【第6回】路頭に迷った出張者（アフリカ）

電車が動かなくても大丈夫

ある日、仕事の移動中に駅の構内放送が聞こえてきました。

「いつも当駅をご利用いただきまして、ありがとうございます。現在、安全確認のため、運転を見合わせております。復旧までに約3時間かかる見込みです…」

職場や客先へ急ぐ私たちは躊躇なく、ほかの路線で迂回するなど、さまざまな代替え手段を検討し、パニックになることなく目的地に向かうことが可能です。また、職場や客先へ状況を連絡することも、携帯電話などで簡単に済ませることができます。

日本の交通機関の優れているところは、きめ細かく丁寧に情報を伝えてくれることです。そのため、私たちは「今、何が起こっているか？」を正確に知ることができるので、適切に、安全に行動できるのです。

しかし、海外で交通機関のトラブルに遭った場合、日本とはかなり事情が異なります。

飛行機が飛ばない！

私の知り合いのA君は、若くして海外事業専門部署に配属され、海外出張を頻繁に命じられるようになりました。10年前の彼は、英語は勉強中で海外出張の初心者でした。

ある日、Ａ君は上司からアルジェリア出張を命じられました。提携先の現地企業の社員が、全行程をアテンドしてくれたので、不慣れなA君には何の心配もありませんでした。不慣れな英語で四苦八苦しながらも現地の仕事を終えて、アテンド担当者に空港まで送ってもらったA君は、ほっとしながら空港カウンターに行きました。

「あれ？カウンターが閉まってる！」

A君は、空港職員らしき人に不慣れな英語で事情を訊ねましたが、何を言っているのか分からずパニックに陥ってしまったそうです。

「予定どおりじゃなきゃ、どうすればいいか分からないよ！」

それぐらい自分でできないの？

A君は、ふと本社の海外危機管理担当者のことを思い出し、携帯電話で危機管理担当者を呼び出したところ、日本は深夜でしたが、電話に出てくれました。

A君 ：「アルジェリア出張中のAです！航空会社のカウンターが閉鎖されていて、フライトキャンセルで困っています。助けてください！」
担当者：「はあ？なに言ってんの？君は海外の仕事をしているんだろ？それぐらい、自分でなんとかしろよ。情けない奴だな。」
A君 ：「言葉が上手く通じなくて、どうしていいか分からないんです！」
担当者：「とにかく落ち着きなさい。なんとかしてやるから。」

担当者は提携先の現地企業に連絡をとり、詳しく事情を説明し、空港ピックアップ・航空券の変更手続き・ホテル予約などの支援を依頼してくれたおかげで、A君は宿なしにならずに済みました。

大事件に巻き込まれることも！

海外出張の際、A君の事例のように、突然フライトがキャンセルになることは、よくあることです。少なくとも、フライトの変更手続き、安全な宿泊場所、宿泊先への安全な足の確保程度のことは、自力でできなければなりません。

また、渡航先の状況によっては、なんらかの重大な理由（紛争・クーデター・爆破予告・大規模なテロ事件・航空機事故・自然災害など）で、空港が大混乱することがあります。
その場合、たとえ不慣れな渡航者であっても、空港にいるすべての人が自分のことで精一杯のため、特別扱いは期待できないので、「自分自身で安全を確保する」行動が求められます。

安全確保のためには、空港アナウンス・案内板・空港職員などから迅速に情報を収集し、状況が把握できる程度の語学力が必要です。
そして、安全が確保されたら必ず日本にいる家族や仕事の同僚、場合によっては日本の在外公館に連絡し、自分が「今、どこで、どういう状況下にいて、今後どうしようとしているのか」を正確に伝え、状況によっては支援を要請する必要があります。最近は、海外渡航時に携帯端末を持って行くのは当たり前になりましたが、電池切れ・インターネット障害に備えて、現地空港の公衆電話などで国際電話をかける方法を事前に調べて、通信手段を確保しておくことも重要です。

また、日本国外務省は海外有事の際の安否確認・支援のため、「外務省　たびレジ」という優れた渡航登録サービスを開設していますので、海外渡航前に登録することを強くお勧めします。