第2回:企業における生成AI導入ガイド
本コラムは、AI専門家のマーク・ミネビッチ氏執筆によるホワイトペーパー「ビジネスの未来を拓く 生成AIグローバルトレンド 第2回:企業における生成AI導入ガイド」の冒頭部分を抜粋したダイジェスト版です。
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はじめに
今回は「企業における生成AI導入ガイド」と題して、生成AIの的確なモデルの選定、成果の測定など、このテクノロジーの戦略的な導入に関して考慮すべき重要な点について詳しく説明します。企業が生成AIの持つ大きな可能性を手に入れて、パフォーマンス、競争力、価値創出を加速させながら、リスクにも先手を取って対処するための実践的なロードマップも示していますので、エグゼクティブの皆さまはぜひ参考にしてください。
生成AIがもたらすメリットとリスク
生成AIのメリット
本題に入る前に、生成AIの導入によって企業はどのような価値が得られるか整理しておきましょう。生成AIの導入は、生産性や効率性だけでなく、革新性、収益、競争的ポジショニングなど、ビジネスのさまざまな側面にわたり、企業に大きな変革をもたらす可能性があります。
- 生産性向上の促進:自然言語生成とデータ分析の機能により、データ処理、ドキュメント処理、コミュニケーション、レポート作成などの大量の反復作業を自動化できます。これにより、さまざまな部門の従業員に、より戦略的で価値の高い仕事に取り組む余裕が生まれます。
- 業務効率の向上:生成アルゴリズムにより、サプライチェーン、需要予測、製造工程、運用変更のシミュレーションなど、複雑なシステムやシナリオの無数の配列を迅速にモデル化して、変動要素を最適化することができます。これは無駄の最小化、コスト削減、業務効率化に役立ちます。
- イノベーションの加速:設計コンセプトの迅速なプロトタイピング、膨大な調査データセットからのインサイトの抽出、AIを使用した人間の創作活動やブレインストーミングセッションの支援が可能であるため、新しい製品、サービス、ビジネスモデルの開発サイクルを圧縮できます。
- ハイパーパーソナライゼーションによる収益向上:企業はカスタムの生成AIソリューションを使用することにより、データをもとに顧客ごとに異なるカスタマイズされたサービス、コンテンツ、推奨情報、エクスペリエンスを作り出すことができ、コンバージョン率向上、平均注文金額の増加、ロイヤルティ強化、増収に大きな効果が見込めます。
- データマネタイズの実現:組織のニッチなデータセットやビジネスユースケースでファインチューニングされた、独自の生成AIソリューションを開発することで、データ、モデル、APIをパートナーにライセンス提供して新しい収益源にできる可能性が開けます。
- 自動化による大幅なコスト削減:コンテンツ制作、データ処理、ドキュメント処理、コミュニケーションなどの予測可能な反復作業をAIで大規模に自動化することにより、人力での冗長な作業をなくし、大幅なコスト削減を実現できる可能性があります。
- データに基づく意思決定の強化:生成AIでは自然言語処理ができるため、構造化データだけでなく、これまで「ダークデータ」とされてきた、ドキュメント、メール、レポートなどさまざまなフォーマットに含まれている非構造化データからも重要なインサイトを抽出でき、計画の改善に役立てることができます。
- 競争優位性の確立:特定の組織に固有の業界、ユースケース、データセット、既存システムに応じて調整された、カスタムの生成AIソリューションを統合すれば、競合企業が短期間でその機能を再現するのはきわめて困難です。これにより、競争上の優位性を獲得できます。
生成AIのリスク
ただし、以下のように注意すべきリスクもあり、企業は先を見越してこのようなリスクの軽減策を講じる必要があります。
- 統合の複雑性:生成AIの機能と、既存のデータシステム、ワークフロー、ビジネスプロセスの調整を行うのは非常に複雑で、新しいインフラストラクチャが必要になる場合があります。
- 法律とコンプライアンス:データの使用、知的財産(IP)、情報セキュリティ、フェイクコンテンツの生成、機微なデータの露出は、真摯に管理しなければ、重大な法的リスクやコンプライアンス上のリスクを生むおそれがあります。
- モデルの不備:特にトレーニングデータや開発慣行に不備がある場合などは、偏向、不正確性、有害性、説明可能性の不足が生じる可能性があります。
- ワークフォースディスラプション(労働力の破壊的変革):自動化によって役割が大きく変わる従業員の再教育や業務変更の支援が不十分であれば、労働市場の不均衡が深刻化する可能性があります。
- レピュテーションリスク(評判が毀損される危険性):倫理的に作られていない有害なアプリケーションや無責任なAIの利用により、消費者の信頼や企業の評判が損なわれる可能性があります。
- サイバーセキュリティ:保護対策が十分でないと、生成AI機能が脆弱な状態になり、敵対者による脆弱性の悪用や悪質な結果を招くおそれがあります。
生成AIのメリットとリスクのバランスを取る
生成AIによってテクノロジーの進化の新たなページが開かれ、ビジネス環境を大きく変えるようなさまざまな可能性がもたらされます。しかし、さまざまなリスクも生じるため、慎重な管理と戦略的な計画策定が必要です。具体的には、確固としたガバナンス、ポリシー、セキュリティ対策、トレーニングの実践、倫理的なAI設計の規定などが必要になります。それにより、このようなテクノロジーの革新性、倫理的な健全性、経済的な実現可能性を確保できます。重要なことは、具体的なメリットの実証と生成AI分野の進化への適応を続けることです。そうすることで、組織の目標や価値観との相乗効果が得られるような形で、テクノロジーを展開できます。
生成AIの導入ロードマップ
ここからは今回のテーマである、企業における生成AIの導入について解説をしていきます。リスクに事前に対処しながら、生成AIの変革的な可能性を活かしたいと考える企業が責任あるイノベーションを実現するには、段階的なロードマップを採用するのが有効です。
下記の生成AIの導入ロードマップは、Boston Consulting GroupがCEO向けに書き下ろした記事1からのインサイトや、一般的なベストプラクティスを参考にしています。
第1段階:基礎固め
- 1. 組織としての準備状況を評価する
- 既存のデータインフラストラクチャ、分析システム、ビジネスプロセス、社内のスキルセットなど、広範囲にわたる監査を実施して、技術・プロセス・人材の各方面から現在のAI活用の成熟度を客観的に判断します。潜在的効果と実現可能性をもとに、生成AIの導入によって最大限のビジネス価値が得られる可能性のある、優先すべきユースケースを2~3個特定します。
- 2. 制限付きのパイロットプロジェクトを実施する
- 全社的な大規模導入の前に、生成AIの機能と付加価値を実証できることが確認された有望なユースケースに的を絞り、小規模、低リスクのパイロット展開から始めます。生産性、収益、顧客満足度、コスト削減など、パイロットの成果を徹底的に数値化します。
第2段階:イネーブルメント
- 3. 厳格なポリシーを策定し、リスクを低減する
- 開発、テスト、監視、倫理、コンプライアンスについて取り上げた、責任あるAIに関する全社的なガイドラインを策定します。同意の取得、偏向の最小化、知的財産や機密データの保護に関する、厳格なデータガバナンスの手順を定めます。統合の複雑さ、モデルの不備、ワークフォースディスラプション、サイバーセキュリティ、法的問題、評判への影響などのリスクを事前に評価し、対応します。
- 4. 包括的な従業員トレーニングを実施する
- それぞれの役割ごとに能力およびスキルの評価を実施して、リスキリングの必要性を確認します。そのうえで、仕事を奪うのではなく、ワークショップやeラーニングを通じて包括的なトレーニングを実施して、チームメンバーがインターフェイスを効果的に使用して、生成AIツールを使ってワークフローを強化できるようにします。幅広い対応力があり、AIの足りない部分を補える人間の強みを強調します。
第3段階:拡大
- 5. 段階的に統合を進め、規模を拡大する
- パイロットの成果測定により生成AIの機能が実証されたら、対象のビジネス機能やワークフローを徐々に増やして統合を進めます。段階ごとに、従来の処理システムとの安定的な互換性を確保しながら導入範囲を広げます。価値検証に基づいて、段階的にユースケースを拡大します。
- 6. 徹底的にモニタリングして、継続的に改善する
- 厳格なモニタリングの手順を整備して、本番環境への大規模な導入後に、想定とは異なるモデルの偏向性、制約、ギャップが生じている場合は検出できるようにします。ユーザーや関係者がフィードバックを行える手段を用意します。モニタリングや評価で得られたインサイトを参考に、継続的にモデルを強化します。
- 7. 戦略的パートナーシップを築く
- 専門的なデータアクセス、十分なクラウドインフラストラクチャの保護、特定業界の専門知識、責任あるAIの開発・展開の実践方法の策定など、さまざまな重要分野について、社内の対応力を補完するため、パートナーを厳選して活用します。生成AIが知的財産権を侵害する方法でソースデータを使用するケースがありえるため、知的財産とデータ資産の保護について弁護士への依頼を検討する必要もあるでしょう。生成AIに起因する法的リスクについては、JD SUPRAの記事が参考になります2。
この段階的なロードマップでは、現実的な導入と、責任ある監督およびリスク低減のバランスを取るため、企業は安心して、生成AIを活用してイノベーションを推進し、膨大な新しいチャンスをつかむことができます。
- 1. https://www.bcg.com/publications/2023/ceo-guide-to-ai-revolution
- 2. https://www.jdsupra.com/legalnews/friend-or-foe-legal-risks-arising-from-2542268
続きはホワイトペーパーでご覧ください
本コラムは、AI専門家のマーク・ミネビッチ氏執筆によるホワイトペーパー「ビジネスの未来を拓く 生成AIグローバルトレンド 第2回:企業における生成AI導入ガイド」の冒頭部分を抜粋したダイジェスト版です。
ホワイトペーパーには、生成AI導入時のチェックリストや、ChatGPTなどのLLM導入時の検討事項などが掲載されており(目次参照)、企業における生成AIの導入ガイドとして有益な内容になっています。ホワイトペーパーをご覧になりたい方はページ下部のリンクよりお申込みください。
「ビジネスの未来を拓く 生成AIグローバルトレンド第2回:企業における生成AI導入ガイド」目次
- はじめに
- 生成AIがもたらすリスクとメリット
- 生成AIのメリット
- 生成AIのリスク
- 生成AIのメリットとリスクのバランスを取る
- 生成AIの導入ロードマップ
- 第1段階:基礎固め
- 第2段階:イネーブルメント
- 第3段階:拡大
- 生成AI導入時のチェックリスト
- ChatGPTなどのLLM導入時の検討事項
- LLMの機能とコストの比較
- 参考情報:主要なLLMのコストと価格設定(2024年1月時点)
- その他の検討事項
- LLM導入後の評価方法
- 1:モデルのアーキテクチャーとトレーニングの評価
- 2:機能と実用面でのバランスの評価
- 3:ビジネスインパクトの評価
- 生成AI分野の最新動向と投資の現状
- Adept AI:役立つ汎用知能を目指す
- Imbue Systems:堅牢な推論ができるAIモデルを構築
- Anthropic:Constitutional AIとClaude Constitution
- AutoGPT:オープンソースの取り組み
- おわりに
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