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講演レポート
わかる事務所
代表
玉樹 真一郎
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1977年生まれ。東京工業大学・北陸先端科学技術大学院大学卒。
プログラマーとして任天堂に就職後、プランナーに転身。「Wii®」の企画担当として、最も初期のコンセプトワークから、ハードウェア・ソフトウェア・ネットワークサービスの企画・開発すべてに横断的に関わる。2010年任天堂を退社。青森県八戸市にUターンして独立・起業、「わかる事務所」を設立。全国の企業や自治体などで講演をおこなうほか、コンサルティング、ウェブサービスやアプリケーションの開発等を行いながら、人材育成・地域活性化にも取り組む。
著書に『コンセプトのつくりかた』『「ついやってしまう」体験のつくりかた』(いずれもダイヤモンド社)がある。
今回は、わかる事務所代表の玉樹真一郎氏に、人の心をつかむ「体験のデザイン」をご紹介いただきました。著書『「ついやってしまう」体験のつくりかた』を下敷きに体験のデザインを紐解き、プレゼンへの応用を考えた内容になっています。ゲームを通して「わかる」のデザインメカニズムやプレゼン資料の組み立て方など、多くのメソッドが詰まっています。
どのように人の心を動かしたら、喜んでもらえるのでしょうか。人の心を掴んで離さないゲーム開発の考え方をベースに「体験のデザイン」=エクスペリエンス・デザイン(XD)を考えます。ゲームの「体験のデザイン」メソッドからプレゼンの極意を紹介します。
人の心を掴む、体験のデザインとは?
体験とデザインを組み合わせた言葉、「体験のデザイン」。そもそも、体験とはどんなものでしょうか?
上記のすべてが体験。体験の「体」の字から体を動かさないと体験ではないと誤解されがちですが、心の動きも体験に含まれます。ゲーム業界では、これらの体験をデザインすることが意識的に行われ続けているのだと言います。スマホを一人一台所持する現代、体験のデザイン(XD、エクスペリエンス・デザイン)がビジネス上でも重要な概念になってきています。
プレゼンとは、「どんな風に人の心を動かしたら喜んでもらえるのか」を考えることです。つまりプレゼンは人の心を動かすこと、「体験のデザイン」が重要になるわけです。
この体験のデザインは、3つのキーワード「直感・驚き・物語」を軸としています。
今回は、体験のデザインの基本的な構造である直感・驚きのデザインについて紹介いただきました。
▼世界一有名なゲームから見える、直感のデザイン
これはスーパーマリオの最初の画面のイラストです。ゲームにとっては一番大切なルールや価値観を伝えなくてはならないのが最初の画面。ゲーム機をヒットさせた立役者、「スーパーマリオブラザーズ」の最初の画面から読み取れるものは何でしょうか? なぜ、このゲームが世界中で売れたのでしょうか? ヒットの理由を企画やデザインの観点から洗い出していきました。
初めに、このゲームは何をしたら勝ちなのかという問いかけがありました。会場からは「クッパを倒したら勝ち」、「ピーチ姫を助けたら勝ち」などが挙げられましたが、「体験のデザイン」の観点では誤答なのだと言います。
ここで、ヒントが追加されました。例えば、スマホの画面はぱっと見てどこがタップできるのかを理解できたり、映画のポスターは主演俳優が一番目立つようにデザインされていたりするなど。この画面が「何をすれば勝ちか?」を伝えようとしているならば、この画面で最も目立っているものにコミュニケーションを託しているはずです。
最初の画面をもう一度見ると、赤い帽子をかぶったマリオが目立っています。ここに「体験のデザイン」のポイントがあるようです。
マリオは、「なぜ、画面の左にいて、右を向いているのか?」。デザインは理屈であり、適当に左に、右を向かせて配置したわけではないそうです。マリオの背景にも注目すると、左側には山がそびえ、右側には明るい緑の低い草があり、左側が窮屈にも見えてきました。
答えは、「右に行く」と勝ち。このようなルールが自然と理解できるように、画面がデザインされています。アートとは違い、理屈と意図を持ってつくられているのがデザインなのです。
人は、なぜゲームで遊ぶのでしょうか? 実は「面白いから」ではないのだそうです。そもそもプレイヤーは、ゲームをはじめてマリオを右に歩かせただけでは、まったく面白いと感じていません。ゲームの遊び方が「わかった」から遊び、遊んでいるうちに面白くなっていくという順番なんですね。
ここで、新しい問いかけ。「商品を理解する(わかる)」ことと「商品の良さを伝える」ことのどちらが大事ですか? やはり、商品を理解しなくてはどのように関わればよいのかユーザは判断できません。ぱっと見た瞬間に何をすればいいのかが直感的にわかることを優先するべきなのだということです。
ここから、こうした「直感のデザイン」を、より具体的にプレゼンに応用する方法を考えていきました。
▼プレゼンを面白くするポイント
聞き手の集中力は、最初と最後に高くなると言われているそうです。これを学習心理学では「初頭効果(系列位置効果)」と呼びます。そのため、プレゼン冒頭では自己紹介などで使わずに大事なことを使うべきなのだとか。
プレゼン資料には、スライデュメントと呼ばれるものがあります。スライドだけれども、情報が詰め込まれ過ぎてドキュメントになってしまっているものを揶揄しています。なんでもかんでも情報を詰め込むと、わかりにくいプレゼン資料になってしまいます。情報が多くなる場合はマンガのコマ割りのように分割して情報をスライドにまとめることが必要だと言います。
そして、直感のデザインをプレゼン資料に簡単に応用する方法は、接続詞でつなぎ未来を予測させるような骨子を作ることだそうです。ここで注意したいのが、「次に」を使用してはいけないということ。この接続詞だけはそのあとに何が来るのか予測させる力を持っていません。逆に言えば「次に」を削るだけでもプレゼン資料は一気に面白くなります。
まとめると…
直感のデザインでプレゼンテーションをより良くするには
自分の考える良いこと、面白いことを話せば相手は理解するはずだというのは、プレゼンターのエゴ。何よりも、相手が「わかる」ことが大事だと言います。そのようにプレゼンを考えるだけで一気にプレゼンは面白くなるそうです。
▼人はなぜゲームを遊び続けてしまうのか?
なぜ、あんなに眠くなってウトウトしてまでゲームを遊び続けてしまうのでしょう。ここでは、ドラゴンクエスト1を事例に紹介されました。
しばらくストーリーを進めていった後に、たどり着いた街の町民のセリフ。
「おいで、ぼうや。パフパフしてほしいなら50ゴールドよ。」
なぜ、シリアスな冒険の中に「下ネタ」を入れたのでしょうか? もちろん、ここにもデザイン(理屈)がありました。
ゲームを通して操作方法を直感的に学びながら遊べますが、ずっと「直感のデザイン」が連続します。予測と理解が続く、いわば「学ばされっぱなし」の状態です。「直感のデザイン」の連続はテンションを上げてくれますが、所詮は同じこと(学習)の繰り返し。同時に、疲れと飽きも増していくと言います。
科学的にも証明される疲れと飽き(馴化と般化)を解消させるために、デザイナーは意図的に「パッと見た瞬間に、ギクッとするもの」を放り込んできます。そういうふうに日常を壊す意味で「タブーのモチーフ」と呼んでいました。こうした「驚きのデザイン」によってアクションゲームに比べてプレイ時間が長いRPGも最後まで遊び続けてもらうことができるとか。
プレゼンでも面白い話をずっと続けることではなく、最後まで集中力を切らさずにゴールまでたどり着かせることが大事。そのためには、タブーのモチーフのような驚きを「直感のデザイン」の連続に組み込んでいきます。基本的には予測が当たるけれど、たまに外れるという構造がプレゼン上手になるためのコツだそうです。
つまらない企画と明らかな誤りを冒頭に説明し、それを否定する。ほかにも失敗談を語る、嘘をつくなど、こうした予定調和を崩す話も「驚きのデザイン」になります。そこにタブーのモチーフをしっかり盛り込むと良いと言います。例えば、沈黙を上手く入れ、相手の予測を裏切ることで聞き手の集中力を上げる効果があるそうです。そのため、プレゼンも間に沈黙を適度に入れる方がいいと言います。
まとめると…
驚きのデザイン
ゲームのさまざまな工夫を「体験のデザイン」として読み解いてきた、今回の講演レポート。誰もが知るゲームだからこそ、人の心を動かすデザインの理屈がわかりやすかったと思います。そして、今すぐ使えるプレゼンのコツも発見できたのではないでしょうか。皆さんも「わかる」から「驚き」を与えられるように、今回のプレゼン技術を実践して、人の心を動かす新しいテクニックを、ぜひご活用ください。
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