(写真)豊島屋本店 代表取締役社長 吉村 俊之氏
株式会社豊島屋本店様(以下、豊島屋様)は、慶長元年(1596年)に江戸で創業した老舗の酒屋です。現在では、酒類製造販売および業務用食品卸として、5,000点もの商品アイテムを扱っています。食品を仕入・製造・販売していることから精密な販売予測と営業進捗管理が必須であり、そのためにはFutureStageに蓄積したデータが欠かせないとのこと。今回は、その導入経緯と評価について代表取締役社長の吉村様にお話を伺いました。
豊島屋様は、創業417年を迎える老舗の酒屋であり、現在は商品アイテム5,000点の酒類製造販売、および業務用食品卸を営んでいます。資本金2,500万円。東村山市の豊島屋酒造株式会社は、同社から分社した酒造専門の企業です。
お客さまの業務概要 |
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「江戸名所図会 巻の1」
豊島屋は、慶長元年(1596年)に鎌倉河岸(現在の千代田区内神田二丁目)で創業しました。初代の十右衛門が江戸城の普請で集まった多くの武士、職人、商人達を相手に酒屋、および飲み屋を始めたのが、豊島屋の起こりと聞いています。
江戸時代には幕府の御用商人として栄えました。
「江戸名所図会」に豊島屋の白酒売りの絵が載っています。豊島屋の白酒は江戸名物で、現在でも期間限定で販売しています。
当時は、灘や伏見など上方で仕入れた酒を江戸で販売していましたが、明治になって私の曽祖父にあたる政次郎が灘・伏見の酒造業者と共同で灘において酒造を始めました。
明治天皇の銀婚式の際には、金婚式までお幸せにとの祈りを込めて「金婚」というお酒を献上しました。これが、現在では豊島屋を代表する日本酒のブランドとなっています。
そして昭和初期には、酒造場を東京都東村山市に移転し、豊島屋酒造株式会社として分社化しました。
現在は、豊島屋酒造で製造した日本酒を中心に焼酎、ビール、ウィスキー、リキュール類など、あらゆる酒類を卸販売しています。また、政次郎の代に蕎麦屋さんと取り引きを開始し、それをきっかけに食品の卸販売も手がけるようになりました。現在も醤油、みりん、米、蕎麦粉など、蕎麦屋さんに必要な食材を中心とした業務用食品を卸販売しています。
「不易流行」です。「守るべきもの(不易)はかたくなに守り、変えるべきもの(流行)は大胆に変える」という意味で、芭蕉の言葉と言われています。豊島屋は長い歴史を持つ会社なので、伝統を大切に伝えていかなければなりません。しかし、一方で世の中の変化についていかなければ、経営そのものが成り立ちません。
たとえば日本酒の味一つをとってもそうです。「穏やかだが味わいが深い」というのが豊島屋の目指す味です。その一方、現在では若い方を中心に辛口の酒が好まれています。そこで、『微発泡純米うすにごり生酒 綾』という、シャンパーニュと同じく瓶の中でアルコール発酵させ、その際に発生する炭酸ガスも一緒に封じ込めた微かな発泡性のある日本酒を開発しました。これが、すっきりした辛口で若い方を中心に人気を博しています。それでいて、穏やかで深い味わいも両立していると自負しています。
また、コンピュータを導入して、FutureStageを活用していることも、経営面における「不易流行」の表れと言っていいでしょう。
以下の通りです。
販売管理 | 見積・受注/出荷・売上/売掛・請求・入金 ※全機能 |
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倉庫管理 | 出庫管理/入庫管理 |
購買管理 | 入荷・仕入/買掛・未払・支払 |
外部連携 | 外部データ取込 |
システムイメージ図
経営上の課題 |
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食品を扱っているので、精度の高い販売予測と営業進捗管理が必要となります。作り過ぎ・仕入れ過ぎは商品の廃棄につながるため、できるだけ避けなければなりません。しかし、品不足は機会損失を招きます。
そこで、FutureStageから売上データなどをCSV(カンマ区切り)形式で抽出し、担当者/商品群ごとに前年実績と当年受注実績と対比させて、販売予測と営業進捗管理をしています。
特に精度が求められるのが季節限定商品です。先ほどお話しした白酒だけでなく、日本酒にも新酒の季節にだけ出荷する「おりがらみ」や秋限定の「ひやおろし」といった季節限定品があります。これらの商品に関しては、ほとんどが豊島屋酒造で製造していることもあり、販売予測がそのまま製造量となります。しかも、販売時期が限られますので、他の商品以上に精度の高い販売予測が必要になります。
導入の経緯 |
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豊島屋では、FutureStageを二世代導入しています。
クライアントサーバー型の「天商」と、その後継となるWeb版の「FutureStage」です。
「天商」を導入したのは、私が家業に戻った2001年です。豊島屋では当時オフコンの業務システムを利用していました。受発注業務と伝票の印刷が主な業務でしたが、オフコンでのシステム運用には3つの不安があると思っていました。
また、オフコン用の端末も当時は2台しかなく、社員が気軽に使用できませんでした。
そこで、上記の3つの不安が解消されて、PCで業務システムが利用できるオープン系のシステムに切り替えようと思ったのです。
OSやサーバー機器などの老朽化やサポート切れのためです。元々5年を単位にシステムの更新を考えており、ハードの更新は行いましたが、ちょうど10年目にこれらの問題が見過ごせなくなったことと、クライアントサーバー型からWeb方式への移行も時代の流れと考え、FutureStageに切り替える決断をしました。
選定のポイント |
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はい。5社に提案依頼書を出して、提案してもらいました。最終選定では、日立システムズともう1社の一騎打ちになりました。
2つありました。
業務との整合性についてまず説明します。豊島屋は、会社の規模のわりに商品アイテム数が多いのが特長で、天商導入当時に3,000点以上ありました。商品アイテムは、同じ商品でもパッケージの仕方や内容量などで区別するので、マスタの変更や追加も頻繁です。単価もよく変わります。要するにマスタ管理が大変なのです。そこで2社にマスタ管理業務のデモを見せてもらい、使い勝手の良い方に決めました。また、卸売業なので伝票枚数が多く、1日平均で約300枚ありましたが、天商は帳票管理の機能も優れていました。
もう1つの中長期的にお付き合いできる会社かどうかについては、日立システムズが圧倒していました。まず日立グループであることの安心感がありました。私は、大学院修了後、日立製作所に勤めていましたが、そのときに製品の堅牢性を追求する日立の姿勢に感心した覚えがあります。グループ全体でトータルに対応してくれるだろうという期待もできました。さらに、日立システムズがワンストップ性を強みにしているのも重要なポイントでした。システム部門が強い会社ならばマルチベンダーで、最適なコストの充実した機能を実現することも可能でしょうが、我々の規模の会社であれば負担が大きいだけで、結果としてコスト高になってしまいます。したがって、マルチベンダーはできるだけ避けたいところでした。
また、最終的には人と人とのお付き合いになりますので、営業担当者やエンジニアの仕事に対する姿勢はシビアに観察させてもらいました。問い合わせのメールを送ると基本的にはその日のうちに何らかの回答があるなど、その点に関しても日立システムズは合格でした。もちろん対応の内容自体も問題ありませんでした。
いいえ。このときには他社との比較はしませんでした。理由は、天商導入の時点で、導入した会社とは長くお付き合いするつもりだったからです。もちろん、大きなトラブルがあれば考え直したかもしれませんが、そのようなことは一切なく、途中で担当者が替わるときも一定期間は現担当者と次期担当者が同行するなどスムーズな引継ぎをしてくれました。したがって、日立システムズから他の会社に変更する理由は全くありませんでした。
ただし、リプレースするかどうかについては、以下の2点が満たされているかどうかで判断しました。
実は、最初にリプレースの提案を受けたときには、上記の2.を満たしていませんでした。しかし、要望に短期間で対応してくれたので、採用に踏み切ったのです。
天商を導入するときに、担当者の使い勝手を良くするために、操作性の工夫をしてもらいました。たとえばエンターキーを押した際のカーソル移動を、オフコンでの画面状況に近い形で再現してもらいました。豊島屋では伝票入力業務が多いので、このほうが使いやすいのです。エンジニアの作業が必要になりますが、FutureStageにはキー操作の設定を変更できるカスタマイズ機能があり、この点についてはクリアしていました。
ところが、当初のFutureStageの提案では、画面上でコード入力をしたときに商品名が分かるという天商ではできていたことが、できなくなっていました。これは、FutureStageでは一覧画面から商品を選択するという方式に変更されたためでした。ポリシーが違うので対応は大変だったと思いますが、短期間でコード入力をすると商品名が分かるように対応してくれました。
評価と期待 |
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(写真左)豊島屋本店 代表取締役社長 吉村 俊之氏
(写真右)日立システムズ 営業 稲垣 智史
キー操作の設定以外にも細かいカスタマイズをいくつかお願いしました。どのカスタマイズに関しても、こちらが要望を出すとすぐに対応してくれました。一番重要なカスタマイズは、データベースの洗い替え機能です。先ほど、精密な販売予測と営業進捗管理のために前年売上実績と当年受注状況を比較すると言いました。担当者/商品群ごとに比較するわけですが、前年度と担当者が変更になっている場合があります。そのままだと正確な比較ができないので、比較の際には前年の担当者をつけかえる必要が出てきます。このようなカスタマイズにも短期間で対応してくれました。
これ以外にも高く評価しているのは、データベースの移行作業についてです。移行ツールはもちろんありましたが、細かい部分では人手の作業が必要です。これは誰にでもできるわけではなく、データベースの構造に精通している人が作業する必要があります。この件に関しては、日立システムズのエンジニアが、大変な苦労をしながら迅速に対応してくれました。感謝しています。
結果、導入プロジェクトの開始から稼働開始までわずか4ヵ月半という極めて短期間に、カスタマイズとデータベース移行を成し遂げてくれ、当初の予定通りにシステム稼働開始を実現できたことに深い敬意を表します。
はい。これもカスタマイズの1つで、従来の複写伝票を廃止して、汎用のレーザープリンターで伝票を印刷するようにしてもらいました。これにより伝票に必要な紙の量を50%以下に低減し、用紙のコストを大きく削減できると共に、環境対応が実現できました。また、専用のドットプリンターを撤去したので、その保守費用も不要になりました。
昨年、販売基盤が拡大されて商品アイテム数が約4,000点から約5,000点に増えました。これに伴い取り引きデータも約20%増えましたが、ハードウェアの増強もなく、スムーズな拡張ができました。作業に伴う人件費以外のコストは掛けずに、これだけの拡張ができたことを高く評価しています。
先述したこと以外でいえば、導入したエンジニアが保守までしてくれるのがありがたいです。話も対応も早いからです。ワンストップ性を標榜する会社は多いのですが、通常は組織的なレベルだと思います。導入時と運用時に人が替わらない会社の存在はうれしいですね。
FutureStageの活用によって、売上などのお金の流れが管理できるようになりました。これに加えて、ハンディターミナルを導入したことで物の流れも管理できるようになりつつあります。将来的には、物流データをFutureStage側に取り込んで、「お金の流れ」と「物の流れ」を一元管理できるようにし、機動的な経営資源管理などを実現していきたいと思っています。このような展望を理解したうえで、FutureStageの範囲にとどまらずに、ハードウェアもソフトウェアも進歩していく中で、豊島屋により適したソリューションを提案していって欲しいと思っています。
豊島屋も創業417年、社長も私で16代目となりました。私自身は豊島屋の“リレーランナー”の一人に過ぎず、500年目を迎えられるための基礎を作ることが役割だと思っています。この基礎作りに日立システムズが力を貸してくれることを期待します。
慶長元年(1596年)創業。豊島屋の白酒は、江戸時代には「山なれ富士、白酒なれば豊島屋」と詠われ、庶民に親しまれておりました。清酒「金婚正宗」は、明治神宮、神田明神、および日枝神社の御神酒として、お納めさせていただいております。
製品名 | FutureStage 卸売業向け販売管理システム |
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導入モジュール | 基本管理、外部データ取込オプション |
クライアント数 | 9 |
担当より一言
日立システムズ
営業 稲垣 智史
末永いお付き合いを今後ともよろしくお願いいたします。
豊島屋本店様の行動指針「不易流行」という言葉、考え方は、私たちにとっても常に心にとどめておかなければならないものと考えます。
この言葉を忘れず、今まで以上にお客さまから信頼していただくことができるよう、日立システムズ一丸となり、お手伝いをさせていただきたいと思います。
日立システムズ
設計 藤田 昭博
今後も、お客さまの業務の一助となれれば光栄です。
新システム立ち上げにあたっては、お客さまのご負担やご不安を最小限に抑えることを念頭に、プロジェクトを進めてきました。
今回、当初からのスケジュールの遅れもなく、無事システムの本稼働を迎えられたことは、お客さまのご尽力の賜物と感謝しております。
取材にご協力いただいたお客さま、ご協力ありがとうございました。
取材日:2013年6月14日
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