お役立ちコラム
特に近年の経理部門は、将来的な労働人口の減少、経理部門の業務の増加を背景にして組織の在り方や構造の見直しに迫られている。このような環境の中、最近はRPA(Robotic Process Automation)やAI等のテクノロジーの発達により、経理業務のプロセスやシェアードサービスの業務の見直しが進んでおり、実際の導入企業が増加している。本稿では、経理部門におけるRPA化の現状について、導入による効果が出せていないケースと成功に導くためのポイントについて、2回にわたって解説する。
(1)日本の低い労働生産性と労働人口の減少
かねてより、日本の労働生産性が低いこと、労働人口も減少は経理部門のみならず社会的な問題とされている。事実として、日本の労働生産性は、G7で最下位であり、OECD加盟国35カ国中22位かつ平均値を下回る水準にある(出展:OECD「Compendium of Productivity Indicators 2017」より)。また、2015年に7,728万人あった労働人口が、2065年には4,950万人と7割を下回る水準まで減少するといわれている(出展:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(平成29年推計)より)。
(2)求められる経理部門の役割
上場会社の財務経理部門は、経営情報の適時開示の要請から、月次、四半期ごとの決算スケジュールが年々早まる傾向にあり、業務負荷も月末~月初付近に偏る傾向にある。また、新たな会計・開示基準の導入や国際会計基準(IFRS)の導入についても経理部門の重要な課題として位置づけられている。そのため、定常業務の効率化を行ったうえで、決算早期化や新制度の対応の時間の確保が求められることとなる。
(3)経理部門における採用難
最近の上場企業の人材採用についても、単体決算や連結・開示業務の経験者は全体として少なく、実務スキルと知識レベルの高い人材を獲得することが困難となっている。そのため、定常業務のやり方見直しや外注化も視野に入れて業務の見直しを行う企業が増加している。
最近の動向として、経理業務の見直しの一環でRPAを導入する企業は増加したものの、様々な要因により、工数の削減や業務の標準化などの成果が出なかった例が出始めている。以下では、実際に効果が出なかった要因を説明する。
(1)業務部門による積極的な業務改善の必要性
情報システム部門が主導することにより、業務部門が受け身となってしまい、自部門が業務改善を行い、RPAを導入するという主体性がなくなり、RPA化対象業務の幅を狭めてしまうようなケースがある。このような場合、RPA導入するためには業務標準化が必須要件となるため、既存業務の業務改善が前提となるところ、既存の業務のやり方・フロー・ツールが前提となり、RPA化可能な業務が制限されてしまう。
(2)選定業務
選定した業務がデータダウンロードからデータ加工、登録作業という一連の業務を想定するようなケースにおいて、ダウンロードするデータが変わってしまったり、ファイル保存先のリンクが変更されてしまったりと周辺システムや業務自体が変わってしまう状況が多数発生し、RPA自体が安定稼働しないようなケースがある。このような場合、エラーが発生した場合の原因の特定とその後の復旧に時間がかかり結果として効率化の効果が得られなくなる。
(3)シナリオの複雑性
シナリオの作成方法についてもデータの入手先や費目によって加工方法が変わったり、保存先のフォルダ名を変えたりと条件によって結果を分けられるような複雑なシナリオを作成するようなケースがある。これについてもシステムや業務自体の変化に対してRPAが止まってしまう要因を作りやすくしており、かつ、エラーが発生した際の原因特定を困難にしており、RPAの復旧自体にも時間がかかってしまうこととなる。
(4)処理結果の検証方法
本番環境でのエラーはその後のシナリオ修正や業務フローの修正を重ねていくうちにエラー件数自体は減少する傾向にあるが、処理結果を検証する手順を業務フローに組み込んでいなかったことにより、シナリオ作成当初は想定していなかった取引やデータを誤って処理し、発見が遅れてしまうようなケースがある。この場合、結果自体の誤りを訂正するような業務が発生してしまう。
(5)シナリオ作成者のスキル
シナリオ作成者が業務担当者ではなく、情報システム部門が担当しているような場合、業務の理解が乏しく業務の変更可能性をあらかじめ見込むことができず、結果としてエラーが生じやすいシナリオを作成することとなるケースがある。また、実際の業務担当者はシナリオの作成方法などのノウハウがないため、エラー発生時に原因の特定に時間がかかり、復旧に時間を要することとなる。
上記のようにRPAを導入したものの体制や業務自体の標準化が進まないケースや社内メンバーのスキルなどの要因により工数削減や業務の標準化が十分に達成できていない例が多い。次回はこれらの要因に対し、どのような取り組みが必要かを中心に説明する。
筆者のご紹介
グローウィン・パートナーズ株式会社
コーポレートイノベーション部 部長
舟山 真登(ふなやま まさと) 公認会計士
2005年 監査法人トーマツ入所。東証一部上場企業をはじめ、幅広い業種・規模の企業に対する法定監査業務、内部統制監査制度の導入支援業務、IFRS導入支援業務に従事。
2015年 当社入社。上場企業グループの経理BPR、経理業務アウトソーシング体制の構築、経理業務のRPAによる自動化等の各種プロジェクトのプロジェクトマネージャーを多数担当。
2017年 コーポレートイノベーション部 部長。Accounting Tech®Solution事業を推進し、上場企業向けに、財務経理部門の働き方改革の支援、PMI(Post Merger Integration)プロジェクトの支援、経理BPOサービスなど、多くの案件を手がけるほか、専門誌の執筆やセミナー講師を多数実施。
企業概要(グローウィン・パートナーズ株式会社)
「プロの経営参謀」としてクライアントを成長(Growth)と成功(win)に導くために、①上場企業のクライアントを中心に設立以来400件以上のM&Aサポート実績を誇るフィナンシャル・アドバイザリー事業、②「会計ナレッジ」・「経理プロセスノウハウ」・「経営分析力」に「ITソリューション」を掛け合わせた業務プロセスコンサルティングを提供するAccounting Tech® Solution事業、③ベンチャーキャピタル事業の3つの事業を展開している。
大手コンサルファーム出身者、上場企業の財務経理経験者、大手監査法人出身の公認会計士を中心としたプロフェッショナル集団であり、多くの実績とノウハウに基づきクライアントの経営課題に挑んでいる。
※コラムは筆者の個人的見解であり、日立システムズの公式見解を示すものではありません。
※本コラムは、2019年11月06日に掲載されたものです。
日立システムズは、システムのコンサルティングから構築、導入、運用、そして保守まで、ITライフサイクルの全領域をカバーした真のワンストップサービスを提供します。