
2025年6月にオンライン開催されて好評を博したセミナー、「製造業DX推進の鍵!製造業向けAIセミナー」。製造業において、生成AIの導入や定着化を成功させるためには、自社での活用目的やゴールを明確にしながらステップごとに検討を進めていくことが重要です。
本セミナーでは、製造業に特化した生成AIの社内事例やAIエージェントのご紹介、AI活用の実例として、生産計画の最適化、設備機器の運用・保守のための異常検知の事例と導入のコツを紹介しました。本稿では、第4部の内容をご紹介します。
ウェビナー登壇者:
株式会社 日立システムズ
ビジネスイノベーション統括本部
AI活用推進エンジニアリング本部
岡本 博充
設備機器の異常検知について、シンプルな図を用いて紹介します。設備機器に設置されたセンサーからデータが収集され、次の段階で蓄積されます。その蓄積されたデータを用いて異常検知を行うAIを開発します。完成した異常検知モデルがセンサーの異常を検知し、最終的に人の保全業務へとつなげていくのが全体のプロセスです。
この仕組みにより、これまで突発的に発生していた故障を予防的なメンテナンスへと転換できます。また、例えば3カ月に1度行なっていた定期点検を、機器の状態に応じた保全業務に変えていけることが異常検知の大きな効果だと考えています。
ただし、往々にして多数の設備が存在するケース(中・小型設備)が多いのではないかと思います。
これまで私たちは、中型・小型設備に対する異常検知のご要望を多くいただいてきました。ここではその一例として、ある市の排水管に設置されたセンサーを用いた異常検知の事例をご紹介します。排水管は非常に数が多いことが特徴的です。
次の事例は、小売業の各店舗に設置されている冷蔵庫の異常検知に取り組んだケースです。この事例では、全国に約5000台もの冷蔵庫が設置されており、お客さまが数多く存在する設備に対して異常検知を望まれるケースが多いと認識しています。私たちも同様にそうしたニーズにお応えしたいと考えています。
1.学習ステップ
この段階で、AIは正常に機器が稼働しているデータのみを使って正常な状態を学習させます。この時点でAIの基盤がほぼ完成します。
2.チューニング
異常データを用いて構築したAIを調整し、異常をより適切に検知できるように改善していきます。この段階で、AIモデルが実用的な形に仕上がります。
3.品質評価
最後に、正常なデータを正しくスルーできるか、そして異常なデータを確実に検知できるかを確認します。この最終評価を経て、お客さまにモデルを提供します。
重要な点としてお伝えしたいのは、蓄積されたデータを基に、事前に「ここは正常なデータ」「ここは異常なデータ」といったラベリング作業が必要不可欠であるということです。これは異常検知を行ううえでの非常に重要な前提条件となり、後述の「数の暴力問題」-「ゼロラベル問題」のとおり、中・小型機器で異常検知を行うことを困難にさせます。
次に、異常検知における課題と、それに対する私たちのコンセプトについてご説明します。
これまでの異常検知AIは、少数の大型設備向けが主流でした。なぜ少数の大型設備が中心だったのか。それは、「数の暴力問題」が背景にあるからです。設備数が多くなるにつれて、異常検知を難しくするさまざまな問題が発生してしまうのです。
この問題がこれまでなかなか解決できなかったため、どうしても大型設備にしか異常検知を適用できませんでした。これが、従来の異常検知技術における限界点の一つでした。
日立システムズでは、この課題に対して独自技術で解決を図り、異常検知AIのスコープを中小型設備へと広げていくことに大きなコンセプトと方針を持って取り組んでいます。
数の暴力問題について、2つの点に絞って説明します。まず一つ目は「ゼロラベル問題」です。お客さまからは、設備機器の数が多いため、現実的な工数で機器のセンサーデータに対して正常・異常データのラベリング作業を行うことができないという声をいただいていました。
そこで私たちは、お客さまがわざわざ機器の中から異常箇所を探しに行かなくても済むように、私たちのアルゴリズムによって異常が含まれる可能性が高い設備を提案する仕組みを開発しました。これにより、わざわざ異常を探す必要がなくなり、ラベリングの対象が限定され、優先順位が付けられることで、現実的に対応可能なレベルにすることができると考えています。
数の暴力問題の2つ目の側面は「数に比例したコスト問題」です。
従来の異常検知では、左図のように「1機器1モデル」が教科書どおりのアプローチでした。これは精度は高まりますが、機器1つひとつごとにAIモデルを作成・運用するコストがかかるため、例えば5000台の設備がある場合その効果に見合うコストにはなりません。
一方、右図のように「全機器1モデル」にした場合、コストは確かに下がります。しかし、その分精度が著しく低下し実用に耐えられないという問題が生じてしまいます。
解決策として、まずAIが機器の特性や地域差に応じて自動で機器を分類し、その分類された単位で学習するアルゴリズムを開発した点にあります。
例えば、5000台の機器があったとしても、作成するモデルの数を約50程度に抑えることが可能になりました。つまりコストと精度のバランスの取れた異常検知を提供できるようになったのです。
このように、私たちはさまざまな独自技術を組み合わせることで、数の多い中小型設備への異常検知適用を可能にしました。これまで対象となりにくかった機器へとスコープを広げていくことが私たちの目標です。
また、自社設備への適用にとどまらず、お客さまが製造・提供されている設備自体の付加価値向上にもつながると考えます。結果として、アフターサービスの効率化や設備の差別化が実現し、将来的には新たなビジネス創出までご一緒に検討していければと考えています。
AI導入は段階的なプロセスで進めます。私たちが想定する以上に、お客さまはさまざまな課題を抱えているケースが多いです。そのため、私たちは以下の流れを基本としています。
1.アセスメント
現状の課題とデータの確認を行います。
2.PoC(概念実証)
アセスメントを基に効果検証を実施します。
3.本番導入
PoCで効果が確認できたら、本番環境への導入を進めます。
4.運用・保守
導入後の安定稼働をサポートします。
この段階的なアプローチにより、お客さまの費用とリスクを抑えながら、確実な導入が可能だと考えています。
お客さまの課題解決に向けて、これまで培ってきた技術とノウハウを生かし、それぞれの課題に寄り添った柔軟な対応と開発を実施いたします。どうぞお気軽にご相談ください。
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