株式会社クラダシ
代表取締役社長CEO
関藤 竜也さん
「持続可能な開発目標」であるSDGsが提唱されてから早6年。企業レベルでも個人レベルでも、環境や社会に対する関心が高まりを見せています。そんなSDGsの17の目標に名を連ねているのが食糧問題。株式会社クラダシは、SDGsが提唱される以前から、いち早くフードロス問題を解決するビジネスモデルを展開し、日本国内のみならず海外からも注目を浴びる存在になっています。
第2回は、株式会社クラダシ 代表取締役社長CEOである関藤氏に、SDGsなどのソーシャルな観点とビジネスとを関連付ける発想の持ち方を伺いました。
クラダシは、フードロス削減への賛同メーカーにより協賛価格で提供を受けた商品を最大97%OFFでお客さまへ販売し、その売り上げの一部を社会貢献活動団体へと寄付する日本初・最大級の社会貢献型ショッピングサイトです。環境保護や動物保護の団体、クラダシ基金などさまざまな社会貢献団体を支援しています。
世界で1年間に生産される食糧は約44億トン。そのうち約13億トンが廃棄されています。廃棄される食糧のうち1/4が活用できれば、世界の飢餓人口8億人を救うことができます。
食糧廃棄は日本も他人ごとではありません。実は、日本は世界有数のフードロス大国です。 日本の食料廃棄量は、年間570万トンを上回るといいます。これは国民全員がお茶碗1杯分のご飯を毎日捨てているのと同じ計算になります。
関藤社長によると、製造日から賞味期限までの期間を3等分して納品・販売期間を設ける「3分の1ルール」や、パッケージの汚れ、キズモノなどを販売しないといった厳しい流通管理のため、賞味期限まで日数があるにもかかわらず、行き場をなくし廃棄になってしまう商品が数多くあります。
かつて、日本に古くからある「もったいない」という言葉が海外で話題になったこともありました。しかし、その日本の内情は世界有数のフードロス大国でした。関藤社長は、クラダシの運営を通じて、このフードロスに真正面から戦いを挑んでいます。
「もったいないを価値へ」
この言葉をモットーに廃棄される商品に新たな価値をつけて再流通しようと奮闘しています。関藤社長は、その戦いの中で「1.5次流通」という全く新しい流通ルートを開拓しました。
関藤社長が、この戦いに身を投じるきっかけはどこにあったのでしょうか。この問いをぶつけるとある原体験があることが分かりました。
関藤社長は幼い時から、戦争で両親を亡くした父親からこう言われていたそうです。
「竜也、分かるか。この世に生を受けたということは、その命をいかに社会で全うするかだぞ」
この言葉は関藤社長の心に強く残り続けました。そして、2つの大きな出来事が彼の向かうべき道を作っていきます。
1995年阪神淡路大震災が起きました。未曾有の大災害で、関藤社長も被災しました。この時、テレビを通して見た阪神高速の倒壊した映像が父の言葉を思い出させます。関藤社長は、居ても立っても居られず、自身も被災した身でありながら、バックパックに救援物資を詰め込み、震源地に向かいました。そこで救援活動に参加しましたが、、ここでたった1人の思い、1人の力では到底行き届かぬ救助活動に、自分の無力を痛感しました。この時の悔しさが、いつか必ず人のため、社会のためになるサービスを生み出すという決意を持たせることになりました。
それから5年、関藤社長は商社マンとして中国に勤務していました。中国が世界の工場と言われ、急速に発展していた時代です。日本の高度経済成長期がそうであったように、急速な工業化は、その恩恵の裏で環境問題を引き起こすものです。関藤社長も、自分の目でコンテナレベルでの大量生産・大量廃棄を目の当たりにし、これは環境面でいつか大きな社会問題になる、そう確信したのでした。
この確信を裏付けたのが、2000年9月に国連で採択されたMDGsです。Millennium Development Goalsの略で、日本語では「ミレニアム開発目標」となります。アジア金融危機やロシア金融危機といった国際金融危機に直面した中で開発援助や国際金融機関の支援といった従来のアプローチが通用しなくなってきました。そこで世界各国が脱貧困に向けて立ち上がります。NPOや途上国の声を取り入れ、みんなで力を合わせて世界をより良くしていこう。MDGsはそんな理想からスタートしたのでした。その名前から想起されるようにSDGsの前身に当たり、8つのゴール、21のターゲット項目からなる国際的な開発目標です。
MDGsは初めの方こそ、無理に決まっている、資本主義と矛盾すると、特に経済界からは軽く見られていました。しかし、MDGsは年月を重ねるごとに成果を出してきたのです。政策目標があることでMDGsに参加した国々は自分たちのできる範囲で目標を設定し、達成していきました。そして何より人々の意識も変わってきました。自分たちだけの利益を追求したって世の中は良くならない、そう思う人が増えてきたのです。
株式会社クラダシはMDGsが終わる14カ月前に産声を上げました。そしてSDGsが始まる7カ月前にサービスをローンチします。
関藤社長はこの時代の流れを読んでいました。みんなで世界を良くしていく。こういったマインドが人々の中に醸成されていくのを確信し、生産者と消費者が協力してフードロスを克服するクラダシのサービスを構築していきます。
2014年7月に創業し、クラダシは食品業界の1.5次流通という新たなマーケットを開拓してきました。1.5次流通とは、1次流通(企業からユーザーへの販売)と2次流通(オークションやフリーマーケットビジネスなど中古品の売買)の間に存在する「新品だが廃棄される商品」の売買のことを言います。
しかし、クラダシのサービスは創業当初から順風満帆だったわけではないそうです。クラダシのコンセプトを話しても企業に取り合ってもらえないという現実でした。関藤社長はこう語ります。
「100戦100敗のような状況でした。現金問屋と間違えられたり、与信が通らなかったりするは当たり前。多くの企業の担当者の方は『いずれそういうことは考えないといけないよね』と思いつつ、すぐに取引を始めるのは無理かな、という反応だったんです」
まだ、日本では企業の環境意識が今ほど高くありませんでした。それは理想論だと一蹴されてしまったのです。そもそも、廃棄されるはずだった食品が再度流通経路によみがえるという仕組みは、製造業から見れば「これだけ商品が売れ残っています」と言っているようなものでもあるため、クラダシのコンセプトを受け入れることは容易ではなかったのかもしれません。取引先が、クラダシで商品が売買されることでブランドイメージが低下すると考える懸念がありました。
それでも、関藤社長は諦めません。関藤社長はこう言います。
「創業してから私たちのビジョンは全く変わっていません。システムの構築や営業活動で苦労したり、利益を得やすいマーケットを他に見つけることもありましたが、途中で脇見を振ることなくここまでやってきました」
潮目が変わります。2015年9月25日、国連総会で『持続可能な開発のための2030アジェンダ』が採択されます。MDGsが2015年に終了することに伴い、次の15年に向けて打ち立てた新たな国際社会共通の目標です。その具体的指針となるのが、SDGs、持続可能な開発目標です。SDGsは、MDGsの成果を批判的に検討し、17の世界的目標、169のターゲット、232の指標を設定しました。そこには、クラダシが実現する未来が克明に言語化されていました。
SDGsが掲げる指標にはフードロスへの言及があります。
目標12 つくる責任 つかう責任
ターゲット 12.3:
2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失など生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる。
ターゲット 12.5:
2030年までに廃棄物の発生防止、削減、再生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する。
これはまさにクラダシがめざす未来そのものでした。クラダシのコンセプトが受け入れられる土壌ができてきました。
SDGsと前身のMDGsの大きな違いはビジネス面です。地球の持続可能性に貢献したいという世界規模での人々のムーヴメントが、企業にSDGsにコミットする意味を与えました。ただ利潤を追求するだけでは企業は評価されません。企業にも、社会に対する高い倫理観が求められるようになってきたのです。
関藤社長の掲げたビジョンに共鳴する企業は一社、また一社と増えていきました。百戦百敗の黒星が一戦、また一戦と白星に逆転していきます。そして何よりクラダシのエシカルなアプローチに共感し、サポートするユーザーが増えていきました。
2000年代初めは政府や自治体のトップダウンで環境保全などが叫ばれていました。しかし、そういった時代を経て、ボトムアップで環境と向き合う人々が草の根で広がっていました。クラダシはそういった人たちの支持を受けてスケールしていくことになります。
やがてクラダシの営業努力は実を結び、現在ではたくさんの商品を取り扱うようになり、ついには企業や行政からタイアップの相談を受けるようにもなります。
賞味期限が近いとはいえ、最大97%引きという値段設定、また売り上げの一部が社会貢献活動団体へ寄付されるというクラダシのサービスは多くのファンを獲得し、現在の会員数は30万人を超えるまでになりました。
商品を買うことが、「ロスされる商品を救うこと」「社会に役立つ運動への寄付」につながる。こういった「社会貢献に気軽に参加できる」というシステムは、社会貢献をしたいという人々の思いに応えることになります。社会にとって良いことをしたいとは思っていても、高いハードルを感じてしまっている人々が実はたくさんいると関藤社長は語ります。
「社会貢献って、なんだか高尚なことのように思われがちなのだと思います。だからそれをビジネスとして成立させたり、気軽に参加できるようにすることには困難もありましたが、私たちが実現させたことは、ユーザーがもともと持っていた望みを叶えるサービスを提供したということなのです。」
クラダシのユーザーは「商品を購入する(フードロスを削減する)」ことを切り口に、社会貢献を実践し、意識を高めることができます。関藤社長は、ユーザーが継続してクラダシのサービスを利用する秘訣を、「明るく、楽しく、元気よく」と語ります。
「正しいことをやっていても、すばらしいシステムを作り上げたとしても、それが楽しく取り組めるものでなければ長続きさせることは難しいです。」
クラダシは「社会貢献したい」という人々が集う場所となりました。その多くがフードロスなどの社会問題に対する意識の高いユーザーです。2021年9月にクラダシの会員に行われた「フードロスに関する意識調査」で、「フードロスが問題になっていることを知っている」と答えたのは全体の98.4%に上りました。クラダシで広報を担当する小平さんは自社のユーザー傾向をこう分析します。
「私たちのユーザーは日本や世界にある社会問題をどのように解決することができるだろうか、ということについて本当にさまざまなことを考えているな、と常々感じています。個人レベルでは解決できないことでも、その現状を多くの人で共有することで道が見えてくることもありますし、それはクラダシ広報担当である自分自身の課題として取り組んでいるところです」
関藤社長が大事にしているのは、大きな視点で社会問題をとらえ、具体的なビジネスモデルとしてその解決に取り組むなかで「ミクロを見つめればマクロが見えてくる」ということだと言います。関藤社長は自身の狙いをこう語ります。
「私たちはフードロス問題について考えるときに、まずは個人にフォーカスするようにしています。『ちょっとくらい良いだろう』という気持ちで起こされる問題行動が国レベルで積み重ねられたときに、それは社会問題に発展します。クラダシはそういった風潮を反転させて『自分にとってもお得なお買い物が他の人のためにもなるなんて』という連鎖を起こそうとしています。そうすればきっとフードロスの問題も解決できます。だって人が作った問題を、人が解決できないわけはないですから」
クラダシのビジネスモデルは、行動の連鎖を反転させることで、フードロスが減少に転じることをめざします。その特徴を一言で言い表すとすれば「三方よし」なのだと関藤社長は語ります。「三方よし」とは、一般的には「売り手よし、買い手よし、世間よし」という意味の言葉です。それを、クラダシに当てはめると、廃棄コストを削減することができる生産者と、廃棄されずに再度流通経路に乗った商品を格安で購買できる利用者がともに利益を享受でき、さらに、クラダシから得られた利益を、NPO法人をはじめとした社会貢献活動団体に寄付します。
2021年2月までに取り扱ってきた商品の数は5万品を超え、現在の会員数は30万人を超えました。最大97%引きもあるプライシングビッグデータを利用した仕入と値段設定、また売り上げの一部が社会貢献活動団体へ寄付されるというクラダシのサービスは消費者からの高い評価を受けました。
その評価を裏付けるように、令和2年度気候変動アクション環境大臣表彰の普及・促進部門において環境大臣賞を受賞しました。続いて、第3回 日本サービス大賞にて、農林水産大臣賞を受賞いたしました。さらに消費者庁が主催する食品ロス削減推進大賞にて消費者庁長官賞を受賞します。環境大臣賞、農林水産大臣賞、消費者庁長官賞という3つの異なる省庁からの表彰を受けており、まさに「売り手よし、買い手よし、世間よし」の三方よしを実行しているサービスと言えるでしょう。
2015年2月にサービスを開始して以来、クラダシによるこれまでのフードロス削減量は18,000トンを超えています。そして、これまで得られた利益をもとに、社会貢献活動団体に対して累計7,400万円以上の支援を行っています。
クラダシは自ら社会貢献を実践するためクラダシ基金を設立するに至ります。地方創生事業やフードバンク支援事業に取り組んでいます。
地方創生事業では、社会貢献型インターンシップ「クラダシチャレンジ」を2019年から定期的に開催しています。人手不足に悩む地方農家へ、旅費交通費、宿泊費や食費などをクラダシ基金で支援し、学生を派遣します。学生が担い手となり、未収穫となっていた一次産品を収穫し、収穫した産品をクラダシで販売し、農家の売上を向上しつつ売上の一部をクラダシ基金に還元するサーキュラーエコノミーを実現しています。学生と地方農家をつなぐエコシステムを実現し、未収穫産品の削減と地域社会の新たな発展を図っています。
フードバンク支援事業では、包装の傷みなどで、品質に問題がないにもかかわらず市場で流通出来なくなった食品を、企業から寄付を受け生活困窮者などに配給する活動を支援しています。フードロスの観点からもフードバンクの有効活用があげられますが、安全性・安定性・公平性の観点から利用促進に至っていない現状があります。クラダシは、クラダシ基金を活用し、全国130団体超のフードバンク団体の支援と食品提供事業者とのハブ役となりフードバンクの課題に取り組んでいます。
こうして自ら社会貢献を実践することで、クラダシはユーザーの社会貢献を「見える」化してきました。多くの企業が漠然と売り上げの一部が寄付されると伝えるものの一般消費者にはその効果がよく分からないということがよくありました。しかし、クラダシは自ら実践することでユーザー自身が社会貢献を実践しているのだと実感を与えることができます。人々の社会貢献への想いに応えています。こういった試みが、「売り手よし、買い手よし、世間よし」の三方よしのサービスを支えているのです。
怒涛の快進撃を続けてきたクラダシですが、次のステップとしてはIPO(新規株式公開)に向けて準備を重ねているといいます。クラダシが一つの目標としてめざしているのは、現在30万人を数える会員を爆増させることだそうです。一体、その先にはどのような未来を描いているのでしょうか。
「私たちの大株主は、この地球です。私たちがIPOから得たいと思っているのは実は資金ではなく、上場によって得られる社会的信頼であり、またそこから売り上げを伸ばすことによって地球の寿命を延ばすことです。」
近年、一般会員や食品製造業とは異なるところから、クラダシのビジネスに注目するプレーヤーも登場しています。それが、地方自治体です。令和元年に食品ロス削減推進法が施行され、フードロスの削減に関する自治体の責任が法律に明記されました。このような流れを受け、クラダシは、大阪府や横浜市など、全国の自治体と連携協定を締結し、官民一体となったフードロス削減のための戦略を検討しています。
「クラダシ前」「クラダシ後」。関藤社長は、日本のフードロス問題が、近い将来そのような切り分け方で語られるようになってほしいと語ります。関藤社長は常に大きな視座を持ちながらも、あくまで地に足のついたところからスモールステップで会社を大きくしました。クラダシの理想が実現する社会が来るまで、足を止めることなく地球のためにまい進してくことでしょう。日本のフードロス業界のパイオニアは留まるところを知りません。
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