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株式会社 日立システムズ

第7回 帰ってきたあすな、ペルソナを組み立てる

旧友との語らい

「どうだ、久しぶりのうちのオフィスは」
そう言いながら、安田は両手に持ったコーヒーカップの一つを、日比野に手わたした。
H社本社にある会議室。日比野にとってここは思い出の場所でもある。今、目の前に腰かけている安田は、ともにビジネスを切り開いた仲間でもあり、そして、お互い切磋琢磨しあうライバルでもあった。
「ああ、まったく変わっていない…ただ、お前は貫禄がついたな」
「はははっ、それは日比野も同じだ…」
ほんのわずかな雑談のあと、日比野は本題を切り出した。

「さて、御社の道草さんのことだが」
普段は決して「さん」などつけないが、相手の会社の従業員であることを意識するように、日比野はそんな言葉づかいをした。
「いざよい荘に行かせた。沼田さんと一緒に、知恵を絞ってもらおうと思ってな」
「さっそく行かせたのか?お前らしいな。君のところで立ち上がるであろう『いざよい荘』の再生プランと、僕らが手掛けるN温泉の再ブランディング。この組み合わせならきっと上手くいくさ」
安田が一度は手を引くことを決めたN温泉の再開発プロジェクトは、ビジネス・キューピッドとのコラボレーションという形で新たに息を吹き返すことになるのだった。
「……」
日比野は黙ってコーヒーをすする。その表情から、安田は久しぶりに獲物を狙うような勇ましい日比野の眼光を見て取り、「ふっ」と笑った。
「またこうして、一緒に仕事をする日が来るとはな」

安田と日比野がそんな話をしているころ、あすなはナミとともに電車の中にいた。
「社長って相変わらず人使いが荒いですよね…まったく」
「ふふふ、本当ね。でも仕方ないわ。事業の再生は時間との戦いだから」
そんな話をしながら、30分ほどでN温泉駅に着くと、沼田が迎えに来ていた。
「すみません…この度は遠いところをわざわざ」
沼田はそう言って頭を下げた。
送迎用のワンボックスカーに揺られながら、あすなは窓の景色に見とれている。
「いいところですね…秋になると紅葉が綺麗そう」
「ええ、この辺りは秋の観光客が確かに非常に多いです…道草さんはN温泉に来るのは初めてですか?」
「そうなんです。だからもう、すごく楽しみで!」
あすなの無邪気な答えに、ナミと沼田が苦笑いする。
「あすなちゃん…悪いけど」
「はい?」
その声に振り返ると、ナミは優しい笑顔のまま、厳しいことを平然と言ってのけた。
「温泉に浸かってのんびりしよう…なんてこと今日は期待しないほうが良いわ」

初めて考える「ペルソナ」。あすなは沼田の信頼を得られるか?

「いざよい荘」に着くと、ナミとあすなは宿泊用の部屋ではなく、会議室に通された。「あれっ?」と思うあすなをよそに、ナミと沼田は淡々とミーティングの準備を進める。
「申し訳ありませんが、接客や指示出しなどありますので、私はたまにしか顔を出せそうにありません。夕食の時間が終わったらゆっくり話せると思いますが…ご入用のものがあればいつでもお電話ください」
そういって、沼田は会議室を去っていった。
「さぁ、あすなちゃん、始めましょう」
ナミはホワイトボードに「N温泉観光客のペルソナ」と書いた。
「ペルソナ…勉強してきた?」
「は、はい…対象となるサービスや製品を購買する典型的な顧客像について、性別・年齢・収入などだけでなく、趣味嗜好や行動パターンなども含めて具体化したもの…です」
あすなはどこかの本で読んだ、ペルソナという言葉の意味をそのままノートに書き写していた。

「ふふふ、ちゃんと勉強したのね。じゃあ、今から時間をとるわ。15分で『N温泉観光客のペルソナ』の要素を、ホワイトボードにできるだけ書いてみて」
「えっ?一人で、ですか?」
「私は今日、手伝いで来ただけよ?あなたが考えるの」
そう言うと、ナミはノートパソコンを開いて、何やら作業を始めてしまった。
すっかり観光客気分で来てしまっていたあすなは、あまりの展開の速さに戸惑いながら、それでも「なんとかしなきゃ」とホワイトボードの前に立った。

そして、15分後。
あすなが書き上げたのはこのようなペルソナだった。

  • 42歳 女性。既婚、子供あり。東京都〇〇区在住。
  • 夫が車(一番売れているあのハイブリッドカー)を所有している。
  • 子育ての合間を縫って、昼のドラマを見るのが好き。
  • 子供は上が14歳男子、下が11歳女子。
  • 好きな男性タレントは○○さん。

「その場で一生懸命ひねり出した、という感じね…でも頑張ったわね」
ナミはホワイトボードを見て、まずそう言った。
「ど、どうですか?」
そうあすなが聞くと、ナミは「そうね…」と少し考えて、こう聞き返した。
「…例えば、この世帯の年収は、どれくらいだと思う?」
「…えっ?」
「都内に住んでいてマイカーを持っているとなると、かなり稼いでいないといけないわね。しかも、この女性は昼ドラマが好き、ということは共働きではない。会社の役員とかお医者さんとか…かなりアッパーな男性の奥様ということになるわね」
あすなは戸惑っていた。自分では「どこにでもある平凡な幸せな家庭」を想像してペルソナを作ったつもりだったのだ。
「さらには、子供は14歳と11歳…上の子も受験があるし、都内の家庭なら下の子もおそらく中学受験をするでしょうね…本当にこの家庭が、温泉に泊まりに来ると思う?」
「…来ないかも」
「ふふふ…いいのよ、間違いを繰り返しながらペルソナは作られていくものなの。さあ、もう一度やるわよ」

N温泉に誰を呼びたいのか。

あすなのペルソナ作りは、結局その日の夜になっても終わらなかった。
「ごめんなさい…なかなか上手くできなくて」
「いえ、良いんです。こうやって試行錯誤してくださるだけでありがたい」
自分の営む旅館が経営危機に直面しているにも関わらず、沼田は前向きな姿勢を崩すことはなかった。
「今のところ、ペルソナの候補は2つまで絞られています」
あすなは、「友達とともに卒業旅行に来る大学生」と「子供と孫を連れてくるアクティブシニア」の2パターンのペルソナを磨き上げていた。
「卒業旅行、となるとシチュエーションが限られてしまいますが、それでも良いのですか?」
沼田は首をかしげながら聞いた。

「はい。むしろペルソナは象徴的な『たった一人の』顧客をイメージすることが大事なのです。卒業旅行だったら何人組で来るのか?だとしたら部屋の間取りや内装はどんなものが最適か?食事のメニューはどうすべきか?いろいろなアイデアが生まれますよね」
ナミの答えに、沼田は納得したようにうなずいた。
「なるほど…確かに高齢者の方に来ていただくのも大事ですが、個人的には若い人に温泉に親しんでもらいたいですね…」
30代の沼田は、やはり若年層へのアプローチを考えていたようだ。
「私も同感です…ただ、これからクラウドファウンディングで支援者を集めることになった場合、学生が投資に応じるケースは必ずしも多くありません。20代の社会人にターゲットをずらすほうが良いのではないかと思います」
ナミの提案に、あすなはひそかに「なるほど…」と思っていた。
「じゃあ、明日は引き続き若い人のほうでペルソナをもっと作り上げてもらうことにして、私は具体的なリノベーションのプランを考えます」
沼田の一言で、その日の検討は終わった。旅館に着いてから、もう8時間が経っていた。

へとへとになったあすなは、ようやく、沼田が確保してくれた部屋に入った。
「…わぁ、広い」
そう感嘆の声をあげたあすなだったが、ふと、胸の中を違和感がよぎった。しかしそれが何なのか、その時のあすなにはまだ、わからない。
「…なんだろ、今の?」

 

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