随分前ですが、友人の途上国駐在員M君の一時帰国時に、居酒屋で飲み会をしていたときの話です。
ほろ酔い気分になってきたM君が、ぽつりぽつりと愚痴を言い始めました。
するとM君は、気になる話をし始めました。彼曰く、現地の従業員は嘘ばかり報告して不誠実で、挙げ句の果てに不正まで働き、人間不信に陥ってしまったと言うのです。
M君の仕事は事務方の統括部長で、購買関係も担当していました。
ある日、M君が本社からの業務監査に備えて、伝票や書類のチェックをしていたときのことでした。普段は忙しいので、あまり内容を気にせず決裁していたM君でしたが、久しぶりにじっくり伝票をチェックしました。
「あれぇ?この発注依頼書、何か変だな」
それは、M君が決裁した伝票でしたが、なぜか、決裁後に発注先・発注量・単価が書き換えられていたのです。しかも、単価が当初よりも若干高めになっていました。
M君は、購買マネージャーのSを呼んで、
「この発注、何か変更があったのか?俺が決裁した後に内容が変更されているが、報告してくれたかな?」と、質問をしました。
すると、Sは少し慌てた様子で、
M君はSのことを信頼していたので、「なるほど。そうだったか。そりゃ仕方ないな。」と思って、不問に付したのでした。
数日後、Sの部下のTが、沈痛な面持ちでM君のオフィスに入ってきました。
それだけではなく、Tは、社内のマネージャーたちの中には、Sと結託して備品を横領したり在庫品を横流したりしていると、M君に密告したのです。
そう言って、密告者のTは、その日のうちに退職してしまいました。
「お伽の国出身」のM君は、ショックで茫然としてしまったそうです。
M君は、すぐ上司の拠点長に相談しました。その結果、専門家などに依頼して詳しく実態を調査しようということになりました。
数週間後、調査の結果を知った駐在員全員が「愕然」としてしまいました。
複数のマネージャーが組織的に不正発注・備品横領・横流しなどに関与していて、外部の犯罪集団ともつながっている可能性を示唆する情報もあったそうです。しかも、多くのマネージャーたちが、そのことを知っていたようなのです。
このとき初めて、人の良いM君は、信頼していた部下たちが自分を騙し続けていたことを知ったのです。
そして、知らないうちにM君の事業所に不正がはびこり、食い物にされていたのです。
被害は、莫大な金額になっていたそうです。
M君は、それ以上詳しい内容を語ることはありませんでしたが、是正措置に2年以上費やしたとのことでした。
これは、本当に悲しい現実ですが、途上国の事業所では珍しいことではありません。
汚職や不正が常態化している国々では、日本でマネージメントするときとは違って、「監視しているぞ!」ということを、従業員に意識させる仕組みが必要です。
伝票チェック、稟議書チェック、発注管理、経費管理、在庫管理などの精度が甘いと、そのこと自体が確実に不正の温床になります。
また、不正の「兆候」にも十分に注意を払っておく必要があります。
社内の不正は、羽振りの良い従業員、担当者の突然の退職、備品の異常発注、異常な経費計上、在庫差異など、さまざまな形で「兆候」として現れてきます。
そういった「兆候」を放置し続けると、「管理の緩い、何でもありのソフトターゲット」と見透かされて、不正がエスカレートしていくでしょう。最悪の場合は「外部の犯罪集団」に介入され、民間企業には根絶が非常に困難な「抜き差しならない状態」になる場合もあります。
「不正の兆候」は、初期の段階では管理上の「ささやかな異常値」として現れてきます。
当たり前の話ですが、異常は「何が正常か?」が分かっていないと、感知することができません。そのためには、しっかりした「評価のものさし」となる管理基準・作業標準を構築し、適切に稼働させ、モニターすることに心血を注ぐことが重要です。
更に、駐在員に必要なのは、異常を「異常として」捉える「感性」です。
さまざまな異常現象について、それが発生する「背景」や「原因」を推し量り、迅速な対処に結び付けていく「想像力」を磨いておかなければなりません。
そういった日々の愚直な努力が、大切な従業員に「罪を犯させない」「嘘をつかせない」という、強いメッセージとなって浸透していくのです。
[山本 優 記]
※ コラムは筆者の個人的見解であり、日立システムズの公式見解を示すものではありません。
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