これは、あなたの身にも起こり得る「誠実なA氏」の物語です。
ある日の午後、A氏は仕事で客先に向かうため車を運転していました。会社を出るのが遅くなり、約束の時間に遅れそうで焦っていると…
(キキーーーッ!ガッシャーーン!)
「しまったあー!やってしまったー!」
A氏は、前を走っていた車が停車したことに気が付くのが遅れ、追突してしまったのです。彼は慌てて車を路肩に寄せて、相手の車に駆け寄り、
A氏:「大丈夫ですか!?」
相手:「大丈夫だよ。お前、よそ見してたのか?どうしてくれるんだよ!」
幸いにも、A氏の誠実な対応に相手の態度は軟化し、補償などの手続きは円滑に終了。事後処理が済むと、A氏は海外駐在していたときのことを感慨深く思い出しました。
「事故を起こしたのが日本だったのは、不幸中の幸いだな」
A氏は、駐在員としてインドで働いた経験がありました。
インドは交通事情が劣悪で、日本人が車を運転するのに非常に厳しい環境であることは、よく知られています。そのためA氏の会社では、移動のための運転手を雇っていました。
ある日、A氏は車で移動していました。運転手は慣れた様子で車を走らせていましたが、会社から10分ほど走ったところで、割り込んで来た車に追突してしまいました。
相手は車から飛び出して大破した車両後部を確認したあと、A氏の車に猛然と突進してきます。A氏の運転手も決然と車から降りて、2人で話し合いを始めました。すると、あっと言う間に大勢の「野次馬」が取り囲み、現場は非常に険悪な雰囲気になっていったのです。
A氏は緊迫した雰囲気を感じ、事務所の現地スタッフに携帯電話で連絡しました。
「車が追突して、運転手が対応中だ。怪我人はいないが、野次馬に取り囲まれた」
すると、現地スタッフは緊迫した声で言いました。
「ボス、すぐにそこへ行きます。ドアをロックして、絶対に車から出ないでください!」
そのとき、野次馬に囲まれた運転手と相手は、怒鳴りあいに。A氏は「場合によっては加勢しなきゃいけないな」と腹をくくり、身構えました。
運転手と相手が殺気立ってきたので、A氏は加勢しなければと車外へ出ようとしましたが、窓からスタッフが覗き込んでいるのに気が付きました。
「ボス、急いで逃げましょう!」
A氏はスタッフに誘導され、野次馬が群がる現場から離脱したのでした。
安全な場所まで退避したところで、A氏は運転手を置き去りにしたことに罪の意識を感じ始めました。
「俺、運転手を置き去りにしてしまったが、それで良かったのだろうか?」
すると、スタッフは笑顔で、A氏の背中を軽く叩きながら言いました。
「彼は事故対応に慣れていますから、任せておいて大丈夫ですよ。あなたに怪我がなくて良かった」
インドは世界的に交通事故が多発することで有名で、当事者同士の暴力沙汰や「野次馬」による集団暴行が大きな脅威です。日本人にとっては非常に厳しい交通環境のため、車両の自走は避け、信頼に足るタクシーや運転手を雇いましょう。
もしも乗車中の車両が事故を起こした場合、対応は運転手に任せ、現場から速やかに離脱すべきです。しかし車両が野次馬に囲まれてしまったら、決して車外に出るべきではありません。
原則として人命第一ですが、人身事故で野次馬による襲撃が想定される場合、警察への通報・救援要請は、一旦安全な場所まで退避したあとに行うことも視野に入れておくべきです。
海外には日本的な「誠実な対応」が通用しない地域があり、「自分の安全第一」の考え方が必要な場合があることを、肝に銘じておきましょう。
外務省海外安全ホームページや在外公館の「安全の手引き」では、現地の交通事情・交通事故対応について詳しく説明されていますので、渡航前に必ず一読されることをお勧めします。
[山本 優 記]
※ コラムは筆者の個人的見解であり、日立システムズの公式見解を示すものではありません。
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