ITはテレワークにおける情報共有の必要性に応じるべく発展し、高品質なWeb会議システムも一般的になりました。ただし、それはどこまでいっても、かつての電話やメールの延長線上の存在でしかありません。なぜなら、Web会議システムで情報共有はできても、コミュニケーションが持つ意思疎通に必要な信頼関係を構築することは難しいからです。最近では「表情やニュアンスを伝えやすくするために、リアクションはオーバーに」などといったオンラインミーティングマナーなるものが散見されるのも、少しでも信頼関係を構築しようという涙ぐましい努力の現れでしょう。
情報共有をどれほど積み重ねても、人との信頼関係を構築することは非常に困難です。「同じ釜の飯を食う」という言葉があります。喜びや苦労をともにするという環境は相手との距離を近づけます。例えば、同じ満員電車に乗る、遅くまで仕事につき合う、苦労話に花を咲かす、売上達成に祝杯を挙げる、といった感情の共有です。違う人間同士が信じて頼り合える関係を構築するには、同じ時間をどれだけ過ごしたかがどうしても必要です。現実世界で時間と空間を切り離して考えることはできません。では、私たちは同じ空間を疑似体験でしか共有できないテレワークで、信頼関係が希薄化していくのを指をくわえて見ていることしかできないのでしょうか。
私たち日本人は、島国に住み一つの言語を共通語としています。古の時代から和を大切にし、同じ環境を生きて来たという土台に立つ国民性を持っています。これを文化人類学者のエドワード・T・ホールはハイコンテクスト文化と呼びました。もし当たり前に存在していた1を聞いて10を知るという共感力に依存した信頼関係を、テレワークが希薄化させる仕組みであるとするなら、今私たちが直面しているニューノーマルとは、ハイコンテクスト文化に依存したコミュニケーションからの脱却を意味しているのかもしれません。言い換えれば、それはローコンテクスト文化への変革です。
だとすれば私たちは、お互いが違う価値観で生きる人間であると意識する必要があります。そのために多様性と受容性を尊重しなければなりません。次回はその両者について、お伝えします。
[高田 敬久 記]
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