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株式会社 日立システムズ

第16回 架純、イベントを成功させる

下村商店の狭い店内。その奥のスペースに、架純、榎田君、そして日比野の3人が並んで座っている。3人にお茶を出し、向かい合って腰かけたのはこの店の主人、下村金治さんだ。いつになく下村さんが緊張しているのは、人知れず威圧感を放っている日比野京一の存在のせいだろう。
しかし、日比野が「営業モード」の優しい声で話し始めた途端、下村さんの表情は緩んだ。
「小さいですが、雰囲気があります…とても良い品ぞろえですね」
「…いや、お分かりになりますか」
「ええ、こだわりぬいていらっしゃる。しかし、それだけにご苦労もあったでしょう」
架純はその会話を聞きながら驚いていた。あのクールな日比野にこんな一面があったとは。そして、同時にこんなことを考えていた。普段の冷淡なキャラクターは実は裏の顔で、本当はこの人はものすごく優しいのだろう。だって、私のこともこうして救ってくれたんだから…。

動画マーケティング、だけじゃなかった。

「さて、本題です。ここにいる2人が以前お邪魔して取材をした際に、どうしても下村さんのお店を盛り立ててみたい、と感じたそうです。若気の至りかとも思っていたのですが、どうも本気らしい。そして私も今日ここにきて、ぜひ力になりたいと思っています…まずは2人のアイデアを聞いてやってもらえませんか」
日比野が丁寧にいきさつを説明したおかげで、2人は少し緊張を解いた状態でプレゼンを始めた。今まで考えた内容をそのまま伝えている形だ。
「ご子息と一緒にやられているそうですね。おそらくご子息はインターネットのことも理解があると思い、このアイデアをまとめさせていただきました」
「ええ、昨日そちらのお嬢さんからもお電話をいただいていて、ぜひとも、とお返事をしたところですが…こんなにいろいろ考えてくださるとは、驚きです」
下村さんの表情は明るかった。
「かすみタイムズはこんな風に、街の商売を立て直す仕事もされるんですか?」
「仕事、というほどでもありません。ご覧のとおり若者ばかりが担当していますし、半分は勉強というところです。しかし、この街に住んでいる人、商売をされている人が、今まで以上に豊かな日々を送れるようになれば、言うことはないと思っています」
日比野の答えは、やはりやさしさに満ち溢れたものだと架純は思っていた。

「さて、下村さん。実は私からもご提案があります」
「えっ!?」
日比野の思わぬ言葉に驚いたのは、その「若者」2人だった。

いつの間に?日比野ワールドに翻弄される2人

「日比野社長、聞いてないです…」
榎田君が場をわきまえず、うっかりそんなことを言ってしまうくらい、日比野の発言は唐突だった。
「お前たちに話す義務はない。俺は下村さんと話したいんだ」
そう言って、日比野はA4一枚にまとめられた簡単なレポートを下村さんに渡した。そこには、以下の2つの提案が並んでいた。

  • 駅前に新設されたショッピングモール内の店舗との提携
  • すしチェーン店「江戸前きんぐ」との提携

「…こ、これは」
「私のもともとの職分はビジネスマッチング、つまり、ビジネスとビジネスの仲人のようなものです。縁のある2つの仕事を結び付けて、新しい価値を提供する手助けをしています」

架純と榎田君の2人は、まさにここからプロの真骨頂を見ることになる。
「先ほど2人が分析したとおり、多くの消費者は大きなスーパーやモールでの買い物を好みます。下村さんの選んだ刃物をこの店で買っていく人は、ごく限られているでしょう。その解決策の一つが動画マーケティング、ではあるのですが、いっそのこと、あのショッピングモールにある店に、下村さんが選んだ刃物を置いてしまうのはいかがでしょうか…というのが提案の一つ目です」
「そんなことが、できるのですか?」
「ええ、モールに出店しているキッチン用品店の一つは私のクライアントなのです。モールに来るのは今や若者だけではなくなっています。むしろ駐車場に車を止めてじっくり買い物をしてくれるのは中高年のお客さんたちですから…セラミックの包丁よりも下村さんの選んだものが喜ばれるんじゃないかと思いまして。それに、あの用品店はチェーン展開もしていますから、お望みであれば今まで以上に業容を広げられます」
「…すごい」
架純と榎田君は顔を見合わせた。むろん、下村さんも話を聞きながら何度も生唾を飲み込んでいる。

「2点目は、すしチェーン店との提携です。『江戸前きんぐ』をご存知ですか?」
「ええ…もちろん」
「あの店は回転ずしの形態をとりつつ、中にいる板前は腕利きを揃えています。あの店で使われている包丁のプロデュースをお願いしたい。いずれはその包丁を一般消費者向けに手広く生産販売しても良いと思います」
「ぷ、プロデュース?」
「ええ。失礼ながら、下村さんご自身はそろそろ引退を検討しても良い時期です。ご子息に経営をゆだねるにあたって、下村さんの目利きを不労所得化できれば、下村さんもさぞかしご安心でしょう」

「す、すごい…いつの間にこんなことまで考えたんですか?」
架純は驚きの色を隠せない。
「…昨日、偶然あすなに会ってな」
「あ、あすな先輩?あの人のアイデアなんですか?」
「そうじゃない。新しい鞄を見せびらかしてきたんだ。なんとかっていうモデルがプロデュースしたアイテムだ、と。ミーハーなあいつのやりそうなことだが…本物がプロデュースしたものは、確かに良い品になることもある。下村さんの話を朝聞いていたので、上手くいくんじゃないかと思って『江戸前きんぐ』の社長に話をしてみたら、前向きに検討したいとのことだった。寿司チェーン店にとっては包丁は消耗品だから、安定して安く買える先があればありがたい。他方、下村さんにとっては、プロデュースした包丁をたくさん使ってもらって意見を集めればより良い包丁を作れるようにもなる」
日比野の話の途中、すすり上げる声が聞こえた。下村さんが、いつの間にか涙を流していた。
「…下村さん?」
架純は思わず下村さんの肩に手をかけた。70歳を過ぎた下村さんの肩は想像以上に小さく、弱弱しかった。この両肩で、まがりなりにも60年以上続く看板を守り続けているプレッシャーを、架純はその時初めて想像した。

「日比野さん…ありがとうございます。せがれのことまで気にかけてくださるなんて、思ってもいませんでした。せがれの代で店をつぶす決断をさせたくなくて、いっそのこと自分で…と考えていたんです。しかし、日比野さんのアイデアのおかげで、安心して身を引けます」
「ええ、あとひと踏ん張りです。よくここまで頑張ってこられましたね」
下村さんは、架純が支えているその肩を、さらに大きく震わせた。

 

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