも高めるために「逃げる」「隠れる」の動作が基本とされており、「戦う」のは、それ以外に助かる方法が無いときの「最後の手段」です。

さらに、警察官が突入してきた場合。彼らも極度の緊張状態にありますから、現場で犯人を特定・制圧する瞬間まで、犯行現場の被害者も「容疑者」と看做（みな）している可能性があります。そのため、警察官への反抗的な態度や急激な動作をするのは非常に危険ですから、警察官の指示には厳格に従うことが重要です。

しかしながら、銃撃戦には「不確実性」「偶発性」への冷静で迅速な判断・対処が必要で、状況によって「逃げる」「隠れる」のパターンが異なり、訓練されていない私たちには、瞬時に適切な行動をとることは極めて困難です。

最近では、武装強盗・テロなどへの対処方法について、「実践的訓練」を提供するセキュリティー会社もあり、企業側からの需要も高まってきているようです。
治安情勢が極めて悪い国に出張・滞在する機会が多いビジネスマンにとって、銃撃への対処行動を身につけておくことは、危機管理上、非常に重要だと言えるでしょう。