日本がめざすべき未来社会の姿を提唱したコンセプト「Society 5.0」は、インターネットなどの仮想世界である「サイバー空間」と、私たちが暮らす現実世界である「フィジカル空間」を高度に融合させることをめざしています。今回は、Society 5.0の実現に欠かせない重要な要素として注目されている次世代移動通信技術「5G」を取り上げます。
「5G」とは、「第5世代移動通信システム」の略称です。文字通り、携帯電話などの通信で使用される通信規格の5世代目であることを表しています。2020年3月には、国内の通信事業者が5Gの商用サービスを開始したことが大きく報道されました。また、2019年に開催された「ラグビーワールドカップ2019日本大会」では、試合を多視点で同時視聴できる「マルチアングル視聴」の基盤として5G試験サービスが活用されたことをご存じの方もいらっしゃると思います。
5Gの特長としては「高速・大容量」「低遅延」「多接続」の3点が挙げられます。現在広く普及している「4G」と比べて、その通信速度は「20倍」、遅延は「10分の1」、同時接続数は「10倍」です。そのため、IoT(モノのインターネット)機器やセンサー、高精細カメラ、ロボットやドローン、AR/VRといった膨大な機器をつなぐための無線技術として期待されています。また、ビッグデータやAIなどの先端技術を活用するためのインフラ技術に位置付けられます。
例えば、大容量の通信によって高精細な画像や動画の利用が可能になったり、リアルタイムに近い通信が実現できることから「自動運転の制御」やVR/ARでの活用が可能です。また、同時に多数の端末を接続できるため、「機器監視」や「スマートシティ」などのIoT分野での幅広い活用が見込まれています。
日本政府は、2019年6月に閣議決定された「成長戦略実行計画」において、Society5.0の実現に向けて2020年度末までに全都道府県で5Gサービスを開始すること、通信事業者などによる5G基地局や光ファイバーなどの情報通信インフラの全国的な整備に必要な支援を実施し、2024年度までの5G整備計画を加速することを掲げています。
また、地方創生の実現に向けて、自らの地域課題を解決すべく具体的に取り組む地方公共団体を優先して支援することを公表しています。都市部だけではなく人口減少が進む中山間地域や離島地域などにおいて、5Gは医療や教育、農業、働き方改革、モビリティなどの幅広い分野での活用が見込まれています。
このようにさまざまな社会課題の解決をめざすSociety 5.0の実現において、「5Gは地方創生の起爆剤になる」とも言われるなど、地方創生の推進やデジタルを活用する共生社会の実現に向け、欠かせないインフラ技術として期待されています。
通信事業者の5Gサービスと並行して、総務省が推進しているのが「ローカル5G」です。ローカル5Gは、通信事業者以外の自治体や民間企業・団体などが建物や敷地内に限定して利用できる自営の5Gシステムを構築するものです。その特長としては「各ニーズに応じて自由に柔軟なシステムを構築できる」こと、「通信事業者ではカバーが困難な地域でも独自に基地局を設置できる」こと、「通信障害や災害の影響を受けにくい」こと、「ローカル通信であるため、セキュリティを担保できる」ことなどが挙げられます。
また、ローカル5Gは「IoTと相性が良い」とも言われています。例えば、自治体によるテレワーク環境の整備や河川などの監視、製造業の「スマートファクトリー」化、建設現場の遠隔制御・監視、交通機関などでの映像監視、医療機関における遠隔診療、農業における自動農場管理など、さまざまな分野での活用が見込まれます。
このように日本政府が旗振り役となり、5G関連技術を含めたさまざまなICT技術を活用して、Society 5.0を実現する取り組みが進められています。
この連載では、Society 5.0の意味や目的について実例を交えて紹介してきました。また、Society 5.0と特に関連性が強い「SDGs」や「5G」などを解説してきました。Society 5.0では、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムによって、経済発展と社会的課題の解決を両立する“人間中心の社会”をめざしています。
新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大など、日本そして世界を取り巻く環境は大きく変化しています。グローバル化で経済発展が進む中、ますます複雑化する社会的な課題をどう解決していくのか、その克服にはさまざまな困難を伴うことが予想されます。しかし、最先端のICTを活用したイノベーションが創り出す新たな価値が、経済発展と社会的課題の解決につながることを期待しています。
[翁長 潤 記]
※ コラムは筆者の個人的見解であり、日立システムズの公式見解を示すものではありません。
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