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(マンガの続き)
ナミ「今日は損益計算書ではなくて、貸借対照表を見てみましょうか」
ナミはそう言うと、貸借対照表のコピーをあすなに見せた。貸借対照表とは、会社の財政状態を把握するために用いられる決算書の一つである。
あすな「大学でも教わったけど…ごめんなさい、あまり詳しくは分かってないんです」
ナミ「うふふ、いいのよ。まぁ、まずは見てみましょう…私も今初めて見るのだけど」
株式会社モリモリ青果店 20XX年3月31日 |
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借方 | 貸方 | ||
現金預金 | 2,000,000 | 買掛金 | 4,000,000 |
売掛金 | 1,500,000 | 短期借入金 | 4,500,000 |
建物 | 1,000,000 | 長期借入金 | 2,000,000 |
土地 | 5,000,000 | 資本金 | 3,000,000 |
備品 | 500,000 | 利益剰余金 | 11,500,000 |
長期貸付金 | 15,000,000 | ||
借方合計 | 25,000,000 | 貸方合計 | 25,000,000 |
あすなは食い入るように貸借対照表を見ている。
ナミ「…ちょっと難しいと思うけど、この表を見て違和感があったら、何でも言ってみて?」
あすなを促すナミ。
あすな「えっ?ナミさんにはもう何か見えているんですか?」
ナミ「ええ…思ったとおりだったわ」
何かのヒントになるかと思い、ちらっと盗み見たナミの表情は、思いのほか険しかった。よほどのことが隠されているということだろうか…。しかし、あすなの乏しい見識から見ると、この決算書に異変は見当たらない。
あすな「…ナミさん、やっぱりこの会社って…儲かってるんですよね?」
そうあすなが言うと、ナミは「ええ」と頷いて、「利益剰余金」と書かれている欄をさした。
ナミ「それは間違いないわ。損益計算書を見ても利益体質だし…ほら、ここに利益剰余金があるでしょ?しっかりと利益が蓄積されているわ。数字の上ではね」
あすな「えっ?」
あすなは、ナミの言った「数字の上では」という言葉が妙に引っかかっていたが、ナミは表情を変えない。
ナミ「さあ、他に気づいたことはあるかしら?」
あすな「えーっと…あれ?この建物って…安すぎませんか?普通は100万円の建物なんてないですよね?」
そういうと、ナミは少し表情を和らげた。
ナミ「うふふ…正解!と言いたいところだけど、違うわね…あすなちゃんは『減価償却』って知ってる?」
あすな「げ、げんかしょうきゃく?」
あすなにも聞き覚えがあるが、何の事かまでは覚えていない。
ナミ「このお店の建物はもともと3,500万円だったのよ。建ててから毎年100万円ずつ、減価償却をして費用化しているの。建物ってもともと長年使うためのものでしょ?だから、長年にわたって少しずつ費用にしていくわけ。この会社の場合は、35年かけて、100万円ずつということね」
あすな「それを、減価償却って言うんですね」
ナミ「そうよ。だから今は100万円として決算書に載っていても、おかしくはないわ…数字の上ではね」
あすな「えぇっ…また?」
あすなもさすがに感づいていた。ナミが同じ言葉を2度使うということは…何か狙いがあってのことに違いない。
しかし、その「何か」が何なのか、いくら考えても分からない。悩んだ挙句、半分はヤケで、残り半分は冗談のつもりで、あすなは
あすな「あー、分かった!!ナミさん…この決算書、ウソなんでしょ?」
と言ってみたのだが、ナミは意外にも「うふふ…近いわね」と言った。
あすな「えっ?近いの?」
ナミ「ええ…先に結論を言うとね、ウソをついているわけではないのよ。でも、この貸借対照表には、気をつけてみなければいけないポイントが、あるの」
ナミはそう言いながら、「長期貸付金」のところに赤ペンでマルをつけた。
ナミ「今回は時間がないみたいだから、思い切って言うわね。この金額を見て、何か感じない?」
あすなはしばし考える。
あすな「うーん…1500万円の貸付金…ちょっと大きいお金ですよね?」
ナミ「そうなのよ。モリモリ青果店は一応会社の形態をとっているけど、実態は個人事業に近い。…普通の人なら、1500万円なんて貸さないでしょ?」
あすな「ああ…確かに…」
ナミ「これは私の勘でしかないけど、このお金は、きっと返ってこないものよ」
あすな「えっ?借りたお金を返さないなんて…そんな悪い知り合いがいるんですか?」
ナミ「ううん、そうじゃないの。おそらく…この貸付金の借主は、森社長自身、あるいはその家族ね。おそらく生活費を補填したりするために、会社のお金を使っているのよ。そしておそらく…今の森社長には1500万円を会社に返済することはできないわ。そんなことができるなら、私たちに助けを求める必要がないもの」
ナミは「おそらく」という言葉を何度も繰り返しながら説明した。憶測の域を出ないものの、ナミの推理は一応、話の筋は通っている。
あすな「えーっと…ということは…」
ナミ「この1500万円が、実質的に価値のないものだとすると、資本金と利益剰余金を足した『自己資本』は、実質的にマイナスということになる…債務超過ね」
いくら2件のコンサルティングを経験したとはいえ、「債務超過」という言葉の響きは、まだ大学生のあすなにとっては十分に衝撃的なものだった。
あすな「…ナミさん、そ、それって…」
ナミ「ええ、かなりまずい状況ね。だからこそ、安田はあの物件に目をつけた。」
あすな「コンビニにするために…?」
ナミは「ええ」とうなずく。
ナミ「森社長はお父さんの代からあの土地に住んでいるわ。だから帳簿には500万円と安くかかれているけど、あの土地には含み益が十分あるはず。あの土地を売れば八百屋は閉店しないといけないけど、同時に一応の資金も手に入るわね」
あすな「じゃあ、土地を売ってコンビニにすれば、やっぱり森社長は安泰なんじゃ??」
ナミ「ところが、そうとも限らないのよ。コンビニのフランチャイズに加盟するためには、加盟金や店舗改装費用を負担しなければならない。土地の売却金額がいくらかは分からないけど、場合によっては森社長の手元にお金はほとんど残らないかもしれない…」
あすな「えぇっ…そんなぁ…」
ナミ「もちろん、そのあとコンビニが繁盛すれば、森社長は生計を立てられるけど…コンビニの収益金の一部はコンビニ本部へ支払うし、24時間営業では体力的に厳しいからアルバイトも雇うことになるし…先行きはそう簡単ではないわね」
謎を解いたナミの表情は、険しかった。そしてその時ようやく、あすなは先ほど日比野が言っていた「問題は、儲かるのが誰か、だ」という言葉の意味が理解できた。
あすな「やっぱり…私たちが救わないと、ダメなんだ」
何の気なしに出た、あすなの言葉。ナミはその言葉に「そうね」と強く頷いた。
ナミ「頼もしいわね。あすなちゃんも、少し一人前に近づいてきたかしら?」
あすな「えっ?そうですか?」
ナミ「でも、『私たち』って言っちゃうあたりが、まだまだよ。そこが可愛いんだけどね」
そう言ってナミが笑うと、少し場がなごんだ気がした。
しかし、ドアが開き日比野が部屋に戻ってくると、その空気は再び緊張感で包まれた。日比野が椅子に座るや否や、あすなは尋ねた。
あすな「しゃ、社長!安田…さんの用件って、何でしたか?」
日比野「どうやら…安田がお前を人質に取ったらしい」
あすな「え、人質?」
あすなには何のことだか分からない。
日比野「モリモリ青果店の件から手を引いて、うちの会社に戻って来い。さもなくば、あすな…お前の内定も危うくなるといわれた」
日比野はそう言うとメガネを取り、レンズの汚れをやけに丁寧にふき取った。あすなはますます混乱した。
あすな「な…内定なんて、出てませんよ?だいたい…あの安田って人は、何者なんですか?」
ナミがさっと席を立ち、部屋を出た。それは、何かに感づいて、日比野とあすなを2人きりにしようとした動きであるかのように、あすなには思えた。
静まり返る部屋。日比野はメガネをかけなおし、
日比野「俺は3年前まで、あいつと同じ会社にいた。…お前が先日、面接で派手に啖呵を切った、あの会社さ…まだ通知は届いていないようだが、お前は内定をもらえたらしいな」
そこまで言われて、ようやくあすなは全てを理解した。
あすな「安田さんって…H社の人だったの…?」
つづく
安田の正体がついに氷解し、戸惑うあすな。安田は八百屋にコンビニへの商売替えを提案したわけですが、コンビニの店舗数は最近ますます増加傾向にあります。そこで問題。全国のコンビニチェーン店の店舗数(2013年12月末現在)よりも「多いもの」を、以下の3つから全て、選んでください。
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